最初に強く訴えておきたいのは、映画ファンを自称する方や、その時々の流行などを敏感にキャッチしたい方、とにかく面白いものに飢えている方などなど、とにかく大きく心揺さぶられたければ、『カメラを止めるな!』(6月23日公開)を絶対に観ておいたほうがいい。

いや、観ないと後々絶対に後悔することになる!

少なくとも、2018年上半期も終わろうとしている今。先ごろカンヌ国際映画祭で、パルムドールを受賞した話題作『万引き家族』に勝るとも劣らない面白さを保持している日本映画は、本作のみといっても過言ではない。

 

ただし、ひとつだけ困ったことがある。

それは何か? 

 

実はこの作品、ネタバレさせたら炎上必至のぶっとび映画で、本来ならば予備知識を一切入れずに観ていただきたいほどなのだ。とはいえ、さすがにこうしたコーナーで大筋も何も記さないわけにもいかないので、ギリギリ可能なところまで紹介しておこう。

(と、ここまで読まれて「ぜひ観に行ってみよう!」と思われた方、ここから先はもう読まないほうが賢明です!?)

1シーン1カットで描かれる摩訶不思議なゾンビ映画

本作は、とある山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影しているスタッフ&キャストの壮絶な(?)運命を描いたものである。

監督のこだわりがハンパなく、なかなか本番でOKテイクを出さないために、キャストもスタッフもウンザリといった雰囲気に包まれている、そんな撮影現場に何と本物のゾンビが現れてしまったのだ!

どんよりムードから一転、撮影隊が次々と襲われてゾンビ化していく地獄絵図の中、そもそも本物志向だった監督は頭のネジが外れてしまったかのように、その悪夢のような光景を嬉々として撮り続けていく。

さらにこのサバイバル・ゾンビ・ホラー映画、1シーン1カットの長回し撮影で描かれる。

何とも実験的かつ大胆な試みに満ちたインディーズ映画ならではの野心作ではないか! 

……などと、最初は感心しながら観ていたのだが、だんだん摩訶不思議な気持ちに囚われていく。

そう、この映画、何かがヘンなのだ。

(というか、ゆるいというか、間が抜けているというか……はっきり言ってヘタクソなのだ!)
(こんなもの、お金取って見せていいの?)
(いや、たとえ技術はつたなくても、明日の映画界を担う次代の若者たちの熱意こそを買うべきだ!)
(まあ、ここはひとつ微笑ましい目で見守りましょうか)

……などなどと、こちらの心の中を大いにざわめかせながら、やがて37分におよぶ1シーン1カットの問題作(?)は終わる……。

(あれ? この作品、確か1時間半強あったはずでは!?)

観客を映画的魅惑の罠に陥れる、見事なまでの“映画”!

はい、さすがにこれ以上書いてしまうと本当に炎上間違いなしなので、このあたりで止めておこう。

ただ、ひとつだけはっきり言えるのは、この1シーン1カットのゾンビ映画そのものが、観客を映画的魅惑の罠に陥れる、見事なまでの仕掛けになっているということである。

ゾンビ映画とは、単にホラーだけではなく、実はさまざまなエンタテインメントの要素を入れ込むことができるユニークなジャンルであることは、現在公開中の『トウキョウ・リビングデッド・アイドル』のレビューでも書かせてもらったことだが、この『カメラを止めるな!』に至っては、これまでどのゾンビ映画でもお目にかかったことのない斬新かつ意欲的な視点が貫かれている。

更に申せば、恐怖は当然としても、本作にはアクションからスリル、サスペンス、コメディ、家族愛、仲間との連帯などがさまざまなフェイクを伴いながら緻密に練りこまれており、そうしたきわめて完成度の高い脚本を基に、真摯に対応し続けたスタッフ&キャストの成果も大いに好印象だ。

本作の監督は上田慎一郎。これまで『テイク8』(2015年)や『ナポリタン』(2016年)など数々の短編映画で国内外の映画祭にて、その名を轟かせてきた若き才人で、第72回(2017年度)毎日映画コンクールでアニメーション映画賞を受賞した、妻ふくだみゆき監督のアニメーション映画『こんぷれっくす×コンプレックス』(製作は2015年/こちらもマジ快作!)ではプロデューサー&編集を担うなど、夫婦二人三脚での活躍も目立つ。

本作は彼にとって初の本格的劇場用長編映画となるが、これまでのコミカルで真摯なエンタメ志向をさらに発展させ、インディーズ映画としては異例なほど、老若男女に受け入れられる“第1級のエンタテインメント”が構築されている。

本当は一つひとつの細かいネタを解き明かしつつ、そのぶっとんだ面白さを大いに記したい衝動にも駆られるが、やはりこれは公開後もずっとネタバレ厳禁であるべき性質の作品でもあるので、ぐっとこらえつつ、ぜひとも鑑賞した人たちと直に語り合い、喜びを分かち合い、その魅力を伝えていくべきだろう。

ここ一番の映画デートで失敗したくなければ、迷わずこの作品をお勧めしたいし、まだそんなに映画に詳しくない人でも、逆に映画マニアすぎてスれた見方しかできなくなっている人でも、単なる暇な人でも、どのようなモードにも対応可能なこの快作『カメラを止めるな!』は、間違いなく2018年の日本映画界を代表する1本になると断言する!(三谷幸喜監督が見たら、地団駄踏んで悔しがるだろうなあ)

(文・増當竜也)