7月6日に公開される『アーリーマン』は、ストップモーション・アニメーションの巨匠、ニック・パーク監督が手掛けた作品。イギリスで2008年にテレビ放映された『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』(日本は2009年劇場公開)以来、同氏が10年ぶりにメガホンをとった話題作です。

この作品では粘土を使った人形を1コマずつ撮影し、それをアニメにする、ストップモーション・アニメーションという手法が使われています。パラパラ漫画のように、1コマずつ画面を作り、それをつなげて人形が動いているように見せるというものです。

ストップモーション・アニメーションの映画は数あれど、ニック・パーク監督の手がけた作品は、常に世界の映画人の注目の的。クレイ(粘土)人形のもつ温かさと、ストップモーション・アニメーションとは思えないリアルさが両立しており、過去に4回もアカデミー賞に選ばれています。その注目すべきポイントを、一足先に試写会でチェックして来ました!

口の動きに注目!パペットの表情の豊かさがすごい

『アーリーマン』を手掛けた「アードマン」は、世界でもトップクラスのアニメーション制作スタジオ。最近では『映画 ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~』(2015年)が、高い評価を受けています。

この作品に登場したのは、スクリーンを埋め尽くすほどの羊! その一匹一匹の表情は実に豊かかつ個性的で、思わず自分の周りの似ている人を探したくなるような、観ていて楽しいものでした。

(C)2017 Studiocanal S.A.S. and the British Film Institute. All Rights Reserved.

動物が活躍することが多いニック・パーク監督作品では珍しく、『アーリーマン』の主要なキャストはほとんどが人間。そこで注目したいのは、「リップシンク」というセリフと口の動きをぴったり合わせる技術です。一つのキャラクターについてさまざまな形の口のパーツを作り、付け替えて撮影することで、話しているときの口の動きを作り出します。

「リップシンク」のために作られたキャラクターの口のパーツは、なんと3,000個! それが全て手作りなのですから、すごい労力ですよね。敵と言い争っているところや、仲間を説得するところ、話さないときの口の表情まで、実に多彩です。まるで、人形が本当に会話しているようでビックリします。

W杯より熱い!? スピード感あるアクションがすごい!

ストーリーや演出においても、とてもアニメとは思えない完成度と評されるニック・パーク作品。短編アニメ作品『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』(1993年)では、クライマックスの列車追跡シーンで、ハリウッド映画にも負けないスピード感と迫力を堪能させてくれました。

列車に乗った悪役のペンギンが、家の中の家具や、あらゆる障害にぶつかりそうになりながらも、線路の切り替えを駆使して追跡をかわしてどんどん加速。勢いのあまり空を飛んで……というように、最後まで息もつかせぬシーンの連続です。

(C) 2017 Studiocanal S.A.S. and the British Film Institute. All Rights Reserved.

ストップモーション・アニメーションとは思えないカメラワークと、手に汗握るアクションは、今作『アーリーマン』でも健在。クライマックスのサッカーシーンでは、次々と華麗に技が繰り出され、W杯よりも見応えがあるのでは!? と思ってしまうほどでした。

スタジオでは同じサッカーコートのセットが3つ組まれ、同時に撮影が進んでいたのだそうです。次々とパスがつながり、チームのメンバーが入り乱れる中で、ラフプレーやオーバーヘッドキックも繰り出され、ときには負傷して選手交代なんてことも。観客席の湧き上がる様子まで臨場感があって、アニメだということを忘れてしまいそうになりますよ。

森の木1本に1週間!? こだわりの風景の作り込みがすごい!

『ウォレスとグルミット 危機一髪!』(1995年)で、ニック・パーク監督はイギリスの街並みを緻密かつリアルに作り込みました。ちょっと古びたレンガの壁や、ホコリのたまる排水溝、お店に並ぶフワフワの毛糸玉まで……。細部にこだわって作りこまれた背景は、まるで本当にイギリスの街で撮影されたかのよう。何回観ても新たな発見があります。

一方の『アーリーマン』は原始時代が舞台。セットとは思えない、壮大な世界観にこだわって作られています。さまざまなリサーチをして、それにちょっぴり創作を加え、今までにない新しい世界観を作り上げてしまったのがすごい!

主人公が暮らす森は、60本の木によって作られたそうですが、森の木一本を作るのにかかった時間はなんと1週間! 活き活きと主人公たちが動き回る森の中は、本当にタイムスリップしてしまったかのようにリアルで、豊かな自然が感じられます。木々の動きにも注目してみてくださいね!

(C)2017 Studiocanal S.A.S. and the British Film Institute. All Rights Reserved.

「ストップモーション・アニメーションの限界を越えた!」といっても過言ではない『アーリーマン』。監督は2010年から構想を温め、撮影開始から完成までは、実に1年半もの歳月を費やしたのだそう。その間に関わったスタッフは150人。40台ものカメラで同時に撮影をしていたといいます。

1秒間の映像を作るのに必要な画面は、なんと12コマ! たった30秒間の映像を作るだけで、360コマもの撮影が必要です。現代のCG全盛のアニメ界で、人の手で少しずつ動かして撮影するという、大変な手間も時間もかかるアナログな撮影なのです。1週間かかって、1分ほどしか撮影できないことも当たり前なのだとか。

今回、主人公・ダグの声を演じるのは、『ファンタスティック・ビースト』のエディ・レッドメイン。そして、ダグの相棒・ブタのホグノブの声を演じるのは、なんとニック・パーク監督! 作品への愛情の深さがうかがえます。

作中では原始部族の少年・ダグと仲間たちが、暴君ヌース卿に故郷の森を奪われてしまいます。やがて、ヌース卿の支配するブロンズ・エイジ・シティを訪ねることになったダグ。そこで行われていたサッカーの試合を観た彼は、ヌース卿にサッカーで立ち向かおうとするのですが……。

表情豊かなキャラクターたちと、精緻に作りこまれた世界。その中で、華麗なプレイを見せるダグたちの姿を、ぜひ劇場の大スクリーンで楽しんでください。

(文/サワユカ@H14)