文=平田真人/Avanti Press

若き映画監督・松居大悟は言う。「好き」の極みは相手との同化だ、と。なるほど、全面的に肯定するわけじゃないけれども、思い当たる節はある。

最新作を観て想う「あれって思春期の俺じゃん!」

中学2年の夏休み、一度も話したことのなかった違うクラスの女子を街中で偶然見かけて、学校でのおとなしめな印象とのギャップにハートを射抜かれた。彼女について知っていたのは、実のところ名前と顔くらい。だから、まずはそれとなく周りの子たちにリサーチをかけた。どんな性格で、どういった趣味や嗜好なのか、思いを寄せているヤツはいるのか。

聞き込んだ結果、愛読しているマンガの主人公にかなり熱を上げていたことがわかる。すかさず、そのマンガを貪り読み、主人公の立ち振る舞いや言動をトレースするようになっていった。そんなふうにして高校1年の秋まで、約3年もの間、一方的に思いを募らせた。今となってはひたすら甘酸っぱく、微笑ましいとさえ思う。だが、当時の自分はかなり本気で、ただただ必死だった。彼女好みの男になりたい──その一心で。

『君が君で君だ』
7月7日(土)全国公開(配給:ティ・ジョイ)
(c)2018「君が君で君だ」製作委員会

そんな経験をしていたから、松居大悟監督の新作『君が君で君だ』を観た時、驚いた。この映画のメインキャラ3人衆は、まさしく思春期の俺ではないか、と。

「好きの極みは相手との同化」という松居監督の恋愛観

男たちは自分の名を捨て、尾崎豊、ブラピ、坂本龍馬に、それぞれが容姿から人格にいたるまで、なりきって生きている。いずれも、彼らが恋い焦がれている“姫”が好きな人物。なおかつ、彼女の部屋の向かいのアパートの一室を拠点に、“姫”の行動を日がな見守っている。しかも、10年間もの長きに渡って!

『君が君で君だ』
7月7日(土)全国公開(配給:ティ・ジョイ)
(c)2018「君が君で君だ」製作委員会

相手のことが好きすぎて、尊く思うがゆえの奇行(!?)と言ってしまえば、確かにそうかもしれない。しかし、一見この異常とも思える彼らの行為こそ、文頭で引用した「好きの極みは相手との同化」という松居監督の思考を具現したものなのだ。

相手の絶対領域を突破して、身も心もお互いに分かち合うのが恋愛だとしたら、相手と一定の距離を保ちつつ、想いを届けることなく深化させていくのが純愛だというロジックに基づき、3人の男はなおも尾崎とブラピと龍馬になりきる。彼女を汚すことなく、自分たちの想いを昇華させたい──その一心で。

       

もはや狂気すら感じさせる池松壮亮の“尾崎豊憑依”

前述したように、映画は池松壮亮、満島真之介、大倉孝二の3人が、それぞれ尾崎、ブラピ、龍馬になりきり、日本でもヒットした『息もできない』(2009年)のキム・コッピ扮するヒロインへ“異常なる純情”を注ぐさまを描いていく。

その倒錯した風変わりなラブストーリーの行方もさることながら、俳優陣3人の“なりきり”ぶりも見もの。中でも、狂気すら感じさせる池松壮亮の熱量に満ちた憑依っぷりが、すさまじい。

『君が君で君だ』
7月7日(土)全国公開(配給:ティ・ジョイ)
(c)2018「君が君で君だ」製作委員会

聞けば、幼稚園のころ、送り迎えで父の運転する車のカーステレオから、いつも尾崎の楽曲が流れていたそうだ。特に池松が好きだったのが、映画の中でも歌われている名曲「僕が僕であるために」で、父とともに熱唱していたとのこと。

そんな縁もあったからなのか、だんだんと池松に在りし日(ライブ中に高揚して、7メートル超の照明セットから飛び降りて足を骨折したころ)の尾崎の姿がダブってくるのだ。それもまた、好きであるがゆえに同化した一例と言えるのではないか……と、思ったりもする。

名曲「僕が僕であるために」にオマージュを捧げたタイトル

『君が君で君だ』
7月7日(土)全国公開(配給:ティ・ジョイ)
(c)2018「君が君で君だ」製作委員会

ちなみに、松居監督は多感だった中学1年生のころ、両親の離婚を経験している。大きすぎる喪失感と、直面せざるを得なかった孤独を抱えて引きこもった部屋の中で、彼の魂を救済したのが尾崎豊の楽曲だったという。勘のいい人はもうお気づきだろう。タイトルの『君が君で君だ』は、「僕が僕であるために」を二人称にアレンジしたものであり、オマージュを捧げたものでもある。

松居監督の「好きな相手と同化したい」という恋愛観は、もっとも愛に飢えていた中学生時代に形成されたからこそ──と考えれば、なるほど合点がいくし、尾崎の曲との親和性についても説明がつく。

今後は、より多くの人に届く娯楽性の高い作風にシフトしていきたいと話しているだけに、『君が君で君だ』は“第1期松居大悟”の集大成とも言えそう。そういった意味でも、注目の一作と位置づけられるだろう。