「あなたのことはそれほど」、「コンフィデンスマンJP」など、話題のTVドラマへの出演で注目度が高まっている東出昌大だが、今年はとりわけ映画での大躍進が際立つ。現在公開中の『OVER DRIVE』、『パンク侍、斬られて候』に続いて、この夏は3本の出演作が立て続けに公開される。各作品のなかで、“俳優・東出昌大”としての真価がそれぞれ表出しており、彼の底知れぬパワーに圧倒されること間違いなし。公開順に追いかけてみよう。

菊とギロチン 東出昌大

映画『菊とギロチン』より(C) 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

母性本能をくすぐるチャーミングさ

まず、現在公開中の『菊とギロチン』。異彩を放つタイトルだが、これは『友罪』の瀬々敬久監督が手がけた渾身の自主映画。つまり、どうしても作りたかった念願の一作だ。大正時代末期、実在した女相撲の力士たちと、アナキスト(運動家)たちの青春群像を描く。

菊とギロチン 女相撲映画

映画『菊とギロチン』より(C) 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

東出が演じるのは詩人であり、アナキスト集団のリーダーである中濱鐵という役どころだが、モデルとなった人物がいるとは思えないほど、自由奔放なキャラクターを創り上げている。カリスマ性はある。行動力もある。だが、反政府主義者でありながら、結局、爆弾事件にも殺人にも手を染めなかった男。無軌道に見えてどこか情けなく、豪快に思えて案外可愛らしい。そんな、まるで漫画に登場しそうな人物を、東出は実に楽しそうに快演している。

菊とギロチン 東出昌大 中濱鐵

映画『菊とギロチン』より(C) 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

ご存知のように、東出は189センチの長身だが、ここでは威圧感は微塵も感じさせない。それどころか人懐っこくて、ときに観る者の母性本能をかき立ててくれるような一面を垣間見せる。何か考えているようで、まるで何も考えていない。そんな危なっかしさから「守ってあげたくなる」のだ。

そう、ここでの彼は、長身を逆手にとったようなチャーミングさで、映画を色づかせている。

菊とギロチン 東出昌大身長

映画『菊とギロチン』より(C) 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

魂をサラウンドさせる声の魔力

7月14日から公開されるドキュメンタリー映画『ピース・ニッポン』では、小泉今日子と共にナビゲーターを務めている。日本各地の絶景を8年かけて記録した映像のバックグラウンドで、日本の歴史と美学についての言葉が鳴り響く。

ピース・ニッポン 富士山

映画『ピース・ニッポン』より(C)2018 PEACE NIPPON PROJECT LLC

小泉と東出は、言ってみれば歌い手の「デュオ」のようなもので、定められたパートをそれぞれ朗読するのではなく、ときには交互に言葉を取り交わしていくようなヴィヴィッドなナレーションを展開している。メインを張るのは小泉だが、その分、東出は臨機応変に絡み、変幻自在の声の魔力を解き放っている。

基本的には、丁寧な語り口。シックで甘やかで、心に沁み入るように言葉を発する。その一方で、歴史上の人物や学者が残した一節を読み込む際には、俳優としての技を駆使して、ハッと胸を揺さぶるような声を聞かせる。いつ、それが立ち現れるのかわからないから、ドキドキさせられる。

たとえば東出が「天然の無常」と口にしたとき、私たちの耳は果実をむさぼるように聞き入るだろう。あるいは彼が、聖徳太子が遺した言葉を体現するとき、偉人の呼吸のすぐそばにいることにときめくだろう。

小泉の声質との相性もばっちりで、女声と男声のジョイントは、魂のサラウンド効果をもたらしている。

両極に位置する二人の男を見事に演じきる

寝ても覚めても 東出昌大一人二役

映画『寝ても覚めても』より(C)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

9月1日に公開される『寝ても覚めても』は、気鋭・濱口竜介監督の作品で今年のカンヌ映画祭に出品されたことでも話題を呼んだ。かつての恋人に瓜二つの別人と出逢い、交際し始めるものの、思わぬ運命の流転を生きることになる女性の物語だ。東出は、一人で二役を演じる。

まず、冒頭に登場する放浪詩人のようなたたずまいの東出が、とんでもない魅力を放つ。この男、絶対一つ所に留まるはずがない、一緒にいたらきっと不幸になる。そう直感しながらも、追いかけずにはいられない。そんな吸引力がワイルドに爆発している。

その予感は確信に変わる。案の定、彼はヒロインのもとから消える。失踪なのか、失恋なのか、それすらもわからないまま、彼女は残り香をかぐように彼そっくりの男と恋に落ちる。

寝ても覚めても 東出昌大サブ1

映画『寝ても覚めても』より(C)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

ルックスこそ一緒ながら、新しい恋人はデンジャラスな香りはなく、ただただ優しく思いやりがある。それに不満があるわけではない。精神の安定は保たれる。だが、ふとした弾みで、主人公はかつてのあの男を思い出しもする。

どこに飛んで行ってしまうかわからない、シャボン玉のような男。背伸びせず、地道に「いま、ここ」を生きようとする男。両極に位置する二人を東出昌大は、ナチュラルに存在させている。

重要なのは、どちらの男も正体が不明であるということだ。まるで、放浪に理由はないとでも言うように。まるで、優しさに理由はないとでも言うように。

寝ても覚めても 東出昌大仲本工事

映画『寝ても覚めても』より(C)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

対照的な存在を、コントラストも明瞭に演じながら、両者をつなぐ「秘密」を滲ませながらかたちにする東出は、非凡な演じ手と呼ぶしかない。私たちは気がつけば、演技を吟味することを忘れ、ヒロインに感情移入し、二人の男の影を追いかけているのだ。

まだまだ、私たちの知らない東出昌大が存在する。そう知覚させる3作品を、ぜひ堪能してほしい。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)