文=金田裕美子/Avanti Press

「ジブリ飯」。そんな言葉が一般的に使われているほど、ジブリ作品に登場する食べ物は印象的で、食欲をそそります。本コラムでも、これまでに『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)のミートボール・スパゲティ、『千と千尋の神隠し』(2001年)のぷにぷにした謎の食べ物、『天空の城ラピュタ』(1986年)の目玉焼きトーストなどを再現してきました。そんななか、「ジブリ飯ならぜひこれも!」という声が多いのが、『魔女の宅急便』(1989年)に出てくる「ニシンとかぼちゃの包み焼き」です。みなさまのありがたいご要望にお応えして、今回はこれを作ってみます。

ジブリ作品なかでも特に高い人気を誇る『魔女の宅急便』は、角野栄子による児童文学の映像化。魔女のお母さんと人間のお父さんを持つ少女キキの成長の物語です。キキは13歳の満月の夜、親元を離れるべくほうきに乗って故郷の町を出発します。魔女のいない町で独り立ちする、というのが一人前になるための魔女のしきたりなのです。相棒の黒猫、ジジとともにコリコという海辺の町に住むことにしたキキは、パン屋さんの2階に居候させてもらい、ほうきで空を飛べるという能力を生かして「魔女の宅急便」を開業します。

『魔女の宅急便』
(c)1989 角野栄子・Studio Ghibli・N
<発売元>ウォルト・ディズニー・ジャパン  <価格>4700円(税別)

町にも仕事にも慣れてきたころ、キキに舞い込んだのが「孫の誕生日に温かい料理を届けてほしい」というおばあさんからの依頼。この料理というのが、おばあさんの自慢料理「ニシンとかぼちゃの包み焼き」です。オーブンが故障してしまい、キキとおばあさんは何年も使っていなかった薪の窯で苦労して焼き上げ、キキは冷めないうちにと大雨のなかずぶ濡れになりながら急いで配達します。それなのに、受け取った孫娘の反応は「私、このパイ嫌いなのよね」という非情なものでありました。

「えー、なんてひどい。せっかく作って届けてくれたのに」と思う一方、「今年もまた届いた」おばあちゃん自慢のパイを「嫌い」とあっさり言い放ってしまうには、それなりのわけがあるに違いない、という気もします。毎年もらって飽きているのか、それとも単にこのパイが美味しくないのか。たしかに、ニシンとかぼちゃという組み合わせはビミョー、というかちょっと味の想像がつきません。それなら自分で作って食べてみるしかない!

と張り切ってみたものの、映画で観ることができるのはパイの外側だけ。中がどうなっているのか、ニシンとかぼちゃ以外に何が入っているのか、どういう味付けなのか、まったくわかりません。そもそもこれはどこの料理なのか。原作を読んでみましたが、おばあさんのパイのエピソードはありませんでした。このシーンは映画だけのオリジナルのようです。ありゃ。……最初からつまずきます。

まずはモデルとなったパイ探しから

キキの住むコリコは架空の町ですが、調べてみると、風景はヨーロッパやアメリカのさまざまな町をモデルにしているらしい。ロケハンの大半はスウェーデンで行われたということなので、最も濃くイメージが反映されているのは北欧のようです。

確かに北欧でニシンはポピュラーな食材。そういえばスウェーデンには、「世界一臭い食べ物」とされる、ニシンの塩漬けを発酵させた缶詰「シュールストレミング」もあります。ま、これはパイには使わないでしょうが。

スウェーデン、ストックホルムの街並み
(c)Oleksiy Mark/shutterstock

超便利なネットの翻訳機能を使い、スウェーデン語の「ニシン」「かぼちゃ」「パイ」でレシピを検索してみます。でも該当する料理は出てきません。デンマーク語でもノルウェー語でも同じ。

そういえば、本コラムVol.4で「『千と千尋の神隠し』のフルコース メインはぶにーんとのびる謎の食べ物」に挑戦した際、スタジオジブリに直接「あの食べ物は何ですか?」と問い合わせたら、「アニメーションの世界なので感覚で描かれているものが多く、はっきり申し上げることはできません」というお答えをいただいたのでした。「ニシンとかぼちゃの包み焼き」も、特定のモデルがあるわけではないのかもしれません。

そこで、これに近い料理はないか探してみると、イギリスの「スターゲイジーパイ(星を見上げるパイ)」が浮上して参りました。このパイ、ロマンチックなネーミングとは裏腹に、かなりインパクトのあるビジュアル。お頭つきの魚がパイ皮を突き破って星を見上げているのです。

スターゲイジーパイ。星を見上げた魚のみなさん
(c)Davis Dorss/shutterstock

どうしてこんな面白い形になったのかは諸説あるようですが、見上げている魚にはイワシやニシンが使われることが多いらしい。ニシンのパイには違いありません。ホワイトソースを使うこのスターゲイジーパイのレシピを参考に、ニシンとかぼちゃの包み焼きを作ってみます。

ニシンとかぼちゃの包み焼きに挑戦!

まず用意するのはニシン。しかしまたここで問題が。おばあさんは、どのような状態のニシンを使っているのでしょうか。スウェーデンのニシン料理のレシピを見てみると、ほとんどがお酢に漬けたマリネ系です。唯一見つけた火の通った料理も、じゃがいもの上にニシンの酢漬けをのせてオーブン焼きにしたもの。

3種のニシンで試してみる! まずは酢漬け

というわけでスウェーデン産ニシンの酢漬けの瓶詰を入手して参りました。さっそくこれを味見してみると……酸っぱいんだけどかなり甘い。甘いかぼちゃの上に、さらに甘いニシン?? 美味しいパイが出来あがる気が、まったくしません。「私、このパイ嫌い」が現実味を帯びてきます。お酢に漬けていない、生のニシンを使ったほうがいいんじゃ……。

酸っぱくて甘ーいスウェーデンの酢漬けニシン

次に塩漬けニシン!

