文=平辻哲也/Avanti Press

東宝は4月13日(金)公開の『名探偵コナン ゼロの執行人』『クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』から、映画の公開初日を従来の土曜から “原則金曜”へと変更した。松竹も同様に、5月25日(金)公開の『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』(監督・山田洋次)から金曜初日を実施。金曜初日となることで、映画の楽しみ方はどのように変わるのか取材してみた。

映画の宮殿ザ・ムービーパレスとして3月29日(木)にオープンしたTOHOシネマズ日比谷のスクリーン1「プレミアム シアター」

注目作が金曜初日となるメリットは?

ハリウッド大作の多くは金曜日公開、邦画をはじめとする、それ以外の映画は土曜日公開と、これまで公開曜日が異なっていたことはご存じだろうか? 公開日が金曜日に繰り上がることで、映画ファンは、観たい映画を一日早く観られるうえ、わざわざ友達と休日の予定を合わせることなく、会社帰りに公開ホヤホヤの映画を一緒に観て、シネコンのあるビルでお買い物やディナーも楽しめる、というわけだ。

映画会社側にもメリットがある。東宝が「原則金曜公開」を発表した背景には、政府が2017年2月から実施を促進しているプレミアムフライデー(※月末の金曜に15時退社を奨励)への協力と、社員の土曜日出勤を減らす「働き方改革」がある。土曜出社を減らすことで時間外労働を抑え、邦画と洋画の公開曜日がそろうことで映画館の番組編成もしやすくなるのだ。

『名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん)』全国東宝系にてロードショー中
(C)2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

こうしてみると、いい事づくしのようだが、現実はそう甘くない。東宝配給作品では、週末興収V7を達成した『コナン』は既に過去最高興収の78億円を上げ、80億円の大台に乗る勢い。『しんちゃん』も前作の16.2億円を超えて17億円を突破したが、金曜初日効果は関係ないとの分析だ(2018年6月6日現在)。

興行関係者は、「そもそも今年のGW映画は、2本のアニメを除くと不作です。ハリウッド大作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は世界での興行収入が2000億円を超えた大ヒット作ですが、日本では30億円を突破したものの、興収124億円の『美女と野獣』のような大ヒットには至っていない。金曜初日にする、しない以前の問題です」と話す。

舞台挨拶が金曜に行われる意味とは?

“金曜初日”効果の数字そのものが読みにくい、という声もある。「映画の場合、前年比、シリーズ対比といった言い方はあるものの、結局は作品本位。その作品が魅力的かどうかで決まります。映画を初日に観たいという人もいらっしゃいますが、それはごく一部。自分のスケジュールが合うときに、映画館に出かける人が多く、舞台挨拶目的以外のお客さんにとって、映画初日が金曜だろうと土曜だろうと、あまり関係ないのかもしれません」と別の関係者も言う。

では、今まで公開初日に行われることが多かった舞台挨拶の実施曜日は変わったのか? 『コナン』『しんちゃん』は初日翌日の4月14日(土)。金曜公開第2弾の『いぬやしき』は4月20日(金)、『となりの怪物くん』は4月27日(金)、『ラプラスの魔女』は5月4日(金)、アニメ『GODZILLA 決戦機動増殖都市』は5月19日(土)、『のみとり侍』は5月18日(金)、『恋は雨上がりのように』は5月25日(金)に実施された。

『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~』全国東宝系にて公開
(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2018

アニメを除く作品は金曜に舞台挨拶を行っている。“舞台挨拶をどうしても見たい”という月~金勤務の会社員は有給を取って、観に行くしかない。

松竹の金曜初日第1弾『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』の舞台挨拶も5月25日(金)だった。関係者は「『家族はつらいよIII』の来場者数は、土曜日は前作比ダウンでしたが、その分、金曜に来てくださったかもしれません。日曜の動員は前作とほぼ同じでした。舞台挨拶は基本的に金曜に実施しますが、土日の集客が見込める作品は土曜に行うこともあります。そこは今後の研究次第です」と話す。

とはいえ、金曜に舞台挨拶が行われたことで、土曜午前中までに、情報テレビ番組やネットニュースが発信され、週末が始まる前に映画の公開を知る機会がひとつ増えたのも事実。

『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』全国にてロードショー中
(C)「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」製作委員会

歓迎! 映画業界を横断しての金曜初日キャンペーン

まだ世間には浸透していないといわれている金曜初日。大手邦画会社ですら、東映、角川は“しばらく様子見”といったスタンスだ。またプレミアムフライデーも認知度こそ高いものの、実施企業が少ない。映画に足を運ぶファンも限られてしまう。ただ、実施2カ月くらいで、金曜初日は効果なしと決めつけるのは早計かもしれない。慣習を変えるには時間がかかるのだ。テレビの視聴率も、観る方の生活習慣に左右されるところが大きいと聞く。流れができれば、ルーティンと化すのだが。

会社員ではない筆者は、プレミアムフライデー自体は関係ないが、映画館で観るのは金曜日が多い。というのも、自宅近くのユナイテッド・シネマ系の映画館では、プレミアムフライデーの実施前より、毎週金曜日に会員デー1000円(特別興行除く)を行っているからだ。入会手数料500円(税込)は必要だが、数多く映画を観る人にはお得。1本につき1ポイントが付与され、6ポイント貯まると、1本無料になる。金曜日にまとめて観ると、かなり安く映画を観ることができるので、「金曜だから映画を見に行こう」と思い立つわけだ。

TOHOシネマズでも、月末の金曜に1100円で鑑賞できるクーポン(時間限定、作品限定)をLINEで配布しているので、要チェック! 本当は、映画業界全体での、もっとプレミアムなキャンペーンを期待したいところ。そうすれば、金曜初日の認知も上がり、金曜来場の映画ファンも増えると思うのだが……。