文=高村尚 /Avanti Press

町田康原作の映画『パンク侍、斬られて候』は、侍が政治を司っていた時代の“黒和藩”を舞台に、「この地に恐るべき災いがもたらされる」と予言する超人的剣客、掛十之進(綾野剛)と、11人のクセモノたちが起こす驚天動地の戦いを、アクションあり、恋あり、笑いあり、ミュージカルありで描く一大時代エンタテインメント。

ただし、すでに原作をお読みの方は、この小説の映画化が、どれほど難しいか容易に想像できるだろう。不可能といわれた映画化を、豪華なキャストとスタッフでやり遂げた“パンク”な石井岳龍監督に、ここに至るまでのお話を聞いた。

主演の綾野剛
『パンク侍、斬られて候』6月30日(土)公開
(C)エイベックス通信放送

今ならできる!「14年前からやりたかった」作品

――石井監督の『爆裂都市 BURST CITY』(1982年)からの特撮監督の尾上克郎さん、美術の林田裕至さん、原作の町田康さんをはじめ、これまで一緒に仕事をされてきた方々が一堂に会し、いまある力を惜しみなく注いだ作品として、拝見している間中、興奮しっぱなしでした。

ちょこちょこ皆さんと仕事してきましたが、こぢんまりとした映画が多く、なかなか力を発揮してもらいづらかったのですが、今回は少し予算が大きいので、優秀なスタッフにたくさん参加してもらうことができました。林田君も、尾上君も、いまや日本映画を代表する表現者。衣裳・キャラクターデザインとして4度目の澤田石和寛君、そして脚本で初めて宮藤官九郎君の大きな力を貰いました。
演じるほうもキャラクターの濃い役が多かったので、レギュラーに加えて以前から仕事をしたいと思っていた俳優さんを呼ぶことができたし、思う存分暴れていただけたんじゃないかと思います。素晴らしいコラボレーションになりました。

――企画はいつ頃から?

具体的に動き出したのは3年くらい前です。原作が出版された14年前からやりたかったのですが、全然お金が集まらなかった。当時デジタルの技術もこれほど進んでいなかったので、「できたらすごいね」と夢を語る感じでしたね。

石井岳龍監督

町田康との仕事

――当時は、映画の完成図を、どのようにイメージされていましたか?

当初は、もっとあり得ない話として考えていました。上映時間も、4時間でも5時間でもいいと。私、(ベルナルド・)ベルトルッチ監督の『1900年』(1976年)が大好きなんです(ノーカット版316分!)。最近だとオリヴィエ・アサイヤス監督の『カルロス』(2010年/330分)も。町田君の原作は、10時間あっても足りない面白さでしたので、出版当時は、すべてを描き尽くしたいという妄想に駆られていました。製作費が10億円くらいかかるということで成立しませんでしたが。

――10時間でもいいから描き尽くしたいと聞いた町田康さんは、なんとおっしゃっていましたか?

彼には具体的な話をしませんでした。ただ、「石井さんがやるならいいよ。これ、他にやる人いないでしょ」とは言ってくれていましたね、口約束ですが(笑)。

――町田さんも、石井監督の映画がお好きなんでしょうね。

どうですかね。町田君はアート映画が好きなので。『神々のたそがれ』(2013年)とか、『黒衣の刺客』(2015年)を褒めている記事を読みました。私のでは、『ELECTRIC DRAGON 80000V』(2001年)を観て貰った時に「石井さんって社会派だね」って言ってくれました。町田君には、『爆裂都市 BURST CITY』、『水の中の八月』(1995年)、『鏡心』(2005年)、そして今回も出演してもらっていますが、俳優さんとしても尊敬しています。とてもうまいんですよ。

――石井監督の映画も、パンクですが、十分アートだと思います。

バレました?(笑)

宮藤官九郎の脚本力

――宮藤官九郎さんとは、町田康さんの原作を、どんなふうに映画に着地をさせていこうと話されたんですか?

全体的に本格時代劇として構築したい。特に前半は現代的ギャグは抑えめにしたいと伝えました。後半、茶山半郎(浅野忠信)や、大臼延珍(永瀬正敏)が登場して、世界がどんどんヒートアップしていき、オフビートな展開になります。そんな後半の世界へ、すんなり観客を誘うためには、前半をきちんと構築するべきだと思ったわけです。そのうえで壊す部分は壊したい。宮藤君はとてもしっかりしたドラマ構築をする人なので、それを見込んでのお願いでした。何が起き、主人公たちが何をしようとしているのか、人間関係などもきっちり描いてもらって、そこに町田君の文体の素晴らしさや面白さ、宮藤節ともいえるビートの効いたギャグやグルーヴ感を加えてもらった。うまくいったと思います。

作品を盛り上げる多彩なキャスト陣
『パンク侍、斬られて候』6月30日(土)公開
(C)エイベックス通信放送

――原作の世界観を変えることなく、ものすごく緻密に脚本化されていますよね。

そうとう悩んだと思いますよ、この原作難しいですから。私とプロデューサーも考えましたが、宮藤君の表現としてまとめてほしかった。だから町田君の原作映画だけど、宮藤君の脚本映画でもある。最初の脚本は、3時間くらいありましたが、それがとても面白かった。切らなきゃいけないのが無念でした。

――石井監督の演出もこれまでとは異なりますが、あえての演出となりますか?

