『タイタニック』(1997年)から21年。華やかな容姿はそのままに、『愛を読むひと』(2008年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞するなど演技に磨きをかけ、42歳になった今も第一線で活躍しているケイト・ウィンスレット。

心の機微を捉えた繊細な演技を武器にしてきた彼女ですが、ウディ・アレン監督と初タッグを組んだ『女と男の観覧車』(6月23日公開)では、新たな境地に達しています。

(C)2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

オスカー女優のケイトが、“元女優”のやさぐれたウェイトレスを演じる

1950年代のニューヨーク、コニーアイランドにある遊園地を舞台に、男と女の恋愛のもつれを描いた本作。ケイトは、元舞台女優で、今はウェイトレスとしてこの遊園地のレストランで働くジニーを演じています。

再婚同士で一緒になったメリーゴーランドの操縦係を務める夫、前夫との息子と3人で暮らしていますが、生活は金銭的に苦しく、遊園地内の一部を改装して自宅として使っている状態。さらに、夫には酒を飲むと暴力を振るう一面が、息子には放火グセがあり、家庭は荒れ放題です。

そんな日常に失望しているジニーは、脚本家を夢見る年下のミッキーと不倫し、禁断の恋に溺れることで現実から逃避しています。夫といる時は少々エキセントリックながらも生活感を漂わせた妻と母親の顔、ミッキーといる時はどこか悲劇の影をまとったようなドラマティックな女の顔と、ケイトは見事に演じ分け、女優だった過去の栄光にすがるキャラクターに説得力をもたせています。

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女優の魅力を最大限引き出す!ウディ・アレン流の演出とは?

そんなケイトの演技を昇華させているのが、ウディ・アレン監督の演出です。アレン監督といえば、女優の魅力をうまく引き出すことで知られています。古くは『アニー・ホール』(1977年)でダイアン・キートンのチャーミングな一面を引き出し、2000年代以降も『マッチポイント』(2005年)でスカーレット・ヨハンソンの官能的なイメージを決定付けました。

また、“過去の栄光にすがる不安定な女性”という本作との共通点において、忘れてはいけないのが『ブルージャスミン』(2013年)です。実業家の夫とセレブリティ生活を送っていた高慢ちきな女性が、結婚生活の終焉と共に転落していく姿をケイト・ブランシェットが体現し、見事アカデミー賞主演女優賞を受賞。置かれた状況に適応できない女性を、残酷なまでに突き放した眼差しで描くことで、現実逃避を繰り返すヒロインの異様さが際立っていました。

一方、ケイト・ウィンスレットといえば、『リトル・チルドレン』(2006年)、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008年)など、郊外の閉塞的な生活に馴染めずにいる役どころで、女性の心の奥底にくすぶっている不満をさりげなく体現できる演技力が高く評価されてきました。本作ではその演技がウディ・アレンの手によってやり過ぎギリギリのラインまで引き出され、リアルと虚構の間をさまよう不安定な女性という新たな側面を見せてくれています。

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「安っぽいメロドラマみたい」キャラの個性が宿る洒脱な名セリフ

ウディ・アレンならではの洗練されたセリフ回しも、彼女のキャラクターをドラマティックなものにしている要因のひとつです。

例えば、ある色恋沙汰のストレスからジニーが頭痛を覚える一幕。「薬を飲め」という夫のアドバイスに逆上して「いま欲しいのはスコッチよ」と騒ぎ立てますが、このひと言は、酒に逃げる不安定さと、彼女の激情的な一面を見事に表現しています。

また、脚本家志望のミッキーが“ある推測”を口にする場面。ジニーは「まるで安っぽいメロドラマみたい。あなたのシナリオは奇想天外すぎる」と言い放ちます。自らの境遇を皮肉った詩的なセリフですが、女優としての過去にすがるジニーの内面を表現しており、その複雑なキャラクター像を強烈に印象付けています。

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刹那的な恋と知りながら快楽に溺れ、安定を願いながら刺激を欲するジニー。元女優というプライドも手伝って、「もっと、もっと……!」と、あくなき理想を追い求めてしまう業の深い彼女の生き様は、見ているこちらが息苦しくなるほど。

アレン監督が「最高峰の演技力を誇る女優でないと成立しない」とまで発言している今回のジニー役について、ケイト自身も「最初はどうすればいいのわからなかった」と告白していますが、監督の期待に応えるべく挑んだ渾身の演技の結果は、圧巻のひと言。ぜひスクリーンで確かめてみてください。

(文/ケヴィン太郎・サンクレイオ翼)