ティーンエイジャー2人が殺人事件の謎を追ううちに、大人の世界にはびこる嘘や偽りに反抗しながらも成長していくクライムサスペンス『クリミナル・タウン』。8月25日(土)に日本公開される本作は、アメリカでベストセラーになった小説『November Criminals(邦題:クリミナル・タウン/ハヤカワ文庫)』を映画化した話題作です。

主人公アディソン役には『ベイビー・ドライバー』(2017年)のアンセル・エルゴート、アディソンの友達以上恋人未満の相手役であるフィービーには『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』(2013年)のクロエ・グレース・モレッツという、2人のティーンスターを迎えました。監督であるサーシャ・ガヴァシに電話インタビューを行った内容をもとに、現代アメリカ社会について考えてみたいと思います。

1990年代とは違う現代アメリカのティーン

クリミナル・タウン あらすじ

(C)2016 NOVEMBER CRIMINALS HOLDINGS, LLC

アディソンと本を貸し借りする文学好きの優等生ケビン。アフリカ系アメリカ人である彼は、カフェでバイト中、いきなり突入した何者かにあっけなく射殺されてしまいます。ケビンを殺したい人なんて検討もつかないと途方にくれるアディソンをよそ目に、ギャング同士の抗争だと想定して捜査を進める警察。なぜなら、ケビンは黒人だから。しかも、学校はありきたりの追悼式やカウンセリングを設けてケビンを忘れ去ろうとしていている……。ケビンはギャングなんかではなかったというアディソンの声に、耳を傾ける大人は皆無です。人種差別なぞ存在しないかのように振舞う大人の偽善に抗うアディソンは、フィービーと共に犯人捜しに乗り出します。

クリミナル・タウン 監督インタビュー

(C)2016 NOVEMBER CRIMINALS HOLDINGS, LLC

サム・マンソンによる原作は1999年を設定したものですが、映画は現代のアメリカを描いています。「それは、ティーン、恋、家族、ドラッグ、人種差別といった本作のテーマは現代も変わらないから」とガヴァシ監督は説明します。

ただ、1990年代と現代のティーンの違うところは、“人種観”だと言う監督。「現代のティーンは、肌の色に対して“カラー・ブラインド”(色盲)だと思います。親の世代と違い、彼らは“人種”を見ずに“人間”を見ている。だからアディソンは大人たちが“黒人”というフィルターを通してしかケビンを見ないのが、どうしても許せなかったんです。人種問題を作り出しているのは子供ではなく大人ではないのか……。これも映画の設定を現代にした理由です」。

筆者も1990年代後半に、今作の舞台であるワシントンD.C.に隣接するバージニア州の高校に通っていました。そのときに感じたのは、学校内で“透明な境界線”が引かれていたこと。人種差別は経験したことがありませんが、カフェテリアでは黒人、白人、アジア人、ヒスパニック系がほぼ人種別に分かれて座っていました。この“見えない境界線”に分離されて生きてきた筆者の世代が、ちょうど映画に登場する大人たちと同世代。人種差別をしているつもりはなくても、ステレオタイプから逃れられない大人が多いのはこういった時代背景があるのかもしれません。

アメリカの“普通の人”を蝕むドラッグカルチャー

クリミナル・タウン 最新ドラッグ

(C)2016 NOVEMBER CRIMINALS HOLDINGS, LLC

作中、ある普通の中流家庭の生徒の家から、錠剤タイプのドラッグが発見されるシーンがあります。一昔前のアメリカ映画で描かれるハードドラッグといえば、コカイン、クラックやヘロイン。映画に見るドラッグは一見普通の薬のようですが、これは一体なんなのでしょう?

「これはいま、アメリカで大問題になっているオピオイドというドラッグ。買っているのは、“いかにもドラッグをやっています”という風に見える中毒者ではなく、中流家庭の高校生や主婦が少なくない。パッと見、普通の薬のように見えるからドラッグという抵抗がないのかもしれません。いまや、オピオイドのなかにはデザイナーズブランドもあり、“普通の人々”の間でファッションのようになっているのです」と監督。

1990年代後半、アメリカの製薬会社はオピオイド鎮痛薬には中毒性がないと主張し販売を開始しました。その結果、医師たちはこれらを簡単に処方していきました。2015年には、オピオイド鎮痛薬と合成オピオイドの過剰摂取による死者は3万3000人にも上り、副作用に苦しむ人は240万人もいたそう。毎日100人以上のアメリカ人が、オピオイドによる過剰摂取で亡くなっていると言われています(※参考)。ついに2017年、トランプ大統領が中毒患者の治療を改善することを目指して「オピオイド危機」を宣言しました。

殺人事件が暗示するアメリカの銃乱射事件

クリミナル・タウン ネタバレなし

(C)2016 NOVEMBER CRIMINALS HOLDINGS, LLC

誰かも分からない人に突然銃で撃たれたケビン。いつ、どこで、誰に殺されるかも分からない恐怖は、まるで近年アメリカで頻発する銃乱射事件を暗示しているようです。

「銃乱射事件で殺された人たち、彼らの友人や家族、そして事件から生き延びた人たちが、アメリカには一体何人いるのか……。彼らの想像を絶する悲しみ、怒りや喪失感に、この社会はどうやって対応できるのでしょうか」と問題提起する監督。

“自由の国アメリカ”を象徴する首都ワシントンD.C.を舞台に、現代アメリカ社会に巣くう闇を浮き彫りにした『クリミナル・タウン』。とはいえ、決して人生の悲惨な面だけを映し出しているのではなく、アディソンというひとりの少年が、母親や友人の死を乗り越えて、父との絆を深めていく心の旅を綴っています。

「ロマンス、家族の問題、人種差別、ドラッグ、そして銃は、アメリカのティーンが日々向き合っている現実。これが彼らの人生なんです。それをどうしても伝えたかった。人生は複雑で悲しみに満ちている。それでもアディソンを通して、“人間は何でも乗り越えられる強い力をもっている”という希望を感じてほしい」(サーシャ・ガヴァシ監督)

なにがケビンを殺してしまったのか――サスペンスの裏側にある人間の闇と光についてぜひ考えてほしい1本です。

(文・此花さくや)

※参考…Opioid crisis cost U.S. economy $504 billion in 2015: White House - REUTERS
https://www.reuters.com/article/us-usa-opioids-cost/opioid-crisis-cost-u-s-economy-504-billion-in-2015-white-house-idUSKBN1DL2DS