今回が日本劇場初公開となる『スパイナル・タップ』(6月16日より公開)は、ロブ・ライナー監督のデビュー作。しかし、いまから30年以上前に発表された“懐かしのクラシック作品”では片づけたくない。本作では、のちに名を成す名匠の才能とアイデアが爆発! 映画ファンはもちろんドキュメンタリー映画好きも、音楽好きも、おバカコメディ好きも注目のさまざまなジャンルを往来する異色作となっている。

やりたいことが詰め込まれたデビュー作

よくあることだが、デビュー作というのは、その監督のやりたいことがすべて詰め込まれていることが多い。いろんな要素を入れ込み過ぎて、まとまりに欠けるように映ることもあれば、その支離滅裂さが逆に作品に得も言われぬパワーを生んでいたりもする。それは『スパイナル・タップ』にも当てはまる。

のちに『スタンド・バイ・ミー』(1986年)や『ミザリー』(1990年)などの傑作を発表するロブ・ライナー監督の才気がほとばしり、ロック・ムービー、音楽ドキュメンタリー、ブラック・コメディ、そしてカルト映画と、いずれのジャンルにも収まるが、かといってそこにとどまるわけではない。『スパイナル・タップ』は、ひと言で言い尽くせないユニークな作品となっている。

(C)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

すべて作り物だが、本物に見えてくる

まず、この作品を語る上で欠かせないのは、モキュメンタリーの手法をとっていることだ。モキュメンタリーは、架空の人物や架空の事件を、虚構のインタビューやニュース映像、証言などで構成してドキュメンタリー風にもっともらしく作る表現手法。洋画で言えば『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)、日本で言えば白石晃士監督の『ノロイ』(2005年)などがそれにあたる。

本作はモキュメンタリーの草分け的存在とも言われ、1960年代から活躍する架空の大物ブリティッシュ・ロック・バンド「スパイナル・タップ」の全米ツアーに密着取材するという設定。架空のロック・バンドの、架空のツアーの模様が、フェイク・ドキュメンタリーとして描かれている。

つまり純然たるフィクション作品なのだか、このニセのドラマの作りこみが半端じゃない。もうこれは綿密なリサーチの賜物と言っていいだろうが、冒頭に登場するロブ・ライナー自身が演じているマーティ・ディ・ベルギー監督の風貌からして“こういうディレクターいるいる”と思わせるもの。ちょっと小太りでひげ面、キャップをかぶり、ジーンズというラフな“いかにも”という出で立ちで登場する。

対する「スパイナル・タップ」のメンバーのルックスも負けていない。クリストファー・ゲストら脚本を手掛けた3人がメンバーに扮しているのだが、彼らの風貌は当時、全盛だったヘヴィ・メタル、ハード・ロックのミュージシャンそのまま。長髪で、衣装は3人てんでばらばらでレザーのパツンパツンのパンツにブーツとぬかりない。

その風貌だけでなく、スパイナル・タップのライブ自体も用意周到。たとえばギターにヴァイオリンをこすりつけて演奏したり、悪魔っぽい儀式のステージセットが登場したりと、当時のミュージシャンがやっていたことがこれでもかとちりばめられている。さらに楽曲も、当時流行っていた曲のいいとこどりをしたキャッチ―なものばかり。『スパイナル・タップ』のサウンド・トラックがヒットしたのもうなずける。

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社会派コメディとしての魅力も十分

こうした当時のミュージック・シーンを本格的な音楽とともにひとつのドラマに仕立てた純然たる“ロック・ムービー”である一方で、本作は社会派コメディとしての破壊力も十分。

メンバーの彼女がいつの間にかバンドに口を出してきてメンバー間に亀裂が生じたり、長年行動をともにしてきたマネージャーの無能さに悩まされたり、契約の関係でまったく場違いなところでライブをするはめになったり……というエピソードは、いずれもフィクションだが、セックス&ドラッグ&ロックンロールがまだまかり通っていた当時の音楽業界のどこかで聞いたような話ばかり。ツアーの舞台裏やレコード会社との契約をめぐる金銭トラブルのやりとりなどは妙にリアルで、当時の音楽業界の光と闇を痛烈に皮肉り浮かび上がらせた1作にもなっている。

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バックステージのシーンやインタビューシーン、レコードショップでのサイン会のショットなど、なにからなにまでがフェイクなのに、本当に起きているような錯覚を覚えさせるほどリアル。それが高じてか、その後、バンドの再結成アルバムが発売されるなど、スパイナル・タップの活動は現実となってまだ続いている。30年以上の時を経て、本邦初公開、伝説の非実在バンド“スパイナル・タップ”に出会ってほしい。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)