スクリーンの中からこぼれ出てくる美しいピアノの音色に、心を奪われたことはないでしょうか。洋画・邦画を問わず、「ピアノ」をテーマとした映画は昔から数々の名作が生み出されています。『戦場のピアニスト』(2002年)然り、『海の上のピアニスト』(1988年)然りです。

中でも、今回は演奏シーンが素晴らしいだけでなく、ピアノを通して登場人物がさまざまな成長を遂げていく作品を4つ、ご紹介します。

孤高の天才少女と落ちこぼれ音大受験生の奇跡のハーモニー『神童』

天才ピアニストとして周囲の期待を一身に受けながらも、ピアノ中心の生活を強要されることに反発を覚える中学生・成瀬うたと、ピアノが大好きなのに才能のない音大受験生・菊名和音(ワオ)の物語を描いた『神童』(2007年)。

日本初の本格クラシック音楽映画とも言われる本作。天賦の才を「持つ者」と「持たざる者」の心の交流を通して、2人の運命やピアノの音色が変わっていく様子は、感動の一言に尽きます。

特にそれが際立つのが、和音の音大受験のシーン。ピアノに対して消極的だったうたは、和音の演奏指導だけは楽しそうにこなします。彼女の遠慮のないしごきによって少しずつピアノの技術を磨いた和音。いざ迎えた受験当日、実技試験で披露したピアノは、まるでうたが乗り移ったかのような凄まじい演奏でした。試験官も観客も思わず引き込まれる、松山ケンイチの鬼気迫る表情が印象的です。

互いの境遇を羨んでいる、ふたりの音楽が重なり合った瞬間……。それは、ラストにももう一度訪れます。

知的障害の天才ピアニストに、余命4日の女性の魂が宿る…『四日間の奇蹟』(2005年)

今際の際、ほんの数日間だけ他人と体が入れ替わったらあなたはどうしますか?

そんな“ありえない”シチュエーションの中で、人の成長を見事に描き切ったのが『四日間の奇蹟』です。主人公は元ピアニストの如月敬輔。敬輔はかつて事件に巻き込まれた際、少女を助けるために手を負傷し、ピアニストとしての道を断たれてしまいました。

知的障害を抱えた、天才的なピアノの才能を持つその少女・楠本千織の後見人として彼女の演奏会を見守っていた敬輔は、高校時代の後輩である岩村真理子と再会します。敬輔が初恋だったと明かす彼女は、突然の落雷で瀕死の重傷を負い、四日間だけ千織と入れ替わるのです。

不遇な人生を歩むあまり「自分に生きる価値はあるのか」と自問自答していた真理子。死を前にその認識を改めた真理子と、そんな真理子に諭されるようにまた自分の演奏と向き合う敬輔。傷ついた大人ふたりの癒し合うような淡い恋愛が魅力です。

本作では直接的な演奏シーンこそさほど多くありませんが、真理子が敬輔・千織を呼び寄せるきっかけがピアノであったり、敬輔が演奏を通じて再び自分の生き方を見つめ直したりと、「ピアノ」が重要なファクターを担っています。そっと寄り添うように全編を通して奏でられる旋律が心に染み、ラストでは思わず涙ぐんでしまいます。

弾けない高校生ピアニスト×奔放なヴァイオリニストの切ない青春ラブストーリー…『四月は君の嘘』(2016年)

「登場人物が成長するピアノ映画」で胸キュンしたい人におすすめなのが『四月は君の嘘』。累計発行部数500万部を超える大人気漫画を原作としており、主人公は母の死をきっかけにピアノが弾けなくなってしまった天才ピアニスト・有馬公生です。

「ヒューマンメトロノーム」と呼ばれるほどの正確な演奏を得意としながら、ピアノを弾くのをやめてしまった公生は、高2の春に自由奔放なヴァイオリニスト・宮園かをりと出会います。彼女のとらえどころのない演奏に惹かれる公生。彼は「コンクールの伴奏に任命します!」というかをりの強引な誘いにより、再び音楽と向き合い始めます。しかし、かをりは公生にひとつの「嘘」をついていたのです……。

本作で、ピアノは息子にスパルタな音楽教育を施してきた公生の母と強く結びついています。母の死に責任を感じている公生にとって、ピアノはトラウマの原因以外のなにものでもありません。

しかし、かをりとともにコンクールに臨むうち、公生は次第にそのトラウマを克服していきます。特に、母が好きだった、クライスラーの「愛の悲しみ」を公生がコンクールで弾くシーンは涙なしには見られません。

さらに、公生とかをり、公生とその幼馴染・椿の甘酸っぱくてじれったい恋模様も本作を鑑賞する醍醐味のひとつ。友人として公生とかをりの関係を応援していた椿が、公生への恋心を自覚するシーンは必見です。

調律に魅せられ、ピアノの調律師として成長していく青年の青春譚…『羊と鋼の森』

6月8日より公開中の『羊と鋼の森』もピアノが物語で重要な鍵となる作品です。

調律師・板鳥宗一郎の調律に魅せられ、自らも同じ世界に飛び込んだ外村直樹。しかし、絶対音感もなければピアノに関する豊富な知識もない外村にとって、調律師の仕事は甘くありません。外村は迷い、悩み、「才能の壁」にぶつかりつつも、ひたむきに努力し続けます。そんな彼を変えるきっかけとなったのは、ふたごの女子高生ピアニスト、和音・由仁姉妹のピアノでした。

『羊と鋼の森』の原作は宮下奈都による小説。繊細な音色の表現が高く評価されており、2016年本屋大賞を受賞しています。この美しい作品がどのように映像化されるのか、『四月は君の嘘』でも主演を務めた山﨑賢人が一途にピアノの調律と向き合う青年をいかに演じるのかが、見どころのひとつです。

果たして、『羊と鋼の森』では美しいピアノの旋律とともに、主要キャラクターのどのような成長が描かれるのでしょうか。

『羊と鋼の森』
6月8日(金)より全国東宝系にて公開中
(c)2018「羊と鋼の森」製作委員会

(小泉ちはる@YOSCA)