間近に迫った2020年の東京五輪。その正式種目として新たに追加された競技のひとつがスケートボードです。映画『アイ・アム・タレント』(6月29日公開)は、そんな話題の競技であるスケートボードによって、自分の人生を切り開くストリートチルドレンの成長を記録したドラマチックなドキュメンタリーです。

主人公の少年は、なぜ9歳にしてストリートに身を置くことになったのか? そして彼はいかにして一流スケーターに認められる存在になったのか? 今回は彼の故郷・南アフリカの現状や、現在のスケートボード事情にも触れつつ、この作品の魅力に迫っていきます。

(c)2016, Made To Stray Film, llc All Rights Reserved.

虐待から逃げ出してストリートへ。過酷な環境で育った少年・タレント

南アフリカで生まれたタレント・ビエラは、幼くして継父に虐待され、ドラッグを売ることまで強いられていました。そんな彼の心の拠りどころは、8歳で手にしたスケートボード。すぐにスケートボードの虜になりますが、抗うことができない暴力に耐えかねて家を飛び出し、9歳にしてホームレスになってしまいます。

映画では、タレントのようなホームレスの子どもが南アフリカに9,000人以上もいると紹介されます。野宿している子どもは狙われやすく、持ち物をすべて盗まれて暴行を受けることも日常茶飯事。タレントも常に恐怖を感じながら、スケートパークの角やゴミ箱の裏で寝泊まりしていました。

読み書きがまともにできないタレントにとって、スケートボードは唯一の自己表現の手段。過酷な環境下でスキルを磨き、未熟ながらもスケーターとしてのスタイルを確立していきます。

そんなタレントが、有名プロスケーターのケニー・アンダーソンの目に留まります。自分のスタイルと似たタレントのスケートを見て、何か感じるものがあったのでしょう。ケニーは、彼に本場ロサンゼルスでの手厚いサポートを約束。期待と不安が入り混じるなか、タレントはプロスケーターになる夢を叶えるべく単身渡米することになります。

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スケーターが“プロ”になるまでの前段階“フロー”“アマチュア”って?

タレントが目指す“プロ”のスケーターになるまでには、基本的に3つのステップがあります。まずは、ブランドからギアの無償提供を受けられる“フロー”。次に、ブランドのウェブサイトに名前が掲載され、プロとの映像撮影にも参加できる“アマチュア”です。フローはギア提供のみですが、アマチュアは活躍に応じて若干の給与も発生します。

そして、自分の名前が刻まれたシグネチャーモデルのギアが作られ、売上から印税収入を得ることもできるトップクラスのスケーターが“プロ”です。中には数億円を荒稼ぎするプロスケーターもいますが、スポンサーから一時的にサポートを受けることができたとしても、契約によって安定した生活が保障されるわけではありません。

“スケートボード発祥の地”と言われるロサンゼルスには多くの有名スケーターが居を構えています。実はタレントにも「ロサンゼルスに行けば何とかなるかもしれない」という甘い考えがありました。たとえ、ロサンゼルスに無事にたどり着き、そこで有名プロスケーターから支援を受けたとしても、生半可な気持ちでは簡単に打ち砕かれてしまう、厳しいプロの世界が待っているのです。

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人生を変えるべく、全身全霊で臨むタレントのプロスケーターへの道は、まだスタートライン。映画完成の時点ではまだ“フロー”段階だったタレントですが、スケートボードを通して、多くの先輩スケーターや支援してくれる人と出会い、“夢の叶え方”を学んだように思います。

周りの期待を一身に背負い、これまでにないプレッシャーや葛藤、挫折を経験しますが、それでも、少年から大人へと少しずつ成長し、困難に立ち向かう彼の姿はたくましさに満ちていました。

周囲の人たちがタレントに温かく、とても協力的なのは、壮絶な経験をしてもなお、ポジティブに今を生きようとする彼の“強さ”に魅了されているからこそ。この強さは、何かにチャレンジし続けるすべての人にとって、きっと大きなヒントになるはずです。

(文/バーババ・サンクレイオ翼)