文=平辻哲也/Avanti Press

今、映画界でひとつの資金源となっているクラウドファンディング。一昨年公開のアニメ『この世界の片隅に』で一気に世間で知られることになった。現在、公開中の『リバースダイアリー』(監督・園田新)も製作費、宣伝費を調達した。『友罪』(公開中)などのメジャー作品もある瀬々敬久監督のインディーズ映画『菊とギロチン』(7月7日公開)でも、配給宣伝費を募っている。そもそも、クラウドファンディングとは何か? 映画ファンにはどんなメリットがあるのか? 2011年創業の最大手「Motion Gallery」社長、2人の映像作家を取材して、見えてきたものとは?

そもそも“クラウドファンディング”とは?

クラウドファンディングは、プロジェクトやアイデアを起案したプレゼンターが、支援者が提供した金額から一定の手数料を差し引いた金額を手にすることができる仕組み。映画、映像、音楽、写真、アートなどクリエティブな分野から古民家再生、街づくり、革新的なプロダクト、科学の研究とほぼ全分野に広がりを見せている。

クラウドファンディングサイト「Motion Gallery」のカテゴリ選択画面

クリエティブ部門に特化したファンドを展開しているのが「Motion Gallery」だ。

東京藝術大学にて、堀越謙三プロデューサー、黒沢清監督を始めとした教授陣の下で映像を学んだ大高健志氏が2011年に起業。プロジェクト数は毎年、約2倍ずつ増え、創業7年目の現在までに2,000件以上のプロジェクトを手がけてきた。

文化的価値とビジネスを両立するための「仕組み」

「藝大で勉強する中、世界的な映像作家たちが作りたい作品を作れないという状況を目の当たりにしました。それは、時間的にも文化的にも大きな損失です。しかし、『映画を作ったら、お金が儲かります』というのも嘘になってしまう。『儲からないかもしれないけども、応援してもらう価値があるので』と真摯に言えてお金が集まる環境をつくる方が、お金がきれいに回っていくだろうと思いました。表現活動や街づくりなどクリエティブなものは文化的、社会的な価値と、赤字にならない程度の最低限のビジネスの両方を追い求めるにはクラウドファンディングが合っているのではないかと考えました」

クラウドファンディングサイト「Motion Gallery」社長・大高健志氏
写真:平辻哲也

Motion Galleryはこれまで多数の作品を支援してきた。製作費2億円のうち500万円を調達した、イランの巨匠アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012年)がその年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたことが一つの転機になった。

その後は、アメリカ国立美術館に全コレクションを寄付したNY在住の老夫婦を描いたドキュメンタリーの続編『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』(2013年)、濱口竜介監督による5時間17分の大長編『ハッピーアワー』(2015年)、捕鯨問題の賛否を双方から描いたドキュメンタリー『おクジラさま ふたつの正義の物語』(2017年)、バンコクの歓楽街で働くタイ人娼婦と日本人の男たちが織り成す『バンコクナイツ』(2017年)などがある。

クラウドファンディング成功の秘訣

Motion Gallery全体のプロジェクト目標額の達成率は60〜70%。そのような中、『ハーブ&ドロシー』の佐々木芽生監督によるドキュメンタリー第3弾『おクジラさま』では目標1,500万円のところに2,325万円が集まった。「マスの時代は終わり、今は量よりも質」と大高社長は言う。例えば、共感してくれる100人にしっかり届けば、クリエイターに金が流れる。

「製作費が1億円以上の商業映画なら作れる土壌がありますが、2,000〜3,000万円規模のミドルバジェット作品は難しい状況です。例えば、濱口監督の『ハッピーアワー』の企画は大手映画会社でははねのけられてしまいます。とはいえ、ミドルバジェットの作品は商業性と作家性がいいバランスで作られていて、多くの人に届きやすい。そういう作品を届けることができたのではないか」と話す。

