【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯10】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

今夏のサッカー・ワールドカップ開催国として、例年以上に世界での存在感を強めたロシア。米国では、ヒラリー氏とトランプ氏が争った先の大統領選挙におけるロシア関与疑惑や、それをめぐる騒動、両国大統領の舌戦などもあり、話題に事欠かない。そんな緊迫した米露関係のなかで、思わぬ記録を出した風刺コメディ映画がある。

ブラックすぎる奇作がついに日本公開!

その名も『スターリンの葬送狂騒曲』。1953年に旧ソ連の独裁者スターリンの死によって勃発した、側近たちの後継者をめぐるイス獲りゲームを描いたブラック・コメディだ。

フランスのグラフィック・ノベルを原作とした英仏合作映画なのだが、映画の舞台となったロシアでは、いったん上映許可が下りたものの、政府側が西洋による対ロシア情報戦争の一環だと主張し、上映禁止となった経緯がある。

米国では今年3月に公開され、劇場平均興収4万6,000ドルと、メガヒット作『ブラックパンサー』(2018年)に次ぐ劇場単価を記録。映画批評サイト「ロッテン・トマト」でも96%の高スコアを獲得した(7月24日現在)。

そんな奇作がいよいよ、8月3日(金)に日本で公開される。

シリアスな題材なのに滑稽に見えてしまう驚き

数百万人が命を消されたとされる政治的弾圧「大粛清」の様子から、欲と寝返りと裏切りがドロドロと渦巻く狂気の権力争いまで、題材はきわめてダークで、登場人物はいたってシリアス。

『スターリンの葬送狂騒曲』8月3日(金)より全国順次公開
(C) 2017 MITICO・MAIN JOURNEY・GAUMONT・FRANCE 3 CINEMA・AFPI・PANACHE・PRODUCTIONS・LA CIE CINEMATOGRAPHIQUE・DEATH OF STALIN THE FILM LTD

ワッハッハと笑いあった次の瞬間、バキュンと急所を撃たれるような展開で、残忍で凶悪なキャラクターたちに恐怖を抱かずにはいられない。それなのに、テンポよい台詞と滑稽な行動のオンパレードで、噴き出し笑いも止まらないのだ。

スターリンの独裁下、盗聴器で暴言がバレる可能性に怯えて、気絶してしまうオーケストラ指揮者、録音命令が出たコンサートを録音しそびれ、テンパりながら観客とパフォーマーに再演を強要するプロデューサー、危篤のスターリンを救える医師はすべて、彼自身の手で処刑されていたという皮肉、見かけより重いスターリンの体を運ぶ際、それぞれがどの部分を持つかで揉める側近たち……。

これでもかと続くブラックジョークに、気づけば、歴史的悲劇を笑う自分を恥じる気持ちは吹っ切れ、これは旧ソ連もスターリンも関係ない、組織や権力の滑稽さを笑っているのだと、正当化する仕立てになっている。

スターリンを描くことの意味とは?

脚本も手掛けたアーマンド・イアヌッチ監督は、「ヒトラーは猛毒だと強調されているが、スターリンの毒性はなかったことにされている」という趣旨の発言をしているが、ヒトラー映画には積極的なハリウッドにも、スターリン映画は意外と少ない。

『スターリンの葬送狂騒曲』8月3日(金)より全国順次公開
(C) 2017 MITICO・MAIN JOURNEY・GAUMONT・FRANCE 3 CINEMA・AFPI・PANACHE・PRODUCTIONS・LA CIE CINEMATOGRAPHIQUE・DEATH OF STALIN THE FILM LTD

そうしたなかで公開された同作には、歴史的に誤った描写が多いという批判もあるが、監督が悲劇的なドラマではなく、辛辣なコメディに仕立てたことには意味がありそうだ。

国民に忠誠を課し、言論を抑圧し、自分に批判的な人々を降ろす姿勢が、いくつかの国の現政権を彷彿とさせるから? それとも、イデオロギーを操作し、権力に飢えたリーダー像があまりにも多いからか?

米国において、限定公開ながら、劇場単価記録や高評価が出たことは、観客がロシアの歴史を傍観したというよりは、身につまされる何かがあったのだろう。

忘れてはいけない“悲劇”

スティーヴ・ブシェミ、ジェフリー・タンバー、サイモン・ラッセル・ビール、マイケル・ペイリンほか、側近たちを演じるベテラン俳優たちの顔ぶれも、最高にツボをつく。それでも「登場人物に共感したり愛着を覚えても、彼らが与えた悲劇的な影響を忘れてはならない」とイアヌッチ監督は警告する。

歴史からの教訓を肝に銘じる意味でも、スラップスティック的なエンタテインメントを堪能する意味でも、唸らずにはいられない1本だ。

『スターリンの葬送狂騒曲』は、8月3日(金)より全国順次公開。

(Avanti Press)