文=木俣冬/Avanti Press

「読んでから見るか、見てから読むか」というのは昔、角川映画が自社の小説を映画化したときのキャッチコピーだ。ぶんか社から発行されている桜沢鈴の漫画を原作としたドラマ「義母と娘のブルース」(TBS系 火曜よる10時~)の場合、まず前情報を一切入れずにドラマから観て正解だった。驚きの展開が待っていたのだ。

“ちょっとずれてる”を楽しむ

母が亡くなって3年、父・宮本良一(竹野内豊)とふたり暮らしだった小学3年生の宮本みゆき(横溝菜帆)の元に、新しい母・亜希子(綾瀬はるか)がやって来る。まだ実母を忘れることができないうえ、その亜希子はなんだか得体のしれない人物で、みゆきは母として受け入れることができない。

「義母と娘のブルース」毎週火曜よる10時
(c) TBS

亜希子はキャリアウーマンで、ビジネスにかけてはものすごい能力を発揮し、「戦国部長」と呼ばれるほど。そのノウハウを家庭にそのままスライドしてやることなすことトンチンカン。最初の出会いでみゆきに名刺を出し、履歴書によって母として御社に就職したいとアプローチしたかと思えば、みゆきを喜ばせるためビジネスマンの宴会芸・腹踊り(お腹に顔の絵を描いて踊る)をしてみせる。

ひっつめ髪でメガネ、スーツと洒落っ気はいっさいなく、口をつく単語は「ソリューション」とか「リレーション」とか「経済効果という魔法」とか「大変よくできたスキーム」などのビジネス用語ばかり。作るお弁当は株価チャートを図案化したもの。

みゆきは苛立つが、視聴者的には、過去、古沢良太の「デート~恋とはどんなものかしら~」(2015年/フジテレビ系)や海野つなみ原作、野木亜紀子脚本の「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年/TBS系)など主人公が恋や結婚を今日的割り切りで契約に則って行い、ちょっとずれてる日常を楽しむドラマの潮流にある作品に思えて親しみやすい。

だがしかし話の骨子はそこではなかった。

それは第4話で明らかになる。

ついに明かされた結婚の理由とは?

みゆきが良一と亜希子は偽装結婚ではないかと疑いはじめ、それによってこの結婚の真実が視聴者に明かされていく。

「義母と娘のブルース」毎週火曜よる10時
(c) TBS

振り返れば、第1話の最後に意味深なナレーションが入っていたし、良一がちょいちょい具合の悪そうなカットがあった。そもそも亜希子と良一の距離感が夫婦っぽくない。夫婦ものだと会話はよく寝室でされることが多いがそれもない。

でもこれは原作からしてそうだが、亜希子のキャラクターがエキセントリック過ぎて、そういう風変わりな主婦に振り回される夫と義娘の姿に気を取られ、そうしているうちに良一に宿命付けられた健康上の事情が出てきて驚かされるという、実にうまくできた仕掛けになっている。

亜希子が義母として宮本家に入ったのは、彼女のビジネスマンとしての任務遂行力の高さが買われてのこと。これも理にかなっている。事前に前情報を入れなかったことによって、この展開を純粋に楽しめた。前情報をシャットアウトすることも大事だなと改めて思わされた。

ドラマを盛り上げる巧みな構成力

あまりによくできているドラマなので、原作はどうなっているのか気になって読んでみると、これがドラマも漫画もまた一層楽しめるというお得感の高い作品だった。

「義母と娘のブルース」毎週火曜よる10時
(c) TBS

なにより唸らされたのは、ドラマの脚本家・森下佳子の構成力である。漫画は四コマで、森下は四コマ単位の短いエピソードをなめらかに起承転結のある1時間のドラマに繋いでいたことに驚いた。作品の印象はほとんど変えていない。さすが、『白夜行』(東野圭吾著/集英社文庫)、『JIN-仁-』(村上もとか著/ジャンプコミックスデラックス)、『天皇の料理番』(杉森久英著/集英社文庫)、『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ著/ハヤカワ文庫)などの小説や漫画問わず名作と言われる原作ものを手がけてきただけはある。

