若者たちの恋や青春を切り取った華やかな作品の魅力を、端整な美貌と清々しい存在感によってさらに引き上げる一方で、作家性の強いエッジの効いた作品にも出演し、確かな演技力を見せる。こうして人気のみならず、映画関係者や批評家からの評価も確実に積み上げてきた高杉真宙は、今回、アニメーション映画『君の膵臓をたべたい』で、声優の仕事に初挑戦する。彼が一作ごとに着実に成果を上げてきたのは、まさに各作品と真摯に向き合い、着実に努力を積み上げてきた結果だった。

高杉真宙は、映画でもドラマでも、自分の演じる役についてのノートを毎回作るのだという。

「キャラクターの設定について書いていくんです。自分のことを何て呼ぶのか、『僕』なのか『俺』なのか。しゃべるときの語尾はこういうふうで、誕生日はいついつだとか。そこから、こういう考え方をしているからこういうふうに行動するんだとか、思いついたことを書いていきます。」

(C)住野よる/双葉社 (C)君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ

「『君の膵臓をたべたい』の場合、(高杉が演じる)『僕』の役は、台本のなかだとあまり自分の感情をしゃべらない。だからその時々の感情を想像してノートに書き出していきました。例えば桜良(Lynn)との掛け合いのシーンのなかに彼の感情が見えたら、桜良のこの言葉によってこの感情は引き出された、と書くといった感じです。この映画は、原作にあるシーンがいくつかシチュエーションが異なっていたりしますので、そのことによってもしかしたら、キャラクターが違ってくるかもしれないとも感じました。ですからこの作品でノートをつけていたのは、それを整理するためでもあります。僕はもともと、頭のなかでまずはいろいろなことを整理するタイプで、どの作品でもノートは作るのですが、今回は特に、頭のなかだけでは混乱してしまうなとも思ったんです」

(C)住野よる/双葉社 (C)君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ

この話を聞くと、事前に「作りこんで」いくタイプの俳優なのかと思わされるが、映画・ドラマ・舞台と、幅広く経験を積んできた高杉は、現場から受け取るものが演技にとっていかに重要であるかをよくわかっている。

「事前に作りこんだ事柄は、現場に行ったら基本忘れようと思っています。僕はほんとに柔軟性がないので、事前に作りすぎるとそれにとらわれてしまい、現場で言われたことに即座に対応できるタイプではないんです。実際、まったく想像もしていなかった指示をされることはよくありますし、だから固めすぎないでいこうと思っているんですよね。それに、どうしてここでこういう行動をするのか、家で考えていてもわからなかったことが、現場に立って台詞をしゃべった途端にわかるということもある。役作りはたぶん固めてもいいんです。でも、演技プランについては、そんなに固めないようになりました」

演技の面白さにのめりこむきっかけとなった映画

撮影=増永彩子

高杉が演技の面白さにのめりこむきっかけとなった映画は、小林啓一監督の『ぼんとリンちゃん』(2014年)だった。口には出さないまま周囲の人々の気持ちを察している少年「リンちゃん」を演じた高杉の演技は、実際、多くの批評家たちを瞠目させた。何か感情が爆発するような、わかりやすい見せ場のある役ではない。にもかかわらず彼が注目されたのは、ほぼ全シーンがワンショットで撮られている(!)この作品にあって、高杉の身体が見事に各場面の流れを受け止め、ごく自然なたたずまいで空間に存在し、映画をしっかりと支えていたからだった。

「あの作品は実は、稽古が2カ月くらいあったんです。なので撮影に入ったときには、台詞も、もう台詞というよりは自然に出る言葉という感じになっていました。長回しに対する怖さもまったくなくなっていました。いま考えると、すごいことをやっていたんだなと思うんですけどね」

撮影=増永彩子

『ぼんとリンちゃん』のような、いわゆる「作家性」の強い、エッジの効いた作品にもいくつか出ているというのが、高杉真宙のキャリアの興味深い点だ。なかでも目を惹くのは、世界的作家として評価を確立している黒沢清監督の、『散歩する侵略者』(2017年)への出演だろう。ここでの高杉は、侵略者である宇宙人のひとり、天野を演じている。

「黒沢監督の作品はもちろん観ていました。どれも独特の雰囲気があって、どうやって演出されているのか、正直想像はできませんでした。でも現場に入ってみると、黒沢監督は役については何もおっしゃらなくて、ただ行動や動きはしっかりと決めて作っていかれる。黒沢監督の作品の、あの独特の違和感やずれというのは、そういうところが綺麗にはまっていった結果なんだなと実感しました」

インタビューの続きは『キネマ旬報PREMIUM #01』に掲載。本誌の表紙&巻頭では、『センセイ君主』で主演を務める竹内涼真の総力特集を行った。竹内涼真のほか、中条あやみ×佐野勇斗の対談、中川大志、村上虹郎ら次世代を担う期待の俳優特集も掲載している。(敬称略)

『君の膵臓をたべたい』(9月1日公開)
原作:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社 刊) 原作イラスト:loundraw 監督・脚本:牛嶋新一郎 キャラクターデザイン・総作画監督:岡勇一 出演(声):高杉真宙、Lynn、藤井ゆきよ、内田雄馬、福島潤、田中敦子、三木眞一郎、和久井映見 配給:アニプレックス

ヘアメイク:堤 紗也香 スタイリング:石橋修一
取材・文:篠儀直子/制作:キネマ旬報社