7月7日(土)公開の『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』は、ロシアの国立ボリショイ・バレエ・アカデミーを舞台にした物語です。主人公のユリアや、そのライバルのカリーナをはじめとする少女たちの、バレエにかけた青春と、そこに育まれていく友情が描かれています。

作中では大人になったユリアをポーランド国立バレエ団で活動しているマルガリータ・シモノヴァが、カリーナをクレムリン・バレエ劇場などで活躍したアンナ・イサエヴァが演じています。ほかにも、練習風景などで本物のダンサーが登場しており、特に男性ダンサーの跳躍力の高さ、きめポーズの格好良さには、「さすがプロ!」と思わず圧倒されてしまいます。

そんなプロのダンサーならではの迫力ある演技が観られるのは、ダンスをテーマにした作品だけではありません。今回はダンサーがその身体能力を生かし、作中で存在感を放っていた作品を紹介したいと思います。

まるで踊るように戦う義足の殺し屋…『キングスマン』

ド派手なアクションで人気を集めた『キングスマン』(2014年)。作中で主人公エグジーの前に立ちはだかったのは、実業家ヴァレンタインの秘書である女殺し屋ガゼルでした。

ガゼルを演じたのはヒップ・ホップ・ダンサーのソフィア・ブテラ。フランスのブレイクダンス大会や、ロサンゼルスのフリースタイル大会などで優勝した実力の持ち主です。「Hung Up」、「Sorry」、「Celebration」などマドンナのPVに出演したことで一躍有名となり、ワールドツアー「Confessions Tour」、「Sticky & Sweet Tour」にもダンサーとして出演しています。

ガゼルの両足は金属製の義足で、鋭くとがらせた先端部分で敵を切り裂きます。さらに、飛び出すヒールは針のようになっていて伸縮自在。ピンヒールのことをキラーヒールともいいますが、まさにそれを体現したかのような武器です。そんな彼女の戦う姿は、まさにダンスを踊っているかのよう。身体をブレイクダンスのように回転させて、頭上から鋭い蹴りを繰り出します。

ソフィア・ブテラの身体能力の高さがフルに発揮されたのが、クライマックスを飾るエグジーとの戦闘シーンです。最後にガゼルがエグジーに襲い掛かる姿は、まるでカンフー映画の飛び蹴りのようで、その姿勢の美しさに思わず目を奪われてしまいます。

一方で、秘書として行動しているときに、人質となる王女をエスコートする姿は、男が女をダンスに誘っているかのようにも見えました。作品全体に漂うスタイリッシュな雰囲気に、彼女の存在感が大きな役割を果たしています。

バレエの身体表現で伯爵役を好演…『オリエント急行殺人事件』

名探偵ポアロが活躍する『オリエント急行殺人事件』(2017年)では、舞台となる列車にさまざまな乗客が乗り合わせます。そのうちの一人、ルドルフ・アンドレニ伯爵を演じたのは、ダンサーのセルゲイ・ポルーニンでした。

セルゲイ・ポルーニンは英国ロイヤル・バレエ団の元プリンシパル。彼の半生を追ったドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン/世界一優雅な野獣』(2016年)で、日本でもその存在を広く知られるようになりました。ちなみに、『オリエント急行殺人事件』はセルゲイ・ポルーニンにとって、俳優としては初出演となる映画。彼の演じたアンドレニ伯爵は、原作とは違い“人気ダンサー”の設定です。

作中で見せたセルゲイ・ポルーニンの演技には、ダンサーとしての身体表現が活かされていました。ポアロが妻のエレナを追求する場面で、彼女の肩に置いた手、そしてエレナの手を取る滑らかな仕草、ポージングなどには、バレエに通じる美しさがありました。あまりセリフは多くありませんが、その表情が彼の感情を雄弁に物語り、バレエ界を代表する美貌が堪能できます。

その一方で初登場の場面では、写真を求めたパパラッチに、バーカウンターよりも高い跳躍から、鋭い回し蹴りを放ちました。この身体能力こそ、セルゲイ・ポルーニンの真骨頂といえるでしょう。

“ゲイの女王”を優雅に演じる身のこなし…『メゾン・ド・ヒミコ』

『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)は銀座の伝説的ゲイバー「卑弥呼」の2代目ママ・卑弥呼が、ゲイのために作った老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」を舞台にした物語。この作品で卑弥呼を演じたのが、ダンサーとして活動している田中泯です。

田中泯はクラシック・バレエモダン・ダンスを学び、1960年代後半からダンサーとして本格的に活動を開始。海外公演も行い、1982年に西ドイツのミュンヘン演劇祭で最優秀パフォーマンス賞を受賞。1990年にはフランス政府から、芸術文化騎士賞(シュヴァリエ・デ・ザール・エ・レ・レトル)をおくられています。

卑弥呼の姿がどこか優雅に感じられるのは、田中の身のこなしがあってのものです。背筋が常にピンと伸び、立っているだけでもまるでポーズを決めているよう。

中でも印象的だったのが、プールで行われている流しそうめん大会を、2階のバルコニーから眺めている姿です。扇子を片手に、着物を思わせる柄のワンピースに身を包み、ターバンを巻いた彼に、オダギリジョー演じる恋人が日傘をさします。その姿は卑弥呼という名前の通り、まさにメゾン・ド・ヒミコの女王といった貫禄でした。

作中で卑弥呼は着物風のガウンなど、長身を活かした裾を引きずるような長さの服装をしています。デコルテから覗いた素肌が引き締まった筋肉質なこともあってか、化粧をしていないにも関わらず、長年ゲイバーのママとして君臨してきた迫力を感じさせます。

(c) Valery Todorovsky Production Company

『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』でカリーナを演じたアンナ・イサエヴァによると、この作品はバレエ・アカデミーの様子を、リアルかつ誠実に描いているとのこと。撮影は実際にボリショイ劇場で行われ、「眠れる森の美女」などの名作の美術や衣装など、バレエの世界を垣間見ることができます。

実力があってもバレエ団で活躍できるダンサーはほんの一握り。バレエに青春を懸けた少年少女たちは、時に友情を育み、時にライバルとして競い合います。そして、ユリアがバレエを始めるきっかけになる出来事が次第に明らかになっていく、ミステリー仕立ての展開。ロシア版ゴールデン・グローブ賞であるゴールデン・イーグル賞で、最優秀脚本賞を受賞した物語の結末を、ぜひ映画館で確かめてみてください!

(文/デッキー@H14)