文=圷 滋夫(あくつ しげお)/Avanti Press

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(以下BVSC)を知っていますか? それはキューバの音楽グループの名前で、1990年代末に世界中で“社会現象”とも言えるブームを巻き起こしました。元々はキューバの首都ハバナにかつて実在した会員制の音楽クラブの名称で、それがそのまま1997年にリリースされたアルバムのタイトルとグループ名にもなったのです。

世界中にキューバ・ブームを巻き起こした『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
(C)2017 Broad Green Pictures LLC

このアルバムは、世界各地のさまざまな民族音楽を取り入れたロックの名盤を何枚も生み出してきた偉大なアメリカ人ギタリスト、ライ・クーダーがプロデュースしました。ライはすでに引退していたキューバの老音楽家たちを探し当て、時代の流れに埋もれてしまったキューバの1930〜50年代の音楽を、彼らの演奏によって蘇らせ、その極上のアルバムは見事グラミー賞を受賞したのです。

そして、ライがBVSCの主要メンバーである歌手のイブライム・フェレールのソロ作を録音するため2年ぶりに再びキューバを訪れてから、BVSCがニューヨークの音楽の殿堂カーネギー・ホールで公演を行うまでを、名匠ヴィム・ヴェンダースがドキュメンタリー映画にしました。

ちなみにライはヴェンダースの長年の友人であり、彼の傑作『パリ、テキサス』(1984年)や『エンド・オブ・バイオレンス』(1997年)の音楽を担当しています。

そして、この映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は1999年から世界中で公開され大ヒットを記録。アカデミー賞にもノミネートされ、BVSCの人気は爆発的に広がったのです。

もちろん日本でも2000年に公開され、今はなきシネマライズ渋谷で異例の大ヒット。翌2001年にはグループが来日し、東京国際フォーラム(ホールA)を満席にして、その感動はさらに広がりました。音楽と映画の枠を超えて、サルサ・ダンスやキューバ料理、シガー・バーが流行。ついにはキューバ自体に対する興味が熱狂的に高まって、急増するキューバ旅行者のためにキューバ直行便が就航されたほどです。

グループの大成功から解散ツアーまでを追った18年ぶりの続編

本作『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』(製作総指揮:ヴィム・ヴェンダース、監督:ルーシー・ウォーカー)はその18年ぶりの続編。グループの大成功から、解散が決まって行われた世界を巡る“アディオス・ツアー”までを記録した音楽ドキュメンタリーです。

前作のラストシーンであるカーネギー・ホール公演の模様から始まり、ツアー最終地の地元ハバナ公演までを追っていますが、その合間には前作に収まり切らなかった多くのエピソードも語られます。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
(C)2017 Broad Green Pictures LLC

まずメンバー個々のより深い人生や音楽的ルーツについて本人が語ったインタビューを、彼らが若い頃の貴重なアーカイヴ映像を交えながら紹介します。その中には、彼らの代名詞ともいえるあの名曲「チャン・チャン」の誕生秘話や、BVSC の“声”であるイブライムと、“華”である歌姫オマーラ・ポルトゥオンドがまだ不遇だった50年代に共演していた映像もあります。この映像を観ているからこそ、その後にBVSCで世界に認められた二人が寄り添って歌う姿にグッと来るのです!

また、あの傑作アルバムが完成するまでの詳しい経緯と録音スタジオでの具体的なやり取りや、BVSCにとって初めての公演となったアムステルダムでの記者会見の様子と不安を感じさせるリハーサル風景、それにカーネギー・ホールで大成功を収めた後の日本を含む世界ツアーの様子などが、当時の映像とともに臨場感たっぷりに語られます。

そして2015年、オバマ大統領に招待されたホワイトハウスでの演奏や、逆に翌年のオバマ大統領がキューバを訪れた様子も描かれ、キューバとアメリカの国交正常化が実現した後の動きも見て取れます。さらにキューバの歴史を絡めたキューバ音楽の成り立ちについても語られ、キューバやキューバ音楽をよく知らない初心者にとっても、とても分かりやすい作りになっているのです。

