『君の名は。』(2016年)で大ブレイクした新海誠監督が、『ほしのこえ』(2002年/25分)など演出から作画、編集などほとんどの作業工程をひとりでこなしながら自主制作作品を手掛けていたことは、知る人ぞ知るところだが、このところそういったアニメーション作品を見かける機会が増えてきている。

それはデジタル技術の進化によって、パソコンなどで映像を構築していく作業が容易になったことも理由に挙げられるだろう。

最近でも来栖直也監督が7年の歳月をかけて、ほぼひとりで作画を担ったSF・3DCGアニメ『ねむれ想い子、空のしとねに』(2014年/50分)は世界各国のファンタ映画祭で絶賛され、日本でも凱旋上映された。

現在大ヒット中の実写映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督夫人でもあるふくだみゆき監督が、ワキ毛をモチーフにした思春期フラッシュ・アニメ『こんぷれっくす×コンプレックス』(2015年/24分)は第72回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞。

ただし、これらはいずれも中編もしくは短編枠の作品で、さすがに長編となるとなかなか大変なものがある……かと思いきや、やはり時代は変わってきた。

坂本サクが監督・アニメーション・原作・脚本・音楽と、ひとり5役をこなした長編アニメーション作品『アラーニェの虫籠』が、8月18日より東京・池袋シネ・リーブルをはじめ全国順次ロードショーされることになったのである。

才人監督が一人5役で手掛けたホラー作品『アラーニェの虫籠』

フリーランスのアニメーション作家として活動し、映画『イノセンス』(2004年)のデジタルエフェクトや、ドラマ「MOZU」(2014年)のイラスト&アニメーションなども手掛けてきた坂本サク監督。“超絶絵師”の異名をとる才人として知られる彼はこれまでにも個人制作の短編は何本も手掛けてきているが、今回は福谷修(製作・プロデュース・監修)のバックアップを得て、前代未聞ともいえる長編アニメーション映画の制作に踏み切った。

しかも、その題材はホラー!

(C)坂本サク/合同会社ゼリコ・フィルム

気弱な女子大生りん(声/花澤香菜)は、郊外の工場跡地に建つ巨大集合住宅に引っ越してきた。女子高生の変死体が発見されたり、不可解な心霊現象が目撃されるなど何かと曰くありげなこの一帯で、りんは救急車で搬送される老婆の腕から大きな虫が飛び出るのを目撃する。やがて“心霊蟲”という呪われた虫の存在を知ったりんは、その正体を探っていくうちに、いつしか己の過去とも対峙していく……。

ここでは年代物の不気味な集合住宅を舞台に、多くの人が忌避しがちな蟲を融合させながら、おぞましい恐怖を幻想的なまでに美麗な作画で描出していく。

特に光を意識した映像センスは、グロテスクであり、時に美しくもある蟲の怪異を際立たせつつ、どこか淡く切ない造形のキャラクターたちの印象を深めることにも貢献。

アラーニェの虫籠

(C)坂本サク/合同会社ゼリコ・フィルム

『サスペリア』(1977年)、『フェノミナ』(1985年)などダリオ・アルジェント監督を筆頭とするイタリアン・ホラー的ムードを日本の風土に持ち込みつつ、巧みなセンスでアニメーションというジャンルに換骨奪胎させた優れものとしても、大いに堪能させていただいた。

声優陣の台詞は、声を先に録るプレスコ形式を主体とすることで、キャラの表情などを微調整していったというが、それ以外にも蟲の声や自然背景などの音響面にも着目していただきたい。

国の内外を問わず、続々登場!個人で手掛けるアニメーション作品

実はこの8月、本作以外にも一人何役のアニメーション映画が公開される。

18日より東京・渋谷ユーロスペース(ほか全国順次)で公開されるフランス映画『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』は、今では“恐ろしい童話”としても知られるグリム童話の「手なしむすめ」を基に、セバスチャン・ローデンバック監督がひとりで作画を手掛けた80分の長編作品。

筆の描線でアニメーションを展開させる作画技法“クリプトキノグラフィー”は、高畑勲監督の遺作『かぐや姫の物語』(2013年)とも相通じるアーティスティックな妙味が感じられる(高畑監督がご存命なら、さぞ絶賛されたことだろう)。

11日から下北沢トリウッドで公開される『よるのたんけん』は、港に運ばれてきたゾウとウサギが、誰にも見つからないように一夜の探険に出かける22分の人形アニメ。

ドキュメンタリー映画『縄文号とパクール号の航海』(2015年)や、膨大な量の取材写真をなぞった絵でアニメートさせた『きおく きろく いま』(2017年)など、ユニークな映像制作を試み続ける水本博之(今回は“みずもとひろゆき”名義)監督ならではのアナログ感覚が楽しい“子供のための人形アニメーション・動物シリーズ”第2弾である(第1弾の2011年作品『いぬごやのぼうけん』も同時上映)。

『アラーニェの虫籠』も含め、こういった個人作業をメインとしたアニメーション作品がどんどん世に出て映画ファンやアニメ・ファンの注目を集めることで、クリエイターたちの新たな展望も開けていくことだろう。

極論すれば、今、誰もがその気になれば(もちろん、かなりの気合と努力は必要だろうが)、ひとりでアニメーション映画を作れる! 面白い時代になってきたものだ。

(文・増當竜也)