1988年に発生した「巣鴨子ども置き去り事件」をモチーフに、社会から取り残された子どもたちの生命力あふれる姿を描いた『誰も知らない』。「子どもの取り違え」をテーマに、「親子の関係性を築くのは時間か? 血か?」という問いを投げかけた『そして父になる』。そのときどきに惹かれる題材をオリジナル脚本に落とし込み、新しいホームドラマに挑戦し続けてきた是枝裕和監督が今回新たに撮ったのは、犯罪を生業に都会の片隅で暮らす一組の家族だ。最新作『万引き家族』についてひもときつつ、20年以上映画をつくり続けて感じたことなどを聞いた。

新しい役者と組むことで広がる映画の可能性

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

Q:本作は2016年ごろ、親の死亡を隠して年金を不正に受給していた家族の事件から着想を得たそうですね。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

きっかけはそうですが、他のさまざまな気になることも複合的に絡み合っているんです。例えば『そして父になる』を撮ったころは、「女性は子を産んだら自然と母親になる」という実感がありました。その後、さまざまな本や実際の話に触れ、「女性も男性と同じように、産んだからといって母である実感を必ずしも持つわけではない。持つべきだという考えは、ある種の抑圧になる可能性がある」ということがわかってきた。それで「子は産まないけれど母になろうとする」という話を撮ろうと思いました。それとは別に「家族の万引き」という題材もあって、自分の中に溜まっていたものを一度溶かして描き下ろしたという感じです。

Q:完成披露試写会の挨拶で「今回は肉体をきちんと撮ろうと思った」と発言されましたが、実際に夫婦の性愛のシーンがとても印象深かったです。

直接的な性描写はこれまで避けていたので(笑)、今回は挑戦しようと思って。リリー(・フランキー)さんと(安藤)サクラさんのラブシーンや松岡(茉優)さんのアルバイトのシーンは、実際に撮ってみて、役者の覚悟あってのものだなと感じました。また、(樹木)希林さんが自分を捨てた夫の実家に行って元夫とよく似た息子の手を握ったり顔を見つめたりする表情にも、性愛が漂っていると思います。それは意識的に希林さんがやっているのですが。

Q:安藤サクラさんや松岡茉優さんなど初めて組む役者を迎えて、あらためて感じたことはありますか。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

今回は、僕と作品と役柄と役者というのが非常に稀有なタイミングで出会えたということを現場で強く感じました。特にサクラさんは自分の子どもを産んだ直後に出てくれたことが大きい気がします。

後半、サクラさん単体の長回しのシーンがあるのですが、実は相手役の台詞は教えないで撮ったんです。いつも子役に行なう口伝えのような方法で、ホワイトボードに相手役の台詞を書いて本人に見せていった。そのときそこに座っているのは、安藤サクラさん本人ではなく、完全に役の信代で……本当に圧倒されました。そのような方法で撮ると、多くの役者は本人に戻ってしまう。素に戻ってしまうから、よりドキュメント的にはなるけれど、結局それほど面白くはないんです。(インタビュー前編はここまで)

取材・文 堀 香織

是枝裕和(映画監督・テレビディレクター)
1962年、東京生まれ。早稲田大学卒業後、映像制作プロダクション「テレビマンユニオン」に参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手がける。95年、『幻の光』で映画監督デビュー。2004年、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。13年、『そして父になる』でカンヌ国際映画祭審査員賞受賞。14年に独立し、製作者集団「分福」を立ち上げる。カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した最新作『万引き家族』は18年6月8日公開。

『万引き家族』
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:細野晴臣(ビクターエンタテインメント)
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ 松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ 高良健吾 池脇千鶴 / 樹木希林
配給:ギャガ