アニメ化や実写映画化もされた空知英秋の人気漫画『銀魂』の登場人物のひとり、長谷川泰三のことを、人は“マダオ”と呼ぶ。その意味は……。

「“ま”るで“だ”めな“お”っさん」

この言葉を初めて聞いたとき、胸にグサッと刺さるものがあったのは、こちらもまた、既にマダオの資格十分すぎるほどのおっさんだからか……。

しかし、そんなマダオだって頑張ってはいるのだ(結果はともかくとして!?)。

折しも5月末から6月にかけて、そんなマダオの再起を促す映画が続けて公開される。

どうかマダオの心の叫びを聞いてくれ!(うわ、こんな風に書くと、何かウザッ!?)

競輪選手として再生すべく“もがく”マダオの『ガチ星』

映画『ガチ星』(C)2017空気/PYLON

5月26日より新宿K's cinema、小倉昭和館ほかにて全国公開されたばかりの『ガチ星』。

主人公は39歳の濱島浩司。戦力外通告を受け、ギャンブルと酒におぼれて妻子に逃げられた元プロ野球選手が、一念発起して競輪選手をめざすというものだ。

映画『ガチ星』(C)2017空気/PYLON

まずは競輪学校に入学した濱島が、厳しい特訓にもがき苦しむ中、それまでの自堕落的な過去がインサートされていく。

ただし、興味をそそられるのは現在進行形の学内シーンで、何せ20も年下の連中と一緒に特訓を受ける濱島には、彼らほどの体力もなければ気力もなく、そのくせ傲慢な態度を改めようともしないのだから、彼らのイジメに遭ってもやむなしだ。

映画『ガチ星』(C)2017空気/PYLON

しかし、学内で出会ったひとりの同級生・久松がひたむきに自主トレを続ける姿に引き寄せられるかのように、濱口の中で“何か”が少しずつ変わっていく。

そして卒業し、ようやくプロの競輪選手になれた彼ではあったが、未だ根本的に改心し切れているわけではないので、当然のように試練が……。

そういった試練の数々と対峙していく濱口を応援できるか否かが、見る側のキモとなっていくであろう。

象徴的なのは、競輪学校ってこんなに厳しいところなの!? と仰天するほどのスパルタ的特訓の中、鬼教官が「もがけ!もがけ!」と常に生徒たちを叱咤し続けていることで、そこには永遠にもがき続けるしかない人生に対する“作り手のエール”が込められているようにも思えてならない。

映画『ガチ星』(C)2017空気/PYLON

監督はカンヌ国際広告祭で3年連続受賞を果たしたCMクリエイター、江口カン。あたかも韓国映画を彷彿させるかのような、一貫して濃くも熱い世界観の描出に、この作品に賭けた意気込みが伺い知れる。

主演の安部賢一は、一時は競輪選手を目指したことがあり、この役に選ばれなければ役者を辞める覚悟で主演の座を獲得したとのこと。そういった執念が見事に画面に定着している。

イカ天バンドを30年ぶりに再結成!バブル世代のマダオの生きざま『馬の骨』

映画『馬の骨』(C)2018オフィス桐生

6月2日からテアトル新宿ほか全国順次公開となる『馬の骨』。このタイトルを聞いてピンと来た方は、かなりの「イカ天」マニアであろう。

今からおよそ30年前の1989年(平成元年)からオンエアされたTBS深夜TV番組「三宅裕司のいかすバンド天国」、通称「イカ天」。それは全国のアマチュア・バンドが競い合う選手権番組で、そこからブランキー・ジェット・シティ、BEGIN、たま、カブキロックスなどが輩出された。

「馬の骨」とは、その「イカ天」に出場して話題を集めたバンドで、異様ないでたちとお経のような歌詞などで当時は異彩を放っていたものだ。

そして本作は、実際に「馬の骨」メンバーだった桐生コウジが監督・脚本・主演し、バンド解散後すっかり落ちぶれた中年男・熊田が、シンガーソングライターをめざす地下アイドルのユカ(小島藤子)に触発され、30年ぶりにバンドを再結成するというもの。

映画『馬の骨』(C)2018オフィス桐生

現在の熊田の生きざまは、まさに“マダオ”そのもので、「バブル時代に見果てぬ夢を追いかけ続けていた若年層の成れの果て」といった形容がぴったりくるぶざまさである。

また、それは個人的に同世代として「馬の骨」の歌曲にリアルタイムで触れていたこちらの胸をえぐりまくるものまであるのだ。
(それどころか、実は自分を見ているようで、身につまされて、泣けて泣けて……!?)

本作は、そんなバブル期に青春を送った世代と、どこか閉塞的な今の時代を生きる若い世代の交流を通して、双方の世代のギャップと、それでも夢を追いかけることの不変性などがさりげなくもユニークに綴られていく。

映画『馬の骨』(C)2018オフィス桐生

桐生コウジの醸し出す世代感モロ出しの身勝手な濃さと、人生の悲哀を一身に背負ったかのような切なさ。かたやNHK連続テレビ小説「ひよっ子」などで注目を集める小島藤子の、一見あっさりしたサバサバ感の中からうかがえる熱さと、若さゆえのもろさ。そこに不可思議な共通項まで垣間見えていくのが、どことなく嬉しい。

かくして『ガチ星』と『馬の骨』、双方で描かれるマダオ再起の図は、「まるでダメなおっさん」から「まだ大丈夫かもよおっさん」と、マダオの言葉の意味を少し変えてくれているかのような、そんな気もしてならないのだが……。

映画『馬の骨』(C)2018オフィス桐生

実はこうしたマダオ映画、45歳バツイチのファミレス店長に女子高生が恋してしまう『恋は雨上がりのように』(現在公開中)や、定年退職を迎えた男の悲喜こもごも『終わった人』(6月9日公開)、偽名を使って細々と生きる転落人生男の前に謎の少女が現れる『名前』(6月30日公開)など、最近やたらと多く作られている。

今、おじさんたちは疲れているのか?

どこかで癒しを求めているのか?

しかし、人は年齢を経るごとにどこかしら傲慢になるとともに、自分の枠にこだわって偏屈になっていき、それゆえの摩擦が生じては己の不甲斐なさを情けなく感じることもしばしばだ。

癒しもさながら、やはり檄こそを、こうしたマダオ映画の中から見出していきたい。その伝でも『ガチ星』と『馬の骨』は特に強くお勧めしたい次第である。

(文・増當竜也)