【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯07】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

1999年に米公開され、サプライズ・ヒットを飛ばしたキューバ音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。

18年ぶりの続編『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』は、バンドや原作映画のファンはもちろん、初めて観る人の胸をも熱くする作品だが、米国では、ある舞台裏の“事件”でも知られている。愛すべき音楽映画の続編に見るドキュメンタリー作品の落とし穴とは?

映画の「その後」を描いた貴重な作品

同映画の被写体は、90代のギタリストをはじめとするキューバのベテラン歌手や伝説の音楽家たちが集結したバンド、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ。1997年にリリースされたアルバムは400万枚を売り上げ、グラミー賞を受賞、世界中を熱狂させた。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
(C) 2017 Broad Green Pictures LLC

同バンドの姿をドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースが追った99年のドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、郷愁的なメイン・ビジュアルの印象も相まって、カルチャー現象を起こすヒットに。

その続編である『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』では、亡くなったメンバーの姿や、今も歌い続ける歌手たちの想い、ヴェンダース監督が前作を撮影している様子などを、貴重なインタビューやパフォーマンス映像を交えながら見せていく。

同作の舞台裏で起こっていた“異例の事態”

当然のことながら、名作の続編として注目を集めた『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』だが、実は米公開にあたり、ある出来事が起きていた。2017年のサンダンス映画祭のオープニングを飾るという最高の舞台を与えられたものの、当日朝に上映中止が告知される異例の事態となったのだ。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
(C) 2017 Broad Green Pictures LLC

当時の配給会社の弁明は「ポストプロダクションが間に合わなかった」というもの。ところがその後、同作のルーシー・ウォーカー監督がソーシャルメディアで「自分の意志に反して、完成作品に大幅な編集が入ったこと、配給会社としばらく音信不通になったこと、監督自身が最終版を観ないままにメディアを通して公開日を知ったこと」などを明かした。

結局、昨年5月末に米公開となった同作は、サンダンスほかの有力な映画祭での露出を逃し、監督不在でプロモーションもままならぬまま、世界が愛した伝説のドキュメンタリー続編とは思えぬほど、静かに公開された。

ヴェンダース版のオリジナルの米国興収が約700万ドルであったのに対し、続編『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』は約12万ドル。作品そのものの評価というよりは、公開されたことを知らなかった人も多くいたようだ。

実際のところ、何が理由でこのような状況になったのか、明確な声明は出ていない。ただ、ウォーカー監督自身のソーシャルメディアでの一連のコメントや、インディペンデント映画界に精通した米IndieWireのアン・トンプソン氏らの分析を見ると、ドキュメンタリー作品が陥りがちな穴が見えてくる。

ドキュメンタリー作品の落とし穴

お蔵入りとなったバージョンは、どのようなものだったのか? 監督版を評価する面々(同作のエディター、映画祭プログラマーら)は、同バージョンが、音楽が国境を超える芸術であること、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのような存在が米国とキューバの橋渡しになることをリアルに描いた感動作だったと証言している。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
7月20日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
(C) 2017 Broad Green Pictures LLC

両国は半世紀にわたって緊迫した関係にあり、2016年にバラク・オバマ前大統領が、現職の大統領としては88年ぶりにキューバの地に降り立ったことで知られる。映画の後半には、そのオバマ氏がバンドをホワイトハウスに招待したときの映像も登場する。

こうしたなか、監督版がお蔵入りとなった理由としては、バンド側が政治的な描写やムードをなるべく抑えたかったこと、ライブシーンを増やしてほしかったこと、年老いたメンバーの姿をなるべく見せてほしくなかったこと、上記に反している監督版へ、権利元からの映像使用許可が下りなかったこと、といった説が浮かび上がる。

ドキュメンタリー作品に求められるバランスとは?

ドキュメンタリー作品には、せめぎあいのポイントが多く存在する。被写体へのリスペクトと監督のビジョンとのバランス、淡々としたリアリティと起伏をつけるストーリーテリングの境目、プロモーション素材との差別化、政治的要素への配慮と言論の自由……。

これは映画に限ったことではなく、日本のテレビ番組などにも通じるものかもしれない。少しの起伏や編集もないカメラワークなら、それはホームビデオやニュースとなる。あえて、そういう手法をとるドキュメンタリーもあるが、多くの作品は、作り手が対象に魅力を感じた点を主軸に、多くの人々に響くようなストーリーを骨子にするもの。

さらに、相手がプロの話し手や俳優でない場合には、ある程度の導きが必要にもなるだろう。やらせやねつ造は問題外だが、こうした“構成”は、ドキュメンタリー制作の重要なカギだ。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』では、その構成の部分で、作り手と被写体、さまざまな関係者の想いにズレが生じたのかもしれない。

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完成版としてお披露目された『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』は、それだけでとても意味のある作品。それでもその裏に、監督自身の少し違ったビジョンがあったことを思うと、さらに深い意味を見出せる気がするのだ。

 『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』は、7月20日(金)より全国ロードショー。

(Avanti Press)