例えば『五条霊戦記//GOJOE』(2000年)。想定していたことを実現し切れなかったのは、自分の脚本力や演出力、非常に大事なテーマをどうビジュアルに落とし込んでいくかなど、足りないものがたくさんあったから。それを自覚したので、『パンク侍、斬られて候』にチャレンジするにあたっては、そういう力や仲間を詰将棋のようにきっちり詰んだわけです。映画は建築にすごく似ていて、土台を固めて積んでいかなければ揺らいでしまう。何が必要なのかを見極めた土台を作ったという意味では集大成だと思っています。

――確かに『五条霊戦記//GOJOE』は、『パンク侍、斬られて候』と全然描かれ方が異なりますが、遮那王を演じた浅野忠信さんと鉄吉を演じた永瀬正敏を介して、同じ地平にあるようにも感じました。

その時にしか撮れないものを撮るということでしょうか。『五条霊戦記//GOJOE』を撮っていた頃は、たとえばドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『ブレードランナー 2049』(2017年)のビジュアルの特徴でもあるアンビエント性、環境と人間性というモチーフがとても気になっていたので。今は、あの時点からはずいぶん変わりましたね。技術の進歩や、皆が経た年輪がそうさせているんだと思います。

綾野剛にしかできない“動き”

――今回、石井監督とは3度目の仕事となる綾野剛さんが素晴らしかった。

ものすごい身体能力が高くて、市川雷蔵みたいに動きで美しく切ない感情を表現できる俳優さん。映画はやっぱり“動き”なので、身体で気持ちを縦横無尽に表せるのは重要なんです。掛十之進(綾野)は、超人的剣客でいいかげんなやつですが、そういう人物に命を吹き込み、なおかつカラフルな映画の中に埋もれないのは綾野君しかいないなと。

主演・綾野剛(右)と北川景子(左)
『パンク侍、斬られて候』6月30日(土)公開
(C)エイベックス通信放送

――綾野さんは、熊切和嘉監督の『武曲 MUKOKU』(2017年)でも、市川雷蔵をやるつもりで演じていたと聞きました。石井監督もその辺りの時代劇は意識されていましたか?

もちろん、大映、東映、東宝、松竹、全部盛りです。ATG、日活も当然。鈴木清順監督も、三隈研次監督、内田吐夢監督、加藤泰監督、川島雄三監督、リスペクトは限りない。時代劇じゃありませんが、深作欣二監督も当然リスペクトしているので、自然に(その影響は)出ちゃいますよね。

――石井組初参加の北川景子さんや東出昌大さん、近年の石井組常連の染谷将太さんもとても役を楽しまれていたように思いました。

若葉竜也君も。初めて仕事した方たちも全員、素晴らしかった。皆さん楽しそうでしたが、大変そうでもありましたね(笑)。

*     *

時代劇、アクション、ギャグ、ロマンス、ミュージカル……様々な要素が濃厚に詰まった『パンク侍、斬られて候』の撮影現場では、スタッフ、俳優陣ともに、「毎日違う作品を撮っているみたいだ」と言っていたとか。そんな個性の際立った面白さがダイナミックに詰まった本作。身を浸すのもよし、ともに踊るもよし、一度では見切れないこの濃厚さを、自分なりにどう消化するかも、観客に託された楽しみのひとつなのだと思う。

石井岳龍 1957年生まれ、福岡県出身。日本大学芸術学部に入学後、『高校大パニック』(1976年)を撮る。以降、『狂い咲きサンダーロード』(1980年)、『爆裂都市BURST CITY』』(1982年)でインディーズ界の旗手として名を馳せる。『逆噴射家族』(1984年)、『エンジェル・ダスト』(1994年)、『水の中の八月』(1995年)、『ユメノ銀河』(1997年)では、海外でも高く評価され数々の国際映画賞を受賞。2000年に発表した『五条霊戦記//GOJOE』は、遮那王(牛若丸)と弁慶の物語を、CGを駆使したアクション大作に仕上げた
 

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