夏のこの時期、生のニシンは入手が難しいと思われるので、オランダ産の塩漬けニシンを用意しました。塩漬けといってもそんなに塩辛いわけではなく、さっと塩抜きしてそのまま食べられる、お刺身のような感覚のニシンです。

オランダでは、ハーリングと呼ばれるこのニシンの屋台が町中にあり、毎年6月上旬のニシン解禁日には人々がボージョレヌーヴォー解禁どころではない大盛り上がりをするんだとか。本当は玉ねぎのみじん切りをのせて生でいただくものなのですが、これをパイに使ってみます。

オランダの塩漬けニシン

なんと生のニシン発見!

酢漬けと塩漬けを用意して準備万端、と思っていたら、駅前の魚屋さんで入手困難と諦めていた生のニシン(お買い得品)を発見してしまいました。こうなったら3種のニシンを使って味比べをしてみちゃいます。

駅前で運命的に出会った生ニシン

かぼちゃ、じゃがいも、パイの中身も2種!

次に用意するのはかぼちゃ。でもわたくし、かぼちゃの甘さがどうしてもニシンに合わないような気がするのです。スウェーデンでは、ニシン料理の付け合わせといえばじゃがいもらしく、マリネのサイドにも、オーブン焼きにも使われているのはじゃがいも。おばあさんのレシピを疑った私は、半分はかぼちゃ、もう半分はじゃがいもを使い、これも食べ比べてみることにしました。

かぼちゃ、じゃがいもはチンしてつぶしておきます

生のニシンは三枚におろして細かい骨を抜き取り、塩、こしょう、タイムをふります。

 

油をひいたフライパンで両面を焼き、お皿に取り出します。塩漬けも同じく両面焼いてお皿に。

かぼちゃは適当な大きさに切って電子レンジでチン。皮をとって黄色い部分だけつぶしておきます。じゃがいもは適当な大きさに切って茹で(レンジでチンでも)、こちらもつぶしておきます。

ホワイトソースを作ります。鍋にバターを溶かして小麦粉を振り入れ、木べらでかき混ぜながら小麦粉がさらっとするまでじっくり炒めます。ここに少しずつ牛乳を加えてダマにならないように混ぜ、なめらかなとろみがつくまで弱火で煮ます。コンソメ、塩こしょうを加えてホワイトソースの出来上がり。

フライパンにバター、玉ねぎの薄切り、スライスしたマッシュルームを入れて炒め、塩こしょう。先ほどのホワイトソースを入れてよく混ぜておきます。

玉ねぎとマッシュルーム入りのホワイトソース

グラタン皿にバターを塗り、かぼちゃとじゃがいもを半々に敷き詰めます。その上にニシン3種、ホワイトソースをまんべんなくのせ、ピザ用チーズをパラパラ。

かぼちゃとじゃがいもを半分ずつ。ニシンは左から、生、塩漬け、酢漬け

上からパイ生地をかぶせます。今回は冷凍のパイシートを使いましたが、もちろんお時間のある方は手作りでどうぞ。

さらに、映画と同じように魚の形に切り抜いたパイ生地をのせ、表面に卵黄を塗ります。最後に黒オリーブを飾り、200度に熱したオーブンへ。

中身はすべて火が通っているので、20~30分焼いてパイ表面がおいしそうに色づけば、ニシンとかぼちゃの包み焼きの完成です!

3種のニシン×かぼちゃorじゃがいも、一番美味しいのは!?

いい香りがして、見た目も美味しそうです。しかし問題は味。3種のニシン、そしてかぼちゃとじゃがいもの対決やいかに。まず生ニシンを使った部分を食べてみます。ほう。淡泊なニシンとホワイトソースの組み合わせは、なんとなくパンチには欠けますが、それなりに美味しい。心配していた甘いかぼちゃとの相性も悪くありません。というより、じゃがいもよりかぼちゃのほうがコクがあっていいかも。おばあさん、疑ってすみませんでした。塩漬けニシンの部分は、生とは違う「みしっと魚っぽい」感じ。これも普通に美味しくいただけます。

最後は酢漬けニシンの部分。うっ……。酸っぱい。甘い。クドい。食べているのがかぼちゃの部分なのかじゃがいもの部分のなのかわからないほど、酢漬けの主張が激しい。そしてそこに加わるホワイトソースとのミスマッチ。使った瓶詰のせいなのかどうかわかりませんが、これはひと口食べて「ハイ、ありがとうございました」という感じです。

というわけで、一番美味しかったのは、生ニシンとかぼちゃの組み合わせでした。ここで心配になったのは、あのおばあさんがどのようなニシンを使っていたのかということ。もしかして、私が使ったのと同じような主張の激しい酢漬けニシンだったのでは。

確かにこれが毎年誕生日に贈られてきたら、「私、このパイ嫌いなのよね」と初対面の人にまで訴えたくなるかもしれません。おばあさん、お孫さんのためにも、生のニシンを使うといいですよ……。

《材料》
ニシン(生のもの推奨)、かぼちゃ、じゃがいも、玉ねぎ、マッシュルーム、ホワイトソース(バター、小麦粉、牛乳、塩、こしょう、コンソメ)、ピザ用チーズ、塩、こしょう、タイム、パイ生地(冷凍)、卵黄
《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
ほうき、赤いリボン、黒いワンピース、黒猫、バスケット、薪の窯、デッキブラシ