「失礼して、ちょっと足を……」

インタビューが始まってすぐ、安藤サクラはそう断ったうえで、座り方を若干変えた。怪我でもしているのかと思い「どうされました?」と聞きながら、己の察しの悪さにあっと気づく。

「たぶん、抱っこしたりとかして腰が……」

そうだった。安藤は昨年第一子を出産した後、本作が復帰第一作で、現在子育てのまっただなか。腰ばかりか、あちこちに疲労がたまっている頃だろう。

「メインの撮影は今年の1月だったのですが、海のシーンを撮る必要があって1シーンだけ、夏の時期に撮影をしたんです。劇中の家族のみんなと遊びに行くシーンなんですけど、体力も落ちていたのに、浜辺でみんなとジャンプとかしちゃって(笑)。でも、産後に外に出たのはこの撮影が初めてでもあったので“うわあ、なんか外の世界だ!”って感じでしたね」

産後初の撮影で外の空気を吸ったということは、この作品のオファーは産前に受けていたことになる。以前、話を聞いたときの安藤の言葉などから、しばらくは子育てに専念、あるいはそのまま女優を続けない可能性も――と思っていたこちらとしては、少々意外であり、嬉しい誤算でもあった。

「私、本当に頭が固くて、子どもが生まれたら、いっさい仕事もせず、片時も子どもと離れない! みたいに思ってきたし、そう決めてもいたんですけど、なんか……こうなってしまいました(笑)」

産後の復帰作は“妊婦の勘”

撮影=興村憲彦

“こうなった”のはなぜか。安藤の分析によれば大きな理由は3つ。まずは妊娠中の直感だという!

「それこそ妊婦の勘(笑)。私は私ではあるんですが、そのときは私の中にもう一人いたわけで、そういう本能の部分に頼ってみたら、“自分がこの先どうなるかわからないけど、とにかくやろう”というふうに思えたんです。あと、プロットをいただいた日が私の結婚記念日だったことも大きかった。私はそういうことで“これはご縁がある! 大丈夫かも!”と思っちゃうタイプなので(笑)。もちろんその後、真剣に考えましたよ。何が私たち家族にとっていちばん“生きている”って感じられる選択なのかと、自分たちと向き合いました。そうして選んだ答えは、それまでの自分が想像もしていなかったことではありましたけど、結果的に、今はこれでいいのだと思えています。そう、生まれ変わったんです。今の私、新生、安藤サクラです。こうなったら“新安藤サクラ”に改名しようかな(笑)」

「是枝組作品だったから」

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

そんな“新安藤サクラ”誕生のきっかけをつくったもうひとつの要因。それは、この映画が安藤にとって初参加となる「是枝組作品だったから」である。

「私の周りの数少ない親しい大先輩の方々には、このチームと深い関わりのある方が何人もいることから(たとえばカメラマンの山崎裕や井浦新など)、どこか近しい感じがしていたんですけど、“安藤サクラ”としては遠かったのが是枝組。近くて遠い、そんな感じ。だからこそ、是枝監督の現場がどんなところか、みなさんが言うように他の現場とどう違うのか、実際に体験してみたかったんです」

インタビューの続きは『キネマ旬報』6月下旬号に掲載。今号では、『万引き家族』の特集をおこなった。安藤サクラのほか、リリー・フランキー×是枝裕和の対談、樹木希林のインタビュー、作品評を掲載している。(敬称略)

『万引き家族』
2018年・日本・カラー・2時間 監督・脚本・原案・編集:是枝裕和 撮影:近藤龍人 照明:藤井勇 美術:三ツ松けいこ 録音:冨田和彦 音楽:細野晴臣 出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林 配給:ギャガ ◎6月8日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて

取材・文=轟夕起夫/制作:キネマ旬報社