『グーグーだって猫である』(2008年)の犬童一心監督が手掛けた“猫シリーズ”最新作『猫は抱くもの』(6月23日より公開)。『へルタースケルター』(2012年)以来6年ぶりの映画主演となる沢尻エリカが、元アイドルのスーパーのレジ打ち店員に扮し、いまをときめく吉沢亮や「水曜日のカンパネラ」のコムアイが擬人化された猫を演じるという話題作です。女優・沢尻エリカの新たな魅力が炸裂する、更に進化した犬童ワールドの見どころをご紹介します!

薬用ビューネのCM風?と油断した途端に食らう強烈なカウンターパンチ

「猫に扮した吉沢亮が、アラサーのこじらせ女子をひたすら癒す」と聞いて、勝手に「薬用ビューネ」のCM風なのかと妄想していたのですが、スクリーンに映し出されたのは、いきなり舞台の上でピッタピタのピンクのパンツを履いた吉沢亮を膝枕して、頭を撫でまわす沢尻エリカの姿。

「これは一体!?」と見入る中、今度は本物の猫を抱き上げる沢尻の姿に切り替わり、先程の二人が、元アイドルで今はスーパーで働きながらもどこか投げやりな生活を送っている主人公の沙織と、彼女がこっそりと飼っている“唯一心を開ける相手”こと、ロシアンブルーの猫・良男だったことが明かされます。しかも、沙織の心に寄り添う良男は、自分が猫ではなく人間、かつ沙織の恋人であり、彼女を守れるのは自分しかいないと思い込んでいるんです。

この映画、「イケメンと猫に癒されたい!」と気楽な気持ちで見始めると、監督が仕掛けた映画の遊びに翻弄される、なんとも見応えのある映画なんです。

(C)2018「猫は抱くもの」製作委員会

ロケと舞台とアニメーションが混在する、妄想のコラージュの世界

本作の1つ目の見どころは、劇中に「人の視点」と「擬人化された猫の視点」が混在すること。つまり、人から見た「本物の猫」が登場したかと思えば、劇団四季の「キャッツ」のごとく、擬人化された猫たちが橋の下で夜な夜な集会を繰り広げている……といった具合なんです。

そして、実際の風景で撮影された「実景パート」と、古いホールを現実世界に見立てた「舞台パート」、そして手書き風の「アニメーション・パート」が入り乱れ、独特な世界観を醸し出しています。

そこへ追い打ちをかけるように、登場人物が一人二役も三役も演じているのだから、頭の中はすっかりごちゃまぜに……。この映画は観る側の想像力が試されるのです。

(C)2018「猫は抱くもの」製作委員会

歌って踊る沢尻エリカや、共演者たちにも注目を!

2つ目の見どころは、沢尻エリカが売れないアイドルグループ「サニーズ」のメンバーに扮し、ミニスカートで架空のアイドルソング「ロマンス交差点」を歌い踊り、カラオケで安室奈美恵の「Don't wanna cry」まで披露しているという意外性です。

かつて、TVドラマ版の「タイヨウのうた」(2006年)でミュージシャンの少女・雨音薫を演じた沢尻は、役名の“Kaoru Amane”名義で歌手デビューも果たし、その後も“ERIKA”名義でCDを発売するなど、歌手としての実績もありますが、沢尻エリカが安室ちゃんの曲を熱唱する姿が見られる日が来るとは、夢にも思っていませんでした。

そして、3つ目の見どころと言えるのが、“擬人化された猫”という難役をこなす吉沢亮やコムアイを始めとする、個性豊かな共演者たち。中でも圧倒的な存在感を放っているのは、不思議な力を持つ老猫を演じる演出家・俳優の岩松了と、「水曜どうでしょう」で“藤やん”の愛称で親しまれている名物ディレクターの藤村忠寿。

そして、コムアイ扮する三毛猫「キイロ」の飼い主で、“ゴッホ”こと後藤保役を演じる銀杏BOYZの峯田和伸。特に、飄々としながらも、「なりたい自分になれていない主人公」の痛いところをグサグサ突いてくるゴッホの容赦の無さったらありません!

(C)2018「猫は抱くもの」製作委員会

かつて『ジョゼ虎』に打ちのめされた人たちの古傷をえぐる、怒涛の展開

本作の終盤には、『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)で犬童ワールドに打ちのめされた人たちの期待を裏切らない、心にダイレクトに響く怒涛の展開が待ち受けています。

そして、『へルタースケルター』で演じた“全身整形のモデルりりこ”とは打って変わって、アイドルとして成功する夢を諦め、妄想の世界に生きる等身大のアラサー女性を見事に演じ切った沢尻エリカに、思わず目を見張る瞬間が何度も訪れます。

秀逸なのが、時折登場する幼い頃の自分に向けて、大人になった沙織が「あなたが思ってたようにうまくできなくてごめんね」と素直な心情を吐露してしまうシーンです。もしかすると、かつての「自分の将来」への期待こそが、一番のプレッシャーなのかもしれないな……と、思わず胸が締め付けられました。

(C)2018「猫は抱くもの」製作委員会

人間が猫に扮したことで、さらけ出す無防備な姿を、どこかのぞき見しているような気分にさせられる『猫は抱くもの』。犬童監督が綴る「積極的な諦めを選んだ時にこそ踏み出せる一歩の爽快さ」に、縮こまった背中をピンと伸ばしてもらえるような1本です。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)