腹芸エピソードもわずか一コマ(オチの部分)に出てきただけなのに、第1話の途中と最後に効果的に出すことで亜希子の性格の説明と、みゆきとの確執が鮮烈になった。漫画版では、パン屋の息子の麦田章もドラマ版では毎回、職を転々としている謎の男(佐藤健)として興味を引っ張る。

森下は原作ものだけでなく、朝ドラ「ごちそうさん」(2013年/NHK)、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017年/NHK)で長編のオリジナルものも経験している作家なので、うまくまとめるだけでなく想像ののりしろを広げていく。

ものすごくコンセプチュアルに作られたコース料理のように、出される一品一品を、使用された食材や調味料のひとつひとつまでその存在意義を楽しめるドラマになっていると思う。

キャラクターの魅力を引き上げるキャストの力

ドラマ版は第4話にも驚かされたが、みゆきの小学校のPTAに参加した亜希子が派閥問題に巻き込まれ、運動会の裏方をたったひとりできりもりすることになる第3話がまとまりとしてはとりわけ秀逸。

「義母と娘のブルース」毎週火曜よる10時
(c) TBS

党派制で成立する風通しのよくないPTA組織が、既得権益にあぐらをかき、硬直化したシステムのまま関わる人たちの効率を損ねている、という状況に、亜希子が愚直なまでに真っ当なやり方で立ち向かう。それが次第に人の心を動かし、最終的にはみんな協力的になる、いまどきこんないい話は、池井戸潤原作の企業ドラマくらいしかないだろうというような麗し過ぎるエピソードだった。

そういうものが疲弊した日本人には求められているのではないかと視聴率も12.4%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と4話中で最高を記録している。

綾瀬はるかが、大河ファンタジー「精霊の守り人」(2016年/NHK)で演じた屈強な用心棒を思わせる、凛として姿勢がよく何もかも見逃さない眼光の鋭さで亜希子を演じていて、愛想もなく身なりに構わないが、内面からにじみ出る美しさが高感度を上げている。語り口は生真面目で硬いが上品で声がきれいなのでバランスが程よい。

竹野内豊は徹底していい夫、いい父親で、その甘く少しおどけた表情は彼の重い運命と壮大な計画に気付かせない。みゆき役の横溝菜帆もちょっと生意気な少女をチャーミングに演じている。

やがてみゆきは高校生に成長し、ドラマではそれを上白石萌歌が演じることになっているので、ドラマの中盤以降は多感な女子高生と義母の生活が描かれることになるだろう。そうなると最初の飛び道具的なものはもう使えないので、どうなるか気になるが、すでに亜希子のキャラが十二分に立ち愛されるようになっているので視聴者を逃すことはないだろう。麦田章もいよいよ活躍しそうだ。

ドラマに散りばめられた「奇跡」

ドラマで印象的なのは、森下が用意した「奇跡」というドラマオリジナルのキーワードだ。第1話の冒頭から、自販機のドリンクがふたつも当たるなど、良一が何かと験担ぎをする性分に描かれていて、それがいつの間にか、宮本家に「奇跡は起こる」と良一の願い、血の繋がっていない義母と娘の関わり、彼らが出会う様々な出来事に「奇跡」がもたらされる希望を描く。

「義母と娘のブルース」毎週火曜よる10時
(c) TBS

突然、自分の代わりに娘を守って育ててくれないかというめちゃくちゃな依頼を引き受け、娘ともなんだかんだでうまくいってしまうとか、PTAの殺伐としたママ友とうまくいってしまうとか、落ちた物件案内の紙によって老人が救われてその人が物件を買ってくれそうとか、いちいち話がうまく行き過ぎではあるが、「こんなことあってもいいな」を描く物語。そして「こんなことがあったらいいね」と分かち合える誰かがそばにいたらいいなと思わせる物語が、日々、何かと自信をなくしたり疲弊したり傷ついたりする私たちには必要なのだ。

「奇跡はわりとよく起きます」と言う亜希子は、意外と楽観的に、でもしっかりした責任感で、血のつながらないこどもを育てるという任務を引き受ける。我々の生きる意味という任務は、働いて利益を追求することだけでなく、結婚出産育児をするだけではない、たとえば、亜希子が引き受けた「リレー」(みゆきを代わりに育てる)のようにもっとたくさんの可能性に満ちている。私にも何かできることがあると「義母と娘のブルース」を観てひとときほっこりさせてもらおうではないか。