1972年のスクリーンデビュー以来、その美貌と確かな演技力でフランスの映画界を支えてきた女優イザベル・ユペール。2001年の『ピアニスト』でカンヌ国際映画祭の女優賞を獲得し、近年では『エル ELLE』(2017年)で米アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされました。そんな彼女が7月7日(土)より公開中の主演最新作『エヴァ』で謎多き娼婦を演じ、またも称賛の声が集まっています。彼女が演じる妖艶すぎる娼婦エヴァの魅力をひも解いてみましょう。

本当に60代?イザベル・ユペールが魅せる“魔性の女”

『エヴァ』は、イギリスの作家ジェイムズ・ハドリー・チェイスの傑作小説「悪女イヴ」を基に、物語の舞台を現代のフランスに置き換えて映画化した官能ドラマ。

ユペールが演じたエヴァ役は、1963年の映画『エヴァの匂い』で大女優ジャンヌ・モローも演じたことのある“伝説の悪女”として知られるキャラクターです。一方、その相手役となる新進作家の美しい男ベルトランは、『ハンニバル・ライジング』(2007年)でレクター博士の若き日を演じ、世界的にブレイクした人気俳優ギャスパー・ウリエルが演じています。

エヴァは、男を破滅へと導く“ファム・ファタール(魔性の女)”。彼女と出会った頃のベルトランは、他人の戯曲を盗作して作家デビューし、パリで成功を収めていました。ところが、実力のない彼は一向に筆が進まず、執筆のために訪れたアヌシーの別荘で、エヴァと運命の出会いを果たすことになるのです。その謎めいた美貌に、一瞬で虜になったベルトランは、“次作の題材”という理由でエヴァに近付きますが、当の彼女からは冷たくあしらわれる始末……。

(c)2017 MACASSAR PRODUCTIONS - EUROPACORP - ARTE France CINEMA - NJJENTERTAINMENT - SCOPE PICTURES

エヴァを演じるユペールは、真っ赤な口紅にシースルードレスを着こなし、60代とはとても思えない妖艶な出で立ちで、ベルトランを惑わせます。名を尋ねた彼に向かって、ぶっきらぼうに「エヴァ」とだけ言い放つ挑発的な目線や、鏡の前でルージュを引くときの、冷たくも意思を感じさせる眼差し……。この色気には、ベルトランでなくてもゾクッとくるはず。実際、相手役のギャスパー・ウリエルとは31歳の年齢差がありますが、その差をまったく感じさせない艶やかさと圧倒的な演技力で、素性の知れない娼婦を見事に演じきっています。

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フランスの至宝!監督・共演者からも惜しみない賛辞の声

ユペールは、映画デビューから現在に至るまで、クロード・シャブロル、ジャン=リュック・ゴダール、ミヒャエル・ハネケなど、映画史に名を刻む巨匠たちの作品に出演。演技派女優として国際的にも活躍する彼女は“フランスの至宝”とまで称されています。

そんな彼女は、原作小説を読んで「ジェイムズ・ハドリー・チェイスは私のためにこれを書いたという感じがしたの」とコメントするほど、エヴァ役にシンパシーを感じていた様子。さらに、「大変だったのは、これはフィクションの中の役だということを忘れてしまうこと」と、本作に相当のめり込んでいたことを明かしています。

彼女が映画デビューしてから12年後の1984年に生まれたギャスパー・ウリエルは、当然のことながら俳優としてのキャリアの差も歴然。そんな大先輩との共演について、「イザベルとの共演となれば、緊張するのは確かだ。なにせベテランの大女優だからね」と、その葛藤をストレートに告白。さらに「相手役の役者を尊敬すればするほど、圧倒されてしまうことは避けられないね。刺激的だが恐怖も感じる」と、大女優への畏敬を込めて語ります。

また、1981年の『鳩の翼』でユペールと組んで以来、本作が6度目のタッグとなる名匠ブノワ・ジャコー監督は「初めてカメラを向けたあの頃とほとんど変わらない。カメラを向けると女優として彼女だけが持っている独特のものが全身から伝わってくるんだ」と、盟友だから言える愛情あふれる言葉で、その演技力を絶賛しています。

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名実ともに国際派女優としての地位を確立した後も、伝説の悪女というエヴァのような役にも果敢に挑むイザベル・ユペール。還暦過ぎという年齢をまったく感じさせず、強烈な役を演じれば演じるほど、逆に彼女の魅力がさらに増していっているよう。その常にチャレンジし続ける意欲的な姿勢こそが、女優としても、女性としても、輝きを失わない秘訣かもしれません。

(文/スズキヒロシ・サンクレイオ翼)