沢尻エリカが理想通りに生きられない、妄想好きのヒロインを務め、彼女の恋人だと思い込んでいる猫との交流を通じて自分らしい生き方を模索する物語。劇中歌「キイロのうた」も担当し、本作で映画初出演を果たした音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のコムアイが、初めての映画の撮影現場の様子や女優業への思いを語った。

歌うことは自分にしかできない

Q:今回映画初出演ということですが、もともと女優志望だったのでしょうか?

昔はもしかしたら自分は歌手より女優の方が向いているのかな? と思ったこともあったんですが、今は自分の歌を歌うことは絶対に自分にしかできないと思っています。世の中には素晴らしい俳優さんたちがたくさんいるので、自分がやらなくてもいいかなと(笑)。この映画に出演するまでは演技に対して思うこともあまりなかったんですが、実際に演じてみると、自我を使わなくてはいけないのと同時に、自我を封じなければいけないというジレンマがあって大変でした。ただ、今回は撮影現場でも自分らしくいられたと思っています。

Q:本作は猫を前面に出した映画ですが、コムアイさんは猫好きですか?

大好きです! 私はずっと猫を飼いたかったんですが、家族に却下されたので猫と暮らした経験はないんです。でも、今付き合っている彼がフワフワした毛並みの黒猫と暮らしているので、彼が留守の時は私がその猫の世話をしています。実家ではイタリアングレーハウンドという犬を飼っていたんですが、私に何の相談もなく、ある日、家に帰ったらいきなり犬がいて本当にびっくりしました。でも、この犬があまり犬っぽくなくて、外見は細くて鹿みたいで、名前を呼んでもシカトするんですよ。犬なのに呼んでも来ない珍しいタイプです(笑)。

Q:沢尻エリカさん演じる、主人公の沙織が飼っているロシアンブルーの良男もかわいかったです。

良男君は本当にかわいくて、とてもいい子でした。最初この映画の出演を決めた時はただ単純に「猫と遊べる!」と思って喜んだのですが、実は自分が“キイロ”という擬人化した猫の役だったので、あまり猫とは遊べなかったというオチでして(笑)。待ち時間は良男君をケージから出して一緒に遊んでいました。彼は尻尾の微妙な動きや、ドアの隙間から入って来るシーンなど、すべてが計算されていて、この猫はただ者じゃないと思いました。

Q:キャストの中で猫に一番モテたのは誰ですか?

私が演じた“キイロ”のリアル猫版の猫ちゃんの扱いは、画家のゴッホ役の峯田和伸さんが一番上手でした。彼は人の扱いも、猫の扱いもとても上手で、トレーナーさんが指導するより峯田さんがやる方が上手いんじゃないかというぐらいの腕前でした。彼は人たらしでもあり猫たらしでもあるんです。

世界一優しい犬童監督

Q:今回は音楽も担当されたそうですが、女優と音楽の両方をこなすのは大変でしたか?

自分の役を演じるというのももちろんあるんですが、どうやって映画音楽を作っていけばいいのかということも、同時進行で考えていたので、どちらかというとプロデューサー的な感覚だったかもしれません。全然違う2つの頭を使っている感じでした。

Q:犬童一心監督の演技指導は厳しかったのでしょうか?

犬童監督はこの世で一番優しい監督だと思います。私が「ここはこういうことですよね?」と質問すると「あぁ、そういうことなんですね。だったらあのシーンは別のやり方のほうがよかった」など決して嫌味ではなく素直におっしゃるんです。とてもフレキシブルな方で、稽古の時や、台本の読み合わせをする時に逆にスタッフやキャストに対して質問するんです。そのことによってみんなの理解がより深まるということもありました。監督は先輩的な立ち位置で接してくれたように思います。みんなで一緒に考えることによって、それぞれの理解の深さを合わせることができたと思います。

Q:今後も女優を続けていきたいですか?

今度この映画の「キイロのうた」という曲も入った「ガラパゴス」というEP(シングルレコード)も出ることですし、やはり私は自分の歌を大事にしたいと思います。もし女優として出演するとしても、多分これからはガッツリ出るという感じではなく、ほんの少しだけだと思います。

ボーダーに立つキイロの存在

Q:擬人化した猫たちを演じた役者さんたちが集う楽屋はどのような雰囲気でしたか?

楽屋もいい感じでしたよ。年齢もそれぞれ10代から60代まで幅広かったんですが、みんな伸び伸びと過ごしていました。木下愛華ちゃんが楽屋でやっていた数学の宿題をみんなで解いてみたりして。なぜか一番年長者の岩松了さんが一番夢中になっていました。ただ、解いてみたらみんな答えが違っていて、あれはとても盛り上がりました(笑)。

Q:いわゆる猫部屋ではみなさんどのように過ごされていましたか?

猫だけにみんな床に寝転がったり、人の上をひょいとまたいでみたりして、みなさんとても猫っぽかったです。前橋で撮影をしたんですが、撮影場所の前に裁判所があったので、裁判を傍聴に行ったこともあり楽しかったです。最高裁判所とかの人気裁判でなければ簡単に傍聴できるので、地方裁判所の窃盗とか飲酒運転とかの裁判を傍聴していました。あとは散歩もよくしていました。

Q:キイロという役柄をどのようにとらえていましたか?

人間と猫の間に立って両方の橋渡しをするとか、観客と映画の橋渡しをするとかがキイロの役割だと思いました。登場人物たちが暮らす現実と、猫たちが暮らす現実の時間軸ではない世界の境界線に立っているようにも感じていました。ちょっと小説「遠野物語」に出てくる“迷い家(まよいが)”に似ているなと思ったりして。

Q:“迷い家”とはどのような伝承なのでしょうか?

山の中にある“迷い家”は訪れた者に富をもたらしますが、誰でも見つけられるものではないんです。富を目当てに探す人の前には絶対に現れないんです。この映画の中でも山の中にゴッホとキイロが暮らす家が突然現れるんですが、それは沙織にとって絶対に必要な経験だったからなんです。何か必要だと感じさせてくれる“家”のような存在がいきなり現れるというところが、この映画を民話というか古典っぽいな……と感じる点です。これからの沙織の人生がどうなっていくのかは少しだけ描かれるものの、まだまだ未知数です。彼女の人生の合間のような瞬間がこの映画で、ある意味ちょっとした寄り道のようなものかもしれないと思っています。

取材・文:平野敦子 写真:尾藤能暢