文=木俣冬/Avanti Press

ドラマには、主題歌勝ちするものがあって、主題歌が流れると問答無用に乗せられてしまうことがある。金曜ドラマ「あなたには帰る家がある」もそうだ。Superflyの主題歌「Fall」が流れるとキタキタキタ~とばかり無性に気持ちがざわつき、そのまま少しだけ背徳感ただようドラマの世界に引きずり込まれる。

狂気のはじまり

つかみの演出が冴える「あなたには帰る家がある」は、住宅販売会社で働く佐藤秀明(玉木宏)と、専業主婦の真弓(中谷美紀)という結婚13年目を迎えた夫婦の物語(原作は山本文緒の同名小説)。秀明は真弓の大雑把な性格にうんざりしていて、真弓は秀明が家事に文句ばかり言って自分では何もしないことに苛立っている。13年暮らしてきて何を今さら……という気もしないではないが、ひとり娘・麗奈(桜田ひより)の大事な中学受験が済んでホッとしたところではたと気づいたのだろう。熟年離婚というものがあるくらいだから、決壊はある日突然やって来る。

秀明は、仕事の客として茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)と綾子(木村多江)夫妻と出会い、太郎の横暴に耐えている綾子への同情から魔が差して、一夜の過ちを犯してしまう。あろうことか真弓との結婚記念日に。

「あなたには帰る家がある」毎週金曜よる10時放送 (C)TBS

この一件から秀明と綾子の仲が深まってドロドロの愛憎劇がはじまるのかと思いきや、秀明にはそこまでの度胸もなく、あくまで一夜の過ちで終わらせようとするが、相手が悪かった。綾子は本気になってしまい、どこまでも秀明を追いかけてくる。

ただの愛憎劇にあらず…目が離せない“やばさ”

まるでホラー映画のように綾子は秀明に食らいついて離さない。おそらく、ふつうの愛憎ものや不倫ものだったら、ここまでこのドラマを見る気にならなかったと思うのだが、秀明がもう関係ないときっぱり言っても、好きだという思い込みを止められない綾子のやばさから目が離せない。ニコニコと穏やかな微笑みを浮かべながら、佐藤家までやって来て、真弓のみならず麗奈にまで事情を明かしてしまい、家族は崩壊を余儀なくされる。秀明にとって綾子のことはあくまで過ちだったが、真弓がそれを許せず離婚することに。

綾子のやばさは回を増すごとにエスカレート。6月1日(金)放送の第8話では、なぜか勝手に秀明と結婚すると思い込み、ひとり暮らしをはじめた秀明の安アパートに押しかけ、雨に濡れた服を脱ぎ、じとっと迫る。「雨に唄えば」(同名傑作ミュージカルで恋をしたジーン・ケリーが、雨のなか歌い踊る名曲)を口ずさむ姿は『時計じかけのオレンジ』(1971年)か。なんといっても、アパートを訪ねてくる真弓を見つけて、別のルートでアパートに先回りし、あらかじめくすねていた合鍵で中に入り、待ち伏せるという姑息な手を使う。

このドラマは、家族とは何か、夫婦とは何かがテーマになっていると思うが、そこをしみじみ味わうよりも、前述の企みのために猛ダッシュで別ルートを走る綾子の姿がおかしくておかしくて、そちらばかり注視してしまう。綾子を演じる木村多江の面白さがそれを凌駕するのだ。また、木村多江に付きまとわれて困惑する玉木宏のリアクションも面白い。「いつの間にか全女性に嫌われている」状態で、思わず「危うく過剰な愛に飲み込まれそうに」なったりと、ただそれだけを楽しむエンタテインメントともいえる(真面目にご覧になっている方には申し訳ないが)。

「あなたには帰る家がある」毎週金曜よる10時放送 (C)TBS

過去にもあった! ヘンキャラが盛り上げたドラマの数々

ドラマには主題歌勝ちのほか、キャラクター勝ちというのもあり、突出したヘンキャラが求心力となってドラマを盛り上げる。綾子もそのひとり。これまでどんなヘンキャラがいたかといえば、「あなたには帰る家がある」と同じ金曜ドラマの「ずっとあなたが好きだった」(1992年)がある。佐野史郎演じる「冬彦さん」が、マザコンのストレンジマンで、嫁に来たヒロインが彼の変人ぶりに困惑を越えて恐怖を覚えていく話で、佐野の怪演により「冬彦さん」ブームが起こった。それより半年さかのぼり、1月の月9ドラマ「あなただけ見えない」(1992年)では、三上博史が何かあると明美という女に変貌してしまうという多重人格者の役を嬉々として演じていた。

近年では、松嶋菜々子が雇用者の命令は絶対に遂行するため行き過ぎた行動に出る家政婦を演じた「家政婦のミタ」(2011年/日本テレビ)が最終回の視聴率40%を叩き出した。2017年、「奪い愛、冬」(テレビ朝日)の三浦翔平と水野美紀も人を愛し過ぎて言動がおかしくなってしまったキャラを演じてドラマを盛り上げた。現在放送中の朝ドラ「半分、青い。」のヒロイン永野芽郁も、朝ドラヒロインの三原則「明るく・元気に・さわやかに」らしからぬ傍若無人キャラになっていて、逆にその言動に目が離せなくなっている。

ちなみに佐野史郎は、6月2日(土)からはじまったオトナの土ドラ「限界団地」で再びやばそうなキャラクターを演じている。

主題歌にのせて、どこまで翻弄させてくれるのか―

「あなたには帰る家がある」が過去の名作のように伝説級のドラマになるには、木村多江がどこまでモンスター化してくれるかにかかっているだろう。

綾子が何かやらかすときに合図のようにジャジーなSuperflyの主題歌「Fall」が大音量で流れる。もはやネタドラマなのだ。いや、それでいいと思う。理想的な家族や夫婦の形に新基軸がそうそうあるわけではない。何が悪くて何がいいのか、そんなことはだいたい誰だってわかっている。それより、思わず「ありえね~」と発してしまう、想像を絶する人の言動を見ていたほうがくつろげるのだ。