【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯12】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

『タリーと私の秘密の時間』は、仕事も家事も育児も完璧にこなし、人に頼ることが苦手な女性が、“夜間ベビーシッター”を雇うことにより、彼女と不思議な絆を築き、本来の自分を取り戻していくドラマ。

同作の前提となる米国の出産・ベビーシッター事情を紹介しつつ、日本の女性たちにも通じるメッセージを探ってみたい。

アメリカのベビーシッター事情

ベビーシッター大国である米国では、平日の公園や習い事の現場で、親よりもベビーシッターを多く見かけるほど。ただし、フルタイム勤務の親を助ける日中のベビーシッターに対し、同作で描かれるのは、出産直後から数週間の母と新生児をケアする特殊な夜間シッター(Night Nanny)だ。

米国では、自然分娩なら翌日、帝王切開でも2~3泊での退院が一般的だ(通常、保険が自然分娩の場合で48時間、帝王切開の場合で96時間しかカバーされず、入院費が高額になってしまうため)。

出産直後の母は、母体の回復もままならぬまま、夜泣きや授乳、おむつ替えなどで眠れぬ夜が続くことにより、心身ともに壊れる寸前であることが多い。

そして、今よりずっと厳しい時代や環境の女性たちもがんばってきたことなのに泣きごとを言う自分、出産という最高に幸せなできごとを迎えたのに安らかな心になれない自分を、さらに責める。

徐々に増える夜間シッター需要

こうしたなか最近は、「母がハッピーなら家庭もハッピー」をモットーに夜間シッターを利用する新生児家庭も増えているようだ。特に近くに親族がおらず、父親の出張が多い家庭などはなおさら。地域にもよるが、そのレートは1晩2万5,000円ほど。

決して安い金額ではないが、看護師や栄養士の免許を持ち、新生児ケアの経験の長いシッターを週2~3晩、依頼するケースもあるという。

『タリーと私の秘密の時間』
8月17日(金) TOHOシネマズ シャンテほか、全国ロードショー
(C) 2017 TULLY PRODUCTIONS.LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

同映画において、出産直後(しかも3人目)の母マーロ(3カ月で18キロ増量したシャーリーズ・セロン)は、笑顔ひとつない出産、冷凍ピザ&野菜を食卓に並べ放心する表情、ゲームに熱中する夫へのあきらめ、娘にダメ出しされるブヨブヨのおなか……と新生児母のリアルな日常を、ありとあらゆる例で演じて見せる。

“危険信号”の母親を救うために

あくまでもコメディ仕立てなのだが、その裏には、こうした母の不調が、赤ちゃんはもちろん、上の子どもたちへの対応や夫婦関係にも大きな影響を及ぼし、ひいては産後うつや幼児虐待にもつながる危険信号であることを匂わせる。

『タリーと私の秘密の時間』
8月17日(金) TOHOシネマズ シャンテほか、全国ロードショー
(C) 2017 TULLY PRODUCTIONS.LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

そんなマーロのもとへ登場したのが、夜間シッターのタリー(マッケンジー・デイヴィス)だ。イマドキ女子ながら、新生児のケアから家事のサポートまで仕事は完璧。

自分を見失いつつある雇い主マーロのよき話し相手として、母の心身をも救うのだが、自分のことは一切話さないミステリアスな存在でもある。タリーは何者なのか? そして、タリーとの出会いがマーロにもたらしたものは?

監督が描いたものとは?

監督&脚本は、『JUNO/ジュノ』(2007年)、『ヤング≒アダルト』(2011年)の名物コンビであるジェイソン・ライトマンとディアブロ・コーディ。

ライトマンは自身の女性3部作について、「『JUNO/ジュノ』では早く大人になりすぎた少女、『ヤング≒アダルト』は大人になるのが遅すぎた女性、『タリーと私の秘密の時間』は親になり、強制的に成長しなければならない女性を描いた」と語っている。

『ヤング≒アダルト』に続き、セロンを起用した理由は、「(美貌を封印し)完璧にリアルさを感じられる、欠陥あり&嫌われ者の役を前向きに演じ切ってくれること」だったという。

母たちが直面する実態の深刻さを示した映画

コメディ・ドラマというジャンル設定でありながら、同作終盤で明かされるタリーの思わぬ正体は、とても衝撃的だ。

『タリーと私の秘密の時間』
8月17日(金) TOHOシネマズ シャンテほか、全国ロードショー
(C) 2017 TULLY PRODUCTIONS.LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

それゆえに、米公開に際しては、「なかなか語られない産後の母親の実態を示してくれた」という賛辞とともに、産後うつを経験した母親や産後サポート専門家たちから、「同作の生々しい描写と結末が、今不安定な精神状態にある母に、よからぬ影響を与える危険性がある」という警告も出たほどである。

日本にもマーロに近い状況にありながら、ベビーシッター文化や経済支援が定着していないために、心の叫びを閉じ込めている女性は多いだろう。

同作で描かれるベビーシッターという存在は、解決策のほんの一例かもしれないが、そんな母たちの心のケアの大切さと深刻さを訴える社会派映画ともいえそうだ。

『タリーと私の秘密の時間』は、8月17日(土)より、全国ロードショー。

(Avanti Press)