森崎博之、安田顕、戸次重幸、音尾琢真と共に活動する演劇ユニット TEAM NACS としてもおなじみの俳優・大泉洋。リクルート、アサヒビール、ヤマサ醤油など多数のCMに出演する彼は、映画やテレビドラマも新作がめじろ押し。大泉を当て書きした異色の小説「騙し絵の牙」の映画化も進行中と人気絶頂だ。2018年公開、放送の作品から、驚くほど幅広い役柄をこなす彼の魅力に迫ります!

愛に苦悩する男

(C) 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

『焼肉ドラゴン』(上映中)

 数々の演劇賞を総なめにした鄭義信作・演出の同名舞台を、鄭が自らメガホンをとり映画化した家族ドラマ。大泉にとって、2011年の舞台版再演時に北九州まで観に行ったというほど思い入れのある作品。日本万国博覧会が催された1970年、高度経済成長に浮かれる時代に、関西の地方都市の一角で小さな焼肉店を営む在日韓国人一家の物語で、鄭監督は本作の大泉について「哲男役では、これまでの舞台や映像作品では見たことのない大泉さんの『顔』が撮れたと思っています」と評している。

(C) 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 大泉が演じるのは、長年、長女・静花(真木よう子)を思いながら、その妹である梨花(井上真央)と結婚する哲男。プライドが高く短気。大学卒業の肩書があるゆえに満足のいく職に就けず、日々焼肉店の常連客たちとどんちゃん騒ぎをしているダメ男だ。映画では、韓国と日本の歴史の暗部を背景にしているが、この哲男もまた「在日」であることに苦しんでおり、静花だけが彼の生きる力。しかし、哲男の静花への思いは愛だとか恋だとかいう生易しいものではなく、そこには悲しい過去が秘められていて、哲男が静花への思いのたけを爆発させるシーンに集約されている。

 なお、大泉は本作で初の関西弁に挑戦。映画のPRイベントでは「こんなことも違うんだというくらい直されて、すごく大変でした」と苦戦したことを明かしていた。

フツーのおじさん

(C) 2018映画「恋は雨上がりのように」製作委員会 (C) 2014 眉月じゅん/小学館

『恋は雨上がりのように』(上映中)

 眉月じゅんの人気コミックに基づき、バツイチ、子持ちのファミレス店長に恋する女子高生の顛末を描く本作。大泉は、17歳の橘あきら(小松菜奈)に猛アタックされる45歳のファミレス店長・近藤正己にふんしている。

 近藤という男は、絵に描いたようなさえない男。ファミレスの従業員たちからは「ぱっとしない」「くさい」と陰口をたたかれ軽んじられているが、あきらは四六時中店長のことで頭がいっぱい! 「店長のことが好きなんです!」とぐいぐい迫られ(告白シーン5回!)、困惑するさまがイイ。自分を「普通のおじさんだから」と言い、懸命にあきらをあきらめさせようとするも、うれしい気持ちもチラホラ覗かせる絶妙な人間臭さが出ている。

 年の差28歳……ともすれば、きわどくなりそうな話だが、ひょうひょうとした、とぼけた雰囲気を持つ大泉だからこそ、決していやらしく見えないのがポイント。『青天の霹靂』『アイアムアヒーロー』しかり、“普通の人”をさらりと、味わい深く演じるのは大泉の最大の武器ともいえる。『帝一の國』を成功させた永井聡監督のコメディーセンスと、大泉&小松のキャスティングにより見事に実写化に成功している。ちなみに、大泉は「ここまで原作通り、一言一句セリフを変えないで下さいと言われたのは初めて」と驚いていたという。

厳しく優しい海賊船の船長(声優)

『映画ドラえもん のび太の宝島』ブルーレイ&DVD 8月1日発売 発売元:小学館/販売元:ポニーキャニオン (C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018

『映画ドラえもん のび太の宝島』(8月1日ブルーレイ&DVD発売)

 劇場版「ドラえもん」シリーズ第38作で、大泉は、のび太たちを襲う海賊船の船長で、宝島に眠る財宝のカギを握るキャプテン・シルバーの声を担当。声優出演が発表された際、オファーを受けた決め手は、「事務所ではなく娘と話し合って出演を決めました(笑)」と愛娘の希望だったことを明かしていた。

