6月23日公開の『猫は抱くもの』は、『猫弁』シリーズで知られる大山淳子の同名小説を、『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』などの犬童一心監督が映画化した作品です。主演は沢尻エリカ。元アイドルで今はスーパーで働くアラサー・沙織を演じました。

一時期、女優業を控えていた沢尻エリカですが、2010年ごろに活動を再開。その後は積極的に汚れ役も買って出て、見た者の心に響く演技を見せ続けてきました。今回はその出演作の中に、彼女の魅力を振り返ってみたいと思います。

“エリカ様”にしか演じられないスキャンダル女王…『ヘルタースケルター』りりこ

『ヘルタースケルター』(2012年)は、岡崎京子のマンガを原作に、蜷川実花監督が手掛けた作品。沢尻エリカは、全身を作り変えて芸能界のスターダムにのしあがった“りりこ”が、徐々に転落していく様を見事に表現しています。ヌードやベッドシーンも辞することなく大胆に演じており、熱狂的な原作ファンからも「りりこは彼女にしか演じられなかった」といわしめるほどのハマり役でした。

特に、精神錯乱を起こすシーンでは、「本当に沢尻エリカ自身が精神を破綻しているのでは?」と感じさせるほど、真に迫った演技を見せています。彼女の憑依型女優としての危うい魅力は、本作で開花したのかもしれませんね。

薬物中毒のヒロインを熱演…『新宿スワン』アゲハ

綾野剛主演の『新宿スワン』(2015年)で沢尻エリカが演じたのは、薬物中毒のヒロイン・アゲハでした。

彼女はダークな道に堕ちてしまいながらも、純粋な心をもった女性です。『星の王子様』を愛読し、主人公のタツヒコを本物の王子様のように慕うアゲハ。彼女のように“エリカ様”の素顔は、きっとアゲハのような無垢さを秘めているのでは……そう思わせるような、見事な演技でした。

この作品に見る沢尻エリカは、これまでのどんな役どころよりもかわいらしくピュアに見えます。しかし、その奥にはしっかりと深淵を感じさせるものでした。それは、これまで歩んできた、決して平たんでない彼女の女優人生が、その深みを演出したように思えてなりません。

パブリックイメージを打ち砕いた母親役…「母になる」の柏崎結衣

2017年に日本テレビ系で放送されたドラマ「母になる」。この作品は、4歳時に誘拐された息子が9年後に戻ってくるというストーリー。“幼児誘拐”という重いテーマを扱っています。

同作で、主人公・柏崎結衣を演じた沢尻エリカ。尖ったキャラクターを感じさせた、かつての彼女の面影はまったくありませんでした。愛する息子が別の女を母として慕う姿に苦悩し、鬱屈した思いを爆発させては泣き叫び、なんでもない日常の幸せを噛みしめる……。“母”としてのナチュラルな演技で、多くの視聴者の心を震わせたのです。

特に、息子を9年間育ててきた小池栄子演じる麻子との、長尺一騎打ちシーンにおける、般若の如き怒りの演技には脱帽でした。激しい感情の起伏を表し、“自分こそが息子の母である”と強く主張する女たちの戦い。そこに“エリカ様”とよばれた女優はおらず、柏崎結衣という一人の母が生きていただけ。これが“役を生きる”ということだと、画面を通じて強く感じました。ドラマ作品ではありますが、沢尻エリカという女優の存在感を改めて知らしめた一作といえます。

ダークヒーローと対峙する正義の女刑事…『不能犯』の多田友子

松坂桃李が瞳の力で人を操れるダークヒーロー・宇相吹正役で主演を務めた『不能犯』(2018年)で、沢尻エリカは正義を貫く女刑事・多田友子を熱演しました。

多田は仕事に対しては真面目一辺倒ですが、時には酔っぱらって周囲に隙を見せるような一面も併せ持つ役どころ。職業的な美しさと人間味のある愛らしさが同居しており、沢尻エリカ本人の、肩の力の抜けた魅力を、そのまま可視化したかのような演技を見せてくれました。「主人公から唯一マインドコントロールを受けない」という設定は、彼女の人間としての芯の強さが役にリンクしたことで、より説得力が増しています。

さらに、今作ではほぼ初めてアクションシーンにも挑戦。視覚的に激しい演技もできる女優なのだと、改めて彼女の実力に感心してしまいました。

『猫は抱くもの』/6月23日公開/配給:キノフィルムズ

沢尻エリカは、2010年の復帰当初、彼女のパブリックイメージが先行した役を演じることが多かった印象がありました。しかし、徐々に等身大のキャラクターを演じるようになったことで、その演技力への評価はどんどん高まっています。6月23日より公開される『猫は抱くもの』でも、まさにそんな彼女の新たな魅力を感じることができるのではないでしょうか。ぜひ期待したいですね。

(文/岸とも子@H14)