全米でわずか4館の限定公開だったのが口コミで火がつき、最終的には1,500館以上で拡大公開されるまでとなった『レディ・バード』(公開中)。観客の支持を得るばかりでなく、ゴールデン・グローブ賞で作品賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞。さらにアカデミー賞ではオスカー候補になるなど、驚きの快進撃を見せた話題の一作だ。

監督・脚本を務めたのは、弱冠34歳のグレタ・ガーウィグという女優兼映画人で、本作が初監督作品となる。マンブルコア映画(低予算・即興的な演技が特徴の自主制作映画群)出身の彼女らしい、たおやかな想像力が人々に新鮮な感動をもたらしたのだろう。

グレタ・ガーウィグとは一体どんな人物なのか。同作を観るにあたっての予習となるよう、グレタが発した言葉や脚本に携わった作品をもとに、人生や映画に対する彼女の思想を考察していきたい。

グレタ・ガーウィグとは?監督デビューまでの10年を振り返る

(c)2017 InterActiveCorp Films, LLC.2017 InterActiveCorp Films, LLC/Merie Wallace, courtesy of A24

まず、グレタ・ガーウィグの映画人生は、マンブルコア映画を代表する監督の1人、ジョー・スワンバーグの『LOL』(2006年・日本未)に端役として出演したのがはじまりだ。

当時グレタは、ニューヨークの大学で哲学を学ぶ学生だった。端役ながらも才能を見出されたグレタは翌年、同監督作品『ハンナだけど、生きていく!』の主演に抜擢され、脚本にも参加し頭角を現した。以降はスワンバーグ監督をはじめとするインディー映画作家たちと活動を共にし、“マンブルコア界のミューズ”と呼ばれるようになっていく。

近年では、ナタリー・ポートマン主演の『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016年)といった大作にも出演。昨年公開された『20センチュリー・ウーマン』では主人公に影響を与える女性写真家を好演するなど、女優としての評価も高い。そんなグレタだが、根底には“いつかは自分で映画を撮りたい”思いがあったという(参照1)。およそ10年に渡る映画活動の集大成が、新作『レディ・バード』なのだろう。

苦労もしてきたグレタだからこそ響く-「諦めなければ人生の道は開かれる」

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グレタは10年の映画人生を経て、30代になってようやく映画が撮れるようになった。そんな彼女が脚本に携わった映画には「人生を諦めないで」というメッセージが見てとれる。

親友との精神的別離を皮切りに、夢と仕事とお金を失い、袋小路になってしまう20代女性を描いた『フランシス・ハ』(2014年)では、不器用ながらも自らの道を切り開いていく主人公をチャーミングに描いた。人生の危機に立たされても諦めずに立ち向かう主人公の姿に励まされ、パワーをもらった人は少なくないだろう。同作はクエンティン・タランティーノが「2013年の映画ベスト10」に選出し、グレタの実質的出世作となっている。

また『ミストレス・アメリカ』(2015年・日本未)公開後のインタビューでは、「30歳で最盛期が終わるなんて思っちゃ絶対にダメだから」(参照2)というコメントを残し、若者を勇気付けた。

グレタが映画に込める生きるためのヒント-「人生はぎこちない。だからこそ自分を知ること」

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もうひとつ、「人生は常にぎこちないもの」というのが、グレタにとって変わらぬ思想であるようだ。

作家を志す大学生と実業家風アラサー女性が、人生に七転八倒する姿を描いた『ミストレス・アメリカ』では、まさに理想の自分と現実の自分が噛み合わない“ぎこちなさ”をコミカルに表現している。そして、自分を知るきっかけとなるのが、二人が育む奇妙な友情だ。

公開後のインタビューでグレタは、「思春期の頃のぎこちなさは今も変わらず、そしてこれからも私の人生につきまとうもの。でも、自分を知っていくことで、自分の内面と外面が近づいて、本当の自分と現実世界に生きている自分がそれほどチグハグに感じなくなると思う」(参照2)と語っている。

このように、グレタは言葉や映像を通して、私たちに肩の力を抜いて生きるためのヒントを差し出してくれている。

17歳の不安定さと旅立ちを描いた『レディ・バード』

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新作『レディ・バード』は、アメリカの映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で、批評家164人から100%の高評価を記録したことでも話題を呼んでいる。また、オスカー候補の昼食会にて、スティーブン・スピルバーグがグレタの隣の席を希望したというエピソードからも、その注目度の高さがうかがえる。

舞台は2002年のカリフォルニア州サクラメント。髪を赤く染め、自分に「レディ・バード」という名前を与え、どこか特別な存在だと信じてやまない高校生のクリスティン(シアーシャ・ローナン)が、退屈な街からニューヨークの大学に飛び立つまでの1年間をユーモアたっぷりに描いた。

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グレタ自身が大学進学を機にサクラメントからニューヨークに移り住んでいることから、本作はしばしばグレタの自伝的映画とも言われている。これについてグレタは、着想を得ていることは確かであるとしながらも、「映画の中で起きたことは実際の私には起こらなかった。映画をつくる時はいつも感情的な真理から出発し、そこから構築しなければいけないと思っているわ」と語り、さらに「(自伝的と言われる度に)あなたは私と一緒に育ったんだっけ? と思っちゃいます」(参照3)と言っている。

本作は、現実の出来事を映画に昇華させたのではなく、想像力によって紡ぎ出された新しい物語なのだ。初監督作品となる『レディ・バード』では、これまで以上にグレタの人生観や映画観を堪能できそうだ。

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レディ・バード
6月1日(金)よりTOHO シネマズシャンテ他にて全国ロードショー
配給:東宝東和
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(奈良田ナオコ@YOSCA)

【参照】
1) DEADLINE HOLLYWOOD「‘Lady Bird’ Writer/Director Greta Gerwig On Putting In Her 10 Years Before Stepping Into The Director’s Chair」
2)i-D「グレタ・ガーウィグが語る、10代をサバイヴする10のヒント」
3)Los Angeles Times「Greta Gerwig talks about her directorial debut and casting Saoirse Ronan in 'Lady Bird'」