『映画ドラえもん のび太の宝島』ブルーレイ&DVD 8月1日発売 発売元:小学館/販売元:ポニーキャニオン (C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018

 大泉は本作での、のび太の成長ぶりに感銘を受けたようで、映画のPRイベントで以下のように話していた。「のび太君の勇気に泣けますね。のび太君のメガネの中は、全部白いけど、その中の目がブワーッとうるむ。あの泣き方がいいんですよ。それからドラえもんを助けるためにとんでもないことをするでしょ。のび太君以上に勇気のある人はいないんじゃないかな」

 これまでアニメーション映画だけで10本にのぼる声優出演をしている。キャラクターは人間から動物、異世界の者まで実にさまざま。『千と千尋の神隠し』(番台蛙)、『猫の恩返し』(高校教師)、『ハウルの動く城』(かかしのカブ)、『思い出のマーニー』(医師ほか)などスタジオジブリ作品も多数。世界三大自転車レースの一つである“ブエルタ・ア・エスパーニャ”を題材にしたアニメ『茄子 アンダルシアの夏』(原作:黒田硫黄)では主人公の選手ペペ役、大ヒットゲームシリーズ初の劇場版『映画 レイトン教授と永遠の歌姫』では主人公のレイトン教授役に。『豆富小僧』では死神、細田守監督の『バケモノの子』では頭の切れる猿顔のバケモノ・多々良を好演していた。

シビアな雑誌編集長

(C) 2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会

『パパはわるものチャンピオン』(9月21日公開)

 人気絵本「パパのしごとはわるものです」「パパはわるものチャンピオン」(岩崎書店刊)を、「100人に1人の逸材」と称されるカリスマプロレスラーの棚橋弘至を主演に迎え映画化。ケガが原因で悪役レスラーに転身し、“ゴキブリマスク”としてみんなの嫌われ者に徹する元エースレスラー・大村(棚橋)が、最強のレスラーを決める大会に出場することに。幼い息子(寺田心)にも自分の職業を隠し続けてきた彼に、返り咲きのチャンスが訪れる。大泉は、プロレスマニアで熱狂的な大村のファンである編集部員・ミチコ(仲里依紗)の上司にふんする。

 出番は少ないながら、大村の特集記事を書かせろと迫るミチコに「うちはプロレス雑誌じゃないんだから!」と押し問答を繰り広げる編集長を好演する大泉。無精ひげを生やし、色の入ったメガネをつけた強烈な風貌だが、ごく常識人。大泉の出演シーンはアドリブの連続だったそうで、監督に「でもそれが、すべて的確で面白くて。ほぼすべて使わせてもらいました」と言わしめている。

 ちなみにプロレスに関しては子供の頃よく見ていたと言い、「テレビに向かって泣き叫んでいたら、おふくろから『泣くくらいなら観るんじゃない』と怒られたことがありました(笑)。それくらい熱く観ていました」と語っている。

難病と闘う男

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(冬公開)

 幼い頃に難病にかかり24時間態勢の介助が必要な体となった鹿野靖明さんとボランティアたちの交流を描いたノンフィクション「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(渡辺一史著)を映画化。12歳で筋肉が徐々に衰える難病・筋ジストロフィーを発症し、車いすの人生を送る鹿野さんにふんする大泉は「『障がいがあるから』と遠慮することなく、1人で生活して、仕事もして、喧嘩もして、恋もして、どこまでも対等に人と向き合い続けた鹿野さんの人生に強烈に惹かれました」とコメントしている。前田哲監督とのタッグは『パコダテ人』以来、約16年ぶり。共演に高畑充希&三浦春馬。

 北海道出身のスターだけに、札幌在住の作家・東直己の小説が原作の、ススキノを舞台にした大ヒット探偵シリーズ『探偵はBARにいる』3作をはじめ、北海道を舞台にした作品に多数出演。『パコダテ人』(2001)、北海道テレビ制作の人気ローカル番組「水曜どうでしょう」で共演した鈴井貴之が監督を務めた『man-hole』(2000)、『river リバー』(2003)、『銀のエンゼル』(2004)のほか、カーリングを題材にした青春ガールズムービー『シムソンズ』(2006)など。

