世界三大映画祭の常連であり、唯一無二の切り口で数々の問題作を世に送り出してきた、フランス映画界の鬼才、フランソワ・オゾン。8月4日より公開される最近作『2重螺旋の恋人』は、一人の男だけでは満足できない女性の内に秘めたるセクシャリティを暴いた超問題作だ。映画作家として円熟期を迎え、近年は『婚約者の友人』(2016年)など「大人しめ」な作品が続いたオゾン監督が、本作では、まるで初心に戻ったかのような「キレッキレぶり」を見せつけている。

構想4年の『2重螺旋の恋人』で描きたかったのは「性の不満足」

6月下旬に横浜で開催された「フランス映画祭2018」に合わせて5年ぶりの来日を果たし、『2重螺旋の恋人』上映後のティーチイン(※)で、満員の観客を前に「私がこの作品で描きたかったのは『性の不満足』。セックスと心の問題の乖離だ」と明言したオゾン監督。

※ティーチイン…映画においては、映画の試写会前後に、キャストやスタッフによるトークショーや質疑応答などを行うイベントのこと

構想4年という本作の誕生のきっかけは、「以前から双子の存在に興味があり、精神分析の治療の経験を映画的に焼き直したいと思っていた」という監督が、アメリカの作家であるジョイス・キャロル・オーツの小説『Lives of the Twins(双子の生活)』と出会ったことに遡る。同作は、精神分析医と恋に落ちた女性が、彼と同じ職業の双子の兄弟の存在に気づき、似て非なる二人の男性との禁断の関係にのめり込んでいく様を、スリリングに描いた物語だ。

オゾン監督は、一人の男では満たされない女性の欲望と幻想をつまびらかにしながら、予想の遥か上を行く驚愕の展開で観客を惹きつける、極上の心理サスペンスに仕上げている。美しく官能的な描写を織り交ぜながら心理的な駆け引きを繰り返し、大胆なトリックで嘘と現実の迷宮へと観客を誘っていく手法は、まさに「フランソワ・オゾンの真骨頂」であるといえるだろう。

(C)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

初期の尖った作風を彷彿とさせる、オゾンのあくなき挑戦ぶり

この作品を観て真っ先に思い浮かんだのは、監督のデビューまもない頃の短編『海をみる』(1977年)だ。不愛想なバックパッカーの女性が、海辺に暮らす子持ちの人妻と知り合い、距離を縮めていく。

この映画、一見美しいバカンス映画と錯覚しそうになるのだが、いざふたを開けると、とんでもなくおぞましい映像がテンコ盛り。「得体の知れない人物には近づくべからず!」という教訓を、身をもって体験させてくれる究極のトラウマムービーなのだ。

また、『2重螺旋の恋人』のなかには、同じくオゾン監督の初期の傑作『焼け石に水』(2000年)でも顕著だった「幾何学模様や左右対称の構図」が数多く見受けられる。

ベテラン映画作家として円熟期を迎えたオゾン監督が、熟練の技をふんだんに発揮しながらも、あえて「尖っていた頃の自分」を再び取り戻すかのような、あくなき挑戦ぶりが『2重螺旋の恋人』からはひしひしと感じられるのだ。

(C)2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

映画の開始数分で目を疑うようなショッキングな映像がスクリーンいっぱいに映し出され、それだけでも思わず息を飲む『2重螺旋の恋人』。エロティックな描写はもちろんあるが、精神的にも成熟していないと、オゾン監督が仕掛けた罠にまんまとハマってしまうかもしれない。そういった意味からも、『2重螺旋の恋人』は、真の「18禁映画」であることは間違いない。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)