文=よしひろまさみち/Avanti Press

7月1日までの動員数252万人、興行収入30億7千万円を突破した『万引き家族』。これは間違いなく、今年の興行成績総合ランキングで上位に食い込む勢いだ。そのヒットの要因は、これまで是枝裕和監督作品に明るくなかった人まで劇場に足を運ばせたことが最大のポイント。これまで是枝作品の中の最大のヒットであった、最終興収32億円の『そして父になる』(2013年)をしのぐ勢い。今作の勢いのすごさは比して明らか。お茶の間の話題となることの強さが、改めてわかる。

クオリティは高いのに是枝作品の最高傑作じゃない!?

『万引き家族』TOHOシネマズ日比谷ほか全国にてロードショー中
(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

映画としてのクオリティは、是枝作品で最高レベルだし、監督の持ち味の一つにもなっている子役の扱いのうまさや、セリフに頼らない演出など、非の打ち所がない。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したのは伊達ではないだろう。だが、本当に是枝作品の“最高傑作”か、と言われると少々違和感がある。これまでの是枝作品を観てきた人には既視感があるのだ。

『万引き家族』は、いわば『誰も知らない』(2004年)と『そして父になる』のマッシュアップに、新たな社会的事象と現代人の肖像を混ぜ込んだ作品。しかも主人公一家の大人キャラを演じたのは、樹木希林、リリー・フランキーといった、演技面では満点の是枝作品常連安定株。言葉は悪いが、是枝監督はこの作品で新しいことを何もしていないともいえる。だからこそ、「是枝監督の最高傑作」と称されることに違和感があるのだ。しかし、そんな既視感があるからといって、マンネリ感があるわけではない。やはり傑作の域には達している。これはなぜか。

映画を傑作へと押し上げた要素は?

それはひとえに、あの一家を引っかき回す役となった、安藤サクラと松岡茉優の存在だ。

安藤が演じた信代は、リリー演じる夫の治にそっと寄り添い、治の万引きに付き合わされる子ども達の母としてかいがいしく立ち回り、樹木が扮した初枝と本当に仲のいい嫁姑を演じる。それもほとんどのシーンが笑顔。その笑顔によって、頼りない一家の結束力がグッと高まっている。他のキャラクターと違って、一家全員と深く関わり、重要な決断を下すシーンでは、信代が完全に物語を主導している。

『万引き家族』TOHOシネマズ日比谷ほか全国にてロードショー中
(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

また、松岡が演じた信代の妹・亜紀は、初枝との関わりは深いものの、一家の中で一番外の世界と接触している存在。この作品は前半こそ浮世離れした家族ドラマだが、一家に異変が起きてからは、一気に彼ら全員が現実社会と関わりを持ち始める。その際に、亜紀の存在が非常に大きなウェイトを占める仕掛けだ。

2人の女優が映画にもたらすコントラストと接点

まず信代を演じた安藤サクラは、これまでのフィルモグラフィを見ても分かるように変幻自在の演技力を持った実力派だ。主役だろうが脇役だろうが、彼女は飛び出して見える。今作での彼女の多くの評価は「体を張った演技」と評されているが、彼女のすごさはそこだけではない。

一家の中でもっとも静と動のコントラストがハッキリと出る役で、その緩急のつけ方が絶妙。カンヌの審査員長を務めたケイト・ブランシェットが、「彼女が泣くシーンがすごくて、今後、審査員の私達が出演する映画の中であの泣き方をしたらマネをしたと思ってください」と評したポイントもそこだろう。特に、彼女が引っ張る後半部での、モノ言わぬ芝居は息を呑む。

(c)Pascal Le Segretain/2018 Getty Images

亜紀を演じた松岡茉優は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」をきっかけにブレイクした後、伸びまくっている感がある。昨年の主演映画『勝手にふるえてろ』でみせた、コメディのセンスとシリアスの演技のバランスの良さは、この世代の女優の中では随一だろう。

そんな彼女が、暮らす環境に問題のある自覚はあるものの、一家を支える柱の一つとして、一人外の世界と関わる亜紀を演じたのは、じつにいいキャスティング。出演シーンこそ他のキャストに比べて少ないものの、観賞後にジワジワと存在感が迫り来るキャラクターは亜紀ではないだろうか。

『万引き家族』TOHOシネマズ日比谷ほか全国にてロードショー中
(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

是枝作品の新顔である、この2人の奮闘があったからこそ、誰が観ても心に響く、リピートして観たくなる作品に昇華したのではないかと思う。一度観たけど何かひっかかって気になっている、という人は、彼女らに注目してもう一度観賞をしてもらいたい。