常に国際社会に話題を提供し、物議をかもしながらも、その内情はよくわからない“近くて遠い国”北朝鮮。海外の音楽や映画が流入しないように厳しく取り締まってきたこの国に、欧米のロックバンドが招聘され、演奏したことがあるのをご存知でしょうか?

映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』(7月14日公開)は、その時の模様を追いかけたドキュメンタリーです。

ナチス風味のバンドに北朝鮮からの招待が?

(c)VFS FILMS / TRAAVIK.INFO 2016

2015年8月、日本の植民地支配からの解放を祝う「祖国解放記念日」の70周年を記念し、初めて海外からロックバンドを招くことになりました。しかし、選ばれたのはストーンズやU2といったビッグネームではなく、スロベニア出身のカルトなバンド「ライバッハ」だったのです。

普通は、「え? 誰それ?」ですよね。一部のコアな映画ファンは、ナチスの残党が月に基地を作り生き延びていて、円盤で地球に攻めてくるSFコメディ『アイアン・スカイ』(2012年)の音楽担当したことを、ご存知かもしれません。しかし、一般的には無名に近いバンド。しかも彼ら、ヨーロッパではかなり危険視されている“取扱注意”なバンドなのです。

音楽的には「インダストリアル・ロック」とよばれるメタリックなものですが、問題はそのスタイル。全員がナチスを想像させるような制服を着用し、軍隊を思わせる勇壮なサウンドを奏でるため、ファシズムを崇拝しているバンドだと批判を受けてきたのです。そんなクレイジーなバンドが北朝鮮に行ったら、一体何が起きるのか? これがまた、あらかじめシナリオが用意されたコメディを観るような面白さなのです。

検閲と監視の中、公演準備は悪戦苦闘

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ライブのために北朝鮮を訪れたライバッハ。空港に着くやいなや、スタッフが用意した映像データ(彼らはステージのバックに映される映像と音楽を融合させたパフォーマンスをします)を没収されてしまいます。検閲のためですね。

いざコンサートの準備を始めようとしても、会場のスタッフとはまったく話が合いません。人手も機材も足りない……と思ったら、用もないのにうろうろしているだけの人間が妙に多い。監視役の人たちのようです。

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女性ボーカルのミーナはチマチョゴリを着て、北朝鮮のヒット曲「行こう白頭山へ」を歌うために朝鮮語を猛特訓。平壌のクム・ソン音楽学校の女生徒たちとリハーサルに励み、メンバーも「こんな美しい歌声は聴いたことがない!」と感動しますが、公演日直前に関係者から却下されてしまうのです。

なかなか許可が下りないため、演奏できる曲はどんどん少なくなり、メンバーや撮影スタッフのイライラは増すばかり。そんな中、「危険だから決して一人では出歩かないように」という言いつけを無視し、バンドのリーダーが勝手に街に散策に出てしまい、行方不明になるという困った事態も発生します。

軍事境界線では事件が…

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さらに、彼らと関係のないところでも事件が起きていました。南北の軍事境界線付近に韓国が拡声器を設置し、北朝鮮を批判する放送を開始したことに北が反発。北の砲撃に韓国も応射するという一触即発の事態が発生していたのです。もし戦闘が始まれば、記念行事やコンサートどころではなくなってしまいます。果たしてライバッハは無事にステージに立つことができるのか……?

ただでさえ普通じゃないバンドが不思議な国に行くわけですから、何が起きるかは予測不能。しかし、“誰も自分で判断することができなくなっている”という独裁政治の欠点を語り、その体制を批判するばかりではなく、一方で平壌市民の生き生きとした表情や美しく清掃された街並も捉え、知られざる北朝鮮の姿も教えてくれるのです。

最大の見どころはライバッハの演奏シーン。「サウンド・オブ・ミュージック」や「ドレミの歌」、ビートルズ・ナンバー、「アリラン」のカバーに彼らのオリジナル曲を加え、堂々たるパフォーマンスを披露してくれるのですから。まさに“百聞は一見に如かず”な音楽ドキュメンタリーです。

(文/紀平照幸@H14)