 また、『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』に続く、食と人をテーマにした北海道シリーズ第3弾『そらのレストラン』が2019年初春公開予定。本上まなみ、岡田将生らが共演し、監督は『半分の月がのぼる空』(2009)、『トワイライト ささらさや』(2014)などで組んできた深川栄洋が務める。

人情に厚いお兄ちゃん

スペシャルドラマ「あにいもうと」(6月25日放送済み)

 原作は、古くは1936年の木村荘十二監督版、1953年の成瀬巳喜男監督版など度々映像化されてきた室生犀星の小説。1972年のスペシャルドラマ版の石井ふく子プロデューサー、山田洋次脚本コンビによって再びドラマ化。1972年版で渥美清&倍賞千恵子が演じた兄妹を、大泉洋&宮崎あおいが好演。妹のもんちこと桃子(宮崎)を溺愛するあまり仲たがいしてしまう伊之助(大泉)の行く末を描く。

 大泉が演じる伊之助は、東京下町で工務店を営む実家で、父であり棟梁の忍(笹野高史)の下で働く大工職人。恋人の子供を身ごもり流産しながらも相手のことを何も話そうとしない妹に激怒し、それを機に妹が家を出てからも、口実を作って妹が家に戻ってくるように仕向けたりと不器用ながら妹思いの兄だ。脚本の山田が「僕はこの小説が大好きで何度も読んでいるのですが、兄の妹への過剰な愛情は『男はつらいよ』シリーズの原型とも言えますね」と語っているように、人情に厚いが恋愛ベタ、早口でまくし立てるような話し方も含め、伊之助はまさに“現代版寅さん”ともいうべきキャラクターだ。

 最大の見どころは、時につかみ合い、殴り合いにまで発展する大泉&宮崎演じる兄妹の大ゲンカ。大泉は2002年公開の映画『パコダテ人』で宮崎と共演しているが、テレビドラマでの共演はこれが初となる。ドラマの会見で、大泉は特に印象深いセリフ、シーンについて、妹の恋人・小畑(太賀)に伊之助が「俺がどれだけ妹を可愛がっていたかお前に話してやる」と話すくだりを挙げていた。「妹とはケンカばかりしていて、兄として想いを伝えていないのに、妹を奪っていく恋人に愛情を語る。そこが泣けるというか素晴らしく愛おしい。そして、さんざんとっちめて『帰れっ!』って怒鳴ったあとに、道を教えるんですよ。なんともおかしく、素晴らしいなと」

 妹への愛情は少々行き過ぎている感もあるが、「こんな兄がいたら大変だろうけど、不幸になることはないはず」と思えるような、男気あふれ頼もしい兄貴像を体現している。

日本版ポアロの相棒

「黒井戸殺し」ブルーレイ・DVD 9月19日発売 発売元:フジテレビジョン/販売元:ポニーキャニオン (C)2018 フジテレビ

スペシャルドラマ「黒井戸殺し」(9月19日ブルーレイ&DVD発売)

 衝撃的なラストが注目を浴び、トリックを巡る論争を巻き起こしたアガサ・クリスティの推理小説「アクロイド殺し」を、脚本に三谷幸喜を迎えて日本で初めて映像化。大泉は、約3年3か月ぶりにカムバックした野村萬斎演じる“日本版ポアロ”名探偵・勝呂武尊(すぐろ・たける)の相棒となり、ともに連続殺人事件を捜査する医師・柴平祐にふんした。

 スペシャルドラマ「わが家の歴史」(2010・フジテレビ系)、舞台「ベッジ・パードン」(2011)、NHK大河ドラマ「真田丸」(2016)、『清須会議』(2013)など、三谷作品に度々出演してきた大泉。「黒井戸殺し」では、萬斎演じる勝呂の相棒役として受けの演技に徹した。勝呂がキョーレツなセリフ回しをはじめ、あくの強いキャラクターであるため、落ち着いた柴の人物像がいわば緩和剤に。萬斎とは「ベッジ・パードン」以来の共演だというが、絶妙なコンビネーションを見せた。バディものの人気シリーズ『探偵はBARにいる』では主演の大泉が攻めのポジションにあり、併せて観ると表現力の幅に驚かされる。

 また、柴は多面的なキャラクターで、その意味でもカメレオンな大泉のキャスティングは効果的だったと言える。

構成・文:シネマトゥデイ編集部 石井百合子