荒れ果てた保留地で発見された少女の凍死体をきっかけに、FBIの新人女性捜査官らが事件の真相に辿り着くまでをスリリングに描いた『ウインド・リバー』(7月27日より公開)。全米4館でスタートし、SNSや口コミで拡大して公開4週目には2,095館へと拡大。6週連続TOP10入りというロングランの大ヒットを記録した衝撃作だ。

第70回カンヌ国際映画祭で「ある視点部門」監督賞受賞の話題作

アメリカ社会の暗部を鋭い視点で映し出し、アカデミー賞で高い評価を得た『ボーダーライン』(2015年)、『最後の追跡』(2016年)の脚本家テイラー・シェリダンが、満を持して自ら監督を手掛けた『ウインド・リバー』。

シェリダン監督が、ネイティブアメリカンの保留地で頻発する女性たちの失踪や性犯罪に触発され、色濃い差別や偏見が渦巻くアメリカの信じがたい現状を告発したのが本作。

まずは、雪原を走り抜けるスノーモービルを空撮で捉えたダイナミックな映像に目を奪われ、突如始まる大迫力の銃撃戦に度肝を抜かれる。さらに、ニック・ケイヴとウォーレン・エリスが紡ぐ荘厳な音楽が、エモーショナルなドラマに神秘性を吹き込んでいる。

まさに、第70回カンヌ国際映画祭で「ある視点部門」の監督賞に輝いたのも納得の完成度なのだ。

(C) 2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

FBIの新人女性捜査官の前に立ちはだかる、理不尽な殺人事件の真相

物語の舞台となるのは、厳寒の大自然に閉ざされたアメリカ中西部ワイオミング州のウインド・リバー。そこである日、少女の凍死体が発見される。

猛吹雪のなか、FBIから単身派遣されてきたのは、ラスベガスから出張中の新人女性捜査官・ジェーン。殺人捜査の経験もほとんどないジェーンは、裁判所から直行してきたため雪山の装備も一切もたず、「この格好じゃ無理だと思う?」と尋ねる始末。

地元の部族警察長と、遺体の第一発見者である野生生物局のハンター、コリーの協力を得て早速捜査に取り掛かるが、事態はいきなり暗礁に乗り上げる。

凍死体で発見された少女にはレイプの痕跡があり、少女が何者かに襲われ、極限状態を裸足で10キロも走って逃げる途中で息絶えたことは明白だ。

しかし、死因はあくまで「肺出血」。マイナス30℃近くにもなる冷気を吸いながら走ったせいで、肺が凍って血が噴き出し窒息死したのだという。

鑑識は「他殺」と認定できず、FBIの応援も要請できない。ジェーンとコリーは幾多の困難に見舞われながらも、理不尽な殺人事件の真相ににじり寄っていく。その様が、圧倒的な緊張感とともに映し出されていくのだ。

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ジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンによる演技を超越したリアリティ

なんといってもこの映画の一番の見どころは、ネイティブアメリカンの女性に対する圧力や暴力の実態を、白人男女の視点からリアリティたっぷりに描きつつ、極上のクライムサスペンスとして仕上げたことだろう。

コリーを演じたジェレミー・レナーと、ジェーン役のエリザベス・オルセンが極限状態の中、文字通り体当たりで演じ切る姿は、もはや役者の演技の域を超えている。必死の想いで貫こうとする正義と恐れが彼らの瞳に映し出されて、観る者の心に深く突き刺さるのだ。

とはいえ、どんなに悲惨な状況であっても、リアリティだけではなかなか多くの人には届かない。過酷な現実をエンターテインメントの力で白日の下にさらすことで、日ごろ「自分とは関係がない」と思い込んでいる観客の心をも、グッと掴むことができるのだ。

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映画のエンディングに映し出されるのは、「数ある失踪者の統計にネイティブアメリカンの女性のデータは存在しない。実際の失踪者の人数は不明である」というテロップだ。シェリダン監督が「この映画を作らなければいけない」と感じた想いの強さが、この一文に込められている。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)