サンダンスをはじめ、カンヌ、シドニーなど、世界各国の映画祭で話題沸騰となった異色の“しゃべるクマ映画”こと『ブリグズビー・ベア』(6月23日より公開)。赤ん坊の頃に二人組の男女に誘拐され、外の世界と接触することなく25歳になった青年が、ある日突然実の家族のもとに連れ戻されて戸惑う様を、アナログ感たっぷりの映像で描いた本作。意外や意外!? 「究極の映画愛」に満ち溢れた、感涙必至の超お宝ムービーなんです!

断片的な情報だけで判断しては、もったいない!

「コミュニケーションが苦手で、モノ作りにハマった経験がある人なら絶対刺さる!」

「大きな瞳と太い眉毛をクルクル動かしながら、パクパクしゃべるクマの着ぐるみがヤバい!」

「実はそのクマ、頭の後ろにカセットテープが入る仕組みになっていて……」

「パッと見はあんまり可愛くないけど、途中からとてつもなく愛おしく見えてきて、観終わったら絶対にクマグッズが欲しくなる!」

「マーク・ハミルが悪役として出てくるんだけど、イヤーな太陽でもあって、でも映画のラストには、最高の見せ場が用意されている!」

これだけを読むと、「一体なんのことやら?」とクエスチョンマークが次々と頭に浮かびますよね。でも、映画を観た後この断片を読み返すと、きっと「そうそう!」と相槌を打ってくださる方もいるはず。

『ブリグズビー・ベア』は、断片的な情報を並べただけでは戸惑いますが、一度観たら虜にならずにいられないほど、中毒性のある愛すべき“ヒューマン・ダークコメディ”なんです。

(C) 2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

ビデオの続き観たさに、有志が集まりB級SF映画を自主製作

主人公は、クマのイラスト入りのTシャツがお気に入りな、ジェームスという名の25歳の青年。砂漠の真ん中にある小さな地下シェルターで両親と暮らす彼は、幼いころから毎週ポストに届く教育ビデオ「ブリグズビー・ベア」を見て育ち、パソコンで仲間とチャットをしながら「ブリグズビー・ベア」研究に勤しむ毎日。

ランプシェードやクッションカバーなど、そこら中にクマグッズが溢れかえったおもちゃ箱のような部屋で、このままずっと平和な日々が続くと思っていたある日、突如現れた警察がジェームスを連れ去り、なんと両親は逮捕されてしまいます。それもそのはず、両親だと思っていた二人は、赤ん坊のジェームスを拉致・監禁して育てていた“誘拐犯”だったのです。

いきなり「外の世界」に引っ張り出されたジェームスは、本物の両親の家で高校生の妹とペットの犬と暮らすことになるのですが、コーラも「ブリグズビー・ベア」以外のテレビも携帯も、見るもの全てが初めて尽くしで困惑するばかり。しかも彼の心の支えだった「ブリグズビー・ベア」が、偽の両親が彼の教育のために長年手作りしていたものだったと知った彼は、もう二度と新作ビデオが届かないことに落胆。

「こうなったら、もはや自分たちで作るしかない!」と、映画好きの妹の友だちや演劇経験のある心優しい警察官の協力を得て、自力で映画版「ブリグズビー・ベア」を撮り、シリーズを完結させることを決意するのです。

(C) 2017 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

あのマーク・ハミルが、赤ん坊を拉致・監禁して育てていた誘拐犯に!

一見したところ、ブリー・ラーソンがオスカーに輝いた『ルーム ROOM』(2015年)さながら、誘拐・監禁されていた青年のトラウマがどっぷり描かれるのかと思いきや、いつのまにやらミシェル・ゴンドリー監督の珠玉の名品『僕らのミライへ逆回転』(2008年)テイストへと様変わり。必要に駆られて集まった有志が、映画制作を通じて絆を育んでいく過程をやさしい眼差しで捉えた本作は、どこか『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)風味の心温まる家族映画に仕上がっています。

誘拐犯である偽父・テッドを演じるのは、「スター・ウォーズ」シリーズでお馴染みのマーク・ハミル。「ブリグズビー・ベア」では黄色くて怖い太陽に扮するなど、シュールな一面を覗かせつつ、最後には名演ぶりを見せつけて、全ての映画ファンを魅了します。

監督はデイヴ・マッカリー、脚本はケヴィン・コステロ、脚本・主演はコメディアンのカイル・ムーニーが務めています。なんと彼らは中学の同級生で幼馴染! しかも監督のデイヴと主演のカイルはアメリカのコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の常連で、YouTubeチャンネルで人気を博すコメディユニット「GOOD NEIGHBOR」のメンバーでもあるんです。

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監督のデイヴ・マッカリーは、「この映画には模範的な、優しく前向きで、手を差し伸べてくれるようなキャラクターで溢れています。必ずしも明確な政治的メッセージはないけど、親切になる方法、親身になる方法、誠実になる方法、そして人々をその人の過去で判断してはいけないということを描いたつもりです」と語っています。殺伐とした世の中に暮らす私たちが忘れかけた「思いやりの心」や「真のやさしさ」を、きっと『ブリグズビー・ベア』が思い出させてくれるに違いありません。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)