スクリーンから漂う、長い人生を全うした充実感

だからと言って音楽マニアには物足りない内容かと言えば、決してそんなことはありません。例えばBVSCのピアニスト、ルベーン・ゴンサレスがプロになるきっかけを作ったのは、ギターに似た楽器トレースを弾き歌う盲目の音楽家で、さまざまなキューバ音楽の礎を築いた伝説のアルセニオ・ロドリゲスです。その彼とルベーンが演奏しているお宝映像には、ディープなラテン音楽マニアも思わず「おー、動いてる!」と、声が出てしまうのではないでしょうか。

また現代ジャズ好きであれば、字幕には反映されていませんが、キューバが誇るジャズ・ピアニスト、ロベルト・フォンセカがBVSCと共演している姿を、一瞬だけですが確認することが出来るでしょう。何よりイブライムが砕けた雰囲気の演奏の場で、周囲の状況に応じて即興で繰り出す数々の言葉とメロディーの素晴らしさに、必ずや拍手を贈りたくなるはずです。

本作の冒頭で、キューバ革命を先導した英雄フィデル・カストロの死を伝える声明が流れます。これは前作の冒頭がカストロの映った写真について、楽しそうに談笑している場面だったのを受けたものですが、同時に本作の終盤で語られる多くの“死”を象徴するものでもあるでしょう。

BVSCのギタリスト/歌手のコンパイ・セグンドは、前作の時点ですでに90歳で、他のメンバーの多くも70歳を超えていました。あれから18年が経ち、メンバーのほとんどが鬼籍に入りました。それでも本作が描く彼らの死に湿っぽさはなく、むしろ長い人生を全うした充実感が漂います。

私たちが幸せに生き、死ぬための大きなヒント

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
(C)2017 Broad Green Pictures LLC

1950年代まではラテン音楽の中心的存在だったキューバ音楽が、革命後の1961年にアメリカとの国交を断絶して以来、世界との関係も絶たれ、音楽家たちの活動の場は一挙に減ってしまいました。同時にその頃に流入して来たロックやジャズなどの隆盛によって、キューバ音楽自体が衰退して行きました。後にBVSCのメンバーとなった多くの音楽家も次第に忘れ去られ、楽器を手放してしまった人もいました。しかしライ・クーダーたちによって“発見”された彼らは、再び愛する音楽を仲間と奏でるようになったのです。

その後の朗らかで屈託のない彼らの振る舞いと言動には、「人に必要とされ、自分も役に立っていると感じる」喜びが満ち溢れています。そして不遇の時代もあるがままに受け入れ、成功した後も富と名声に溺れることなく、多くを望まない謙虚な人柄と自然体の生き方には、私たちが幸せに生き、そして死ぬための大きなヒントが隠されているのではないでしょうか?

「最後の音は墓の中で弾くよ」「最期の時まで歌っていたい」

前作で90歳にして「今、6番目の子どもを作っている」とうそぶいていたコンパイ・セグンドは、日本で言えば森繁久彌か高田純次のような憎めないキャラで不思議な色気を放ち、「大事なのは女と花とロマンスだ」と人生を楽しむための秘訣を語っていました。

また「最後の音は墓の中で弾くよ」と語るルベーン・ゴンサレスや、「許されるなら最期の時まで歌っていたい」と語るオマーラ・ポルトゥオンドのように、本当に好きな何かをやり続けることの大切さを、本作を観れば私たちも実感することが出来るでしょう。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
(C)2017 Broad Green Pictures LLC

さて、BVSCが解散した今でも、精力的に活躍している人がいます。現在87歳のオマーラ・ポルトゥオンドは本作で語った通りに歌い続け、9月には毎年恒例のジャズ・イベント「東京JAZZ」のプログラムで来日を予定しています。やはりBVSCの元メンバーで本作でもフィーチャーされているラウー奏者バルバリート・トーレスと、前述のジャズ・ピアニストのロベルト・フォンセカも一緒なので、映画を観た感動を生でも味わってみるのはいかがでしょうか。

【特集】前作から18年。活動に終止符を打つ『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』とは何者なのか?

1999年に全米公開された伝説の音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。全世界で破格のヒットを飛ばし、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネート。18年ぶりの続編、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』のあらすじ、キャスト、スタッフ情報はこちら!