2000年代、フランス産ホラー映画が熱を帯びていた時期があった。アレクサンドル・アジャ監督の『ハイテンション』(2003年)、ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督の『屋敷女』(2007年)、パスカル・ロジェ監督の『マーターズ』(2008年)、ザヴィエ・ジャン監督の『フロンティア』(2008年)などがフレンチスプラッター映画として連続して日本に紹介された。

今も一線で頑張るフレンチスプラッター勢

アジャ監督はハリウッドに進出し、カルトホラーをリメイクした『ヒルズ・ハブ・アイズ』(2006年、オリジナル版は1977年公開『サランドラ』)や、『ピラニア3D』(2010年、オリジナル版は1978年公開『ピラニア』)で成功をおさめ、世界的ベストセラー原作の『ルイの9番目の人生』が今年、日本公開されている。

ロジェ監督の『マーターズ』は2016年にリメイクされ(リメイク盤の監督はケビン&マイケル・ゴーツ兄弟)、モーリー&バスティロの『屋敷女』コンビは『レザーフェイス 悪魔のいけにえ』(2018年)を手掛けるなど、ホラー道を突き進んでいる。

当時紹介されたフレンチホラーの俊英たちは現在も名を轟かせており、彼らがそれだけの力量を持っていて、フランス時代の作品の質がいかに高かったかということがわかる。

中でもホラーオタク度の高いモーリー&バスティロ監督が手掛けたR-18作品『屋敷女』は、予告編の段階で阿鼻叫喚という悪名高い1本だった。クリスマスの夜、若き妊婦が一人で住む屋敷に侵入した女が、登場人物のほとんどを惨殺するというストーリーで、中盤以降はスクリーン全体が真っ赤といっても過言ではない濃厚スプラッターを展開。ちなみに当時モーリー監督にインタビューしたところ「妊婦こそが観るべき胎教映画だ!」と熱弁していた……。

12年の時を経て『屋敷女』まさかのリメイク

カルト作品は必ず作り直される――そのセオリー通り誕生から約12年、『屋敷女』は英題そのままに『インサイド』としてスペイン・アメリカ合作でリメイクされた。特にホラー映画リメイクの場合、試金石的に新人にメガホンが渡される場合が多い。

『蝋人形の館』(2005年)のジャウマ・コレット=セラ監督や『死霊のはらわた』(2013年)のフェデ・アルバレス監督のように才能を爆発させて、その後の順調なキャリアに繋げる逸材もいるが、首をひねらざるを得ないようなリメイクも少なくない。ゆえに鑑賞前の段階で、製作陣の面子から賛否反応が出るのも理解できる。

適材適所のリメイク企画

それでは『インサイド』はどうか。これがなかなかの面子を揃えており、「もしや!?」な感触を与えてくれる。監督は、タイトルが内容を表している『スペイン一家監禁事件』(2010年)のミゲル・アンヘル・ビバス。脚本は、『REC/レック』(2007年)の監督で知られ、スパニッシュホラーを牽引するベテランのジャウマ・バラゲロだ。

『スペイン一家監禁事件』は侵入者による凶行という点で『インサイド』と親和性が高いし、バラゲロが監督した、変態大家さんが一人暮らしの女性をメンタル的に追い詰める『スリーピング・タイト 白肌の美女の異常な夜』(2011年)も設定が似ている。まさに適材適所の抜擢だろう。

襲われる妊婦は、アジャ製作総指揮のスリラー『P2』(2007年)のレイチェル・ニコラズ、侵入女はデヴィッド・リンチ監督の怪作『マルホランド・ドライブ』(2001年)、『インランド・エンパイア』(2006年)のローラ・ハリングと、キャストの人選もいい。

母性VS母性の構図で描かれるスリラー

カークラッシュ事故で夫を亡くした妊婦が、クリスマスの夜に突然現れた侵入者に地獄を見せられるという大筋はオリジナル版を踏襲。しかしリメイク版は阿鼻叫喚スプラッターというよりも、スリラー色を強くし、かつ母性を前面に押し出している。

妊婦サラには、事故が原因で“聴覚に障害を持つ”という設定が新たにプラスされたり、早い段階で侵入女の目的がサラのお腹の胎児であることが明かされ、母性VS母性の構図が浮かび上がる。ハリングには、オリジナル版で侵入女を演じたフランスのアウトロー女優ベアトリス・ダルのようなビジュアルからくる気色悪さはないが、肝っ玉母ちゃん的雰囲気が高いので、母性に説得力が出ている。

侵入バトル後、オリジナル版では一軒家限定でストーリーが進んだが、リメイク版では隣の家にまで凶行が及んだり、侵入女の隠れ家で衝撃の事実が明かされたりして、物語に広がりを与えようとしている努力が伺える。

『屋敷女』といえば、ラストに訪れる語り継がれるほどの「そこまでやるか!?」的描写がまさにハイライトとなるのだが、果たして『インサイド』はどう勝負をつけるのか。なお冒頭ではサラの口から「ベアトリス」という名前が飛び出したり、検診中のサラが「帝王切開はイヤ!」といった、“伏線か!?”と思わせる意味深セリフもある。

日本公開は7月13日の金曜日という、ホラー映画にとっての祝日にお披露目。オリジナルを観てからでもよし、リメイク版を先に観てからでもよし。2つの恐怖の夜を楽しんでほしい。

(文・石井隼人)