インディペンデント映画の力となるクラウドファンディング

『ずぶぬれて犬ころ』として映画化される岡山県出身の俳人・住宅顕信

クラウドファンディングは製作費1,000万円以下のインディペンデント映画にも大きな力になっている。夭折した岡山県の俳人・住宅(すみたく)顕信の半生を描く『ずぶぬれて犬ころ』(年内公開予定)を製作中のドキュメンタリー映像作家の本田孝義氏は、Motion Galleryで製作費の3分の1にあたる約300万円を調達した。

Motion Galleryで『ずぶぬれて犬ころ』の製作費の3分の1を調達したドキュメンタリー映像作家の本田孝義氏

「あるプロデューサーに映画化の相談に乗ってもらっていたのですが、これまでドキュメンタリー映画を作ってきた実績はあるものの、『初めての劇映画の企画に乗ってくれるような製作会社はない』と言われ、自主製作の道を模索するしかありませんでした。撮影地である岡山で資金集めを始めたのですが、うまくいきません。1年ほど経った頃、製作を諦められず、クラウドファンディングを活用しました。映画がクランクインする時には、集まったお金が手元にある状態だったので、安心感がありました」と話す。

映像ディレクターの小暮隆生さんは、日本とインドの文化の架け橋になるショートムービー『IND on the RUN』を製作するため、「CAMPFIRE」というクラウドファンディングサイトで約142万円を集めた。

クラウドファンディングで開発中の映画『IND on the RUN』のイメージ写真と小暮隆生監督(右)

「上位には特典があるという『ホリエモン万博CAMPFIRE映画祭』が今年2月に開催されると知り、見切り発車で企画を立ち上げ、自分なりに必死にSNSで宣伝しました。映画祭の上位には残れず目標の200万円にも達しませんでしたが、色々な方と知り合い、話せたことは大きな収穫した。やってよかったと思っています。秋にインドで撮影し、来年には完成させたいです」と話す。

支援者側のメリットとは?

一方、支援者側にも、リターンが用意されている。映画の場合、劇場鑑賞券、DVDなどが一般的で、Tシャツなどの関連グッズなどもある。

「支援者が喜ぶのは、チケットの割引やグッズよりも体験のリターンです。応援する人は割り引いてもらいたいわけでも、物が欲しいわけではない。撮影現場の招待、企画会議への参加、みんなでチラシを配るといった体験の方が盛り上がったりするんです。支援する方は消費者ではなく、創造者の1人。こういう人に映画を撮ってほしいからお金を出すという仕組みができれば、日本の映画文化のあり方すらも変わるきっかけになると思っています」(大高社長)

支援者への「責任」

しかし、支援した映画を完成できず、トラブルになることはないのだろうか?

大高社長は「そういう話は聞いていません。目標通りに完成するのが望ましいことですが、映画の世界では、いろいろな事情で製作が遅れてしまうことはあります。きちんと進捗状況を報告していれば、支援されている方も理解していただけると思います」と言う。

本田監督も常々、支援者への責任を感じながら製作しているという。「映画を完成させなければいけない、コレクター(支援者)を裏切ってはいけない、という気持ちが撮影中の厳しい局面を乗り切る原動力にもなりました。ただ申し訳ないことに、映画の完成が延びており、コレクターの方々への試写、リターンの発送が遅れています。でも、必ずや映画を完成させる、コレクターの方々に一日でも早く映画を届けたいという気持ちは忘れたことはありません」と口にする。

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映画ファンの私の友人は濱口監督の『ハッピーアワー』に50万円を支援した。私はまず、その額の高さに驚いたが、本人は「エンドクレジットに自分の名前を見た時ほど人生でうれしかったことはない。これこそ、プライスレスだよ」と大興奮だった。

『寝ても覚めても』9月1日(土)、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開!
(C)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

その濱口監督は、今年5月のカンヌ映画祭コンペティション部門に、東出昌大・唐田えりか主演の新作『寝ても覚めても』(9月1日公開予定)を出品した。この快挙も自分のことのように喜んでいる。映画を支援すると、チケットやいろいろなグッズがもらえることもある。しかし、なによりも嬉しいのは、自分が素晴らしいと思った映画に関われること。これに勝るものはない。