韓国で大ヒットした『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)を、大根仁監督が日本仕様にリメイクした『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(8月31日より公開)。大根監督は舞台をコギャル全盛期の1990年代中盤に移行し、ルーズソックスを履いたギャルたちの青春と、四十路を迎える現在とを交互に描いた。

豪華キャストも話題だが、本作の白眉は、あの小室哲哉が映画音楽を手がけていることであり、TKサウンドとして一世を風靡した超花形プロデューサーの楽曲群が惜しみなく画面を彩っていることである。 

刹那と高揚のマリアージュ

 1990年代中盤は、TKの時代だった。小室哲哉は当時、TRFの楽曲について、夜の商売の人たちが仕事終わりにカラオケで歌える歌がコンセプトだと語っているが、小室プロデュースによる楽曲群はその層だけではなく、日本全国の若年層を巻き込む国民的一大ムーブメントへと成長していく。 

バブル景気はとっくの前に崩壊している。1995年には阪神淡路大震災やオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きた。崩壊とコミュニケーション不全。決して前を向いて歩けるような時代ではない。世相としては暗かったはず。

だが、若者たち、とりわけコギャルと呼ばれる女子高生たちはキラキラしていた。そのキラキラの一翼を担っていたのは、間違いなくTKサウンドだった。明るい未来が待っているなんて、とてもじゃないけど言えない。でも、小室の歌たちは、日本が漠然と抱える不安と痛みを束の間やわらげるダンスを繰り広げていた。刹那と高揚のマリアージュが、かけがえのないキラキラを運んでいた。

(C)2018「SUNNY」製作委員会

『モテキ』(2011年)にしろ、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年)にしろ、大根仁監督は既成曲との有機的なコラボレーションを展開してきた、日本では稀有な映画監督であり、映像クリエイターである。そんな監督だからこそ、この『SUNNY 強い気持ち・強い愛』はTKの時代への、きわめて敬けんなオマージュ映画になっている。

TKプロデュースの大ヒット曲たちを挿入し、郷愁をかきたてることだけが狙いではない。小室哲哉という、ある一時期の日本を救い続けた存在に最大限のリスペクトを捧げること。それは、大根にとって、現役アーティスト・小室に映画音楽をオファーすることでもあった。

小室は24曲ものオリジナルスコアを書き下ろした。ご存知の通り、彼は今年、引退を発表。かつて角川春樹監督の超大作『天と地と』(1990年)を手がけたこともある小室哲哉にとって、これは最後の映画音楽ワークになった。

(C)2018「SUNNY」製作委員会

安室奈美恵と篠原涼子

 映画の序盤、主人公がテレビ画面の中の安室奈美恵を見つめるシーンがある。奇しくも、この日本を代表する歌姫は小室よりも先に引退を発表していたが、劇中のテレビが映し出しているのは安室の引退公演をリポートするワイドショー番組であり、フィクションのはずの映画に、揺るぎない現実が立ちつくしている。 

さらに、テレビを観るヒロインを演じているのが篠原涼子であることを噛み締めたとき、もはや慄然とするしかない。なぜなら、安室も篠原もシンガーとしての初期に、小室プロデュース曲で大成功をおさめ、時代の寵児となった事実があるからである。

フィクションの世界を体現するはずの篠原涼子が、私たちの現実と地続きである安室奈美恵のテレビ映像を見つめている。そのことによって、否応なく、この約20年が、観客それぞれの胸に走馬灯のように駆け巡ることになる。1990年代中盤と2018年を、TKの申し子であるふたりの女性がつないでいる。珠玉の名シーンだ。

(C)2018「SUNNY」製作委員会

劇中には、hitomiの「CANDY GIRL」やTRFの「survival dAnce 〜no no cry more〜」「EZ DO DANCE」も流れるが、なんと言っても、安室奈美恵の楽曲が影の主役のように屹立している。

安室が画面に登場するのは、前述したワイドショーだけだが、映画は安室奈美恵という象徴に最良の敬意を払いながら、安室を讃えることでTKを讃えている。この映画的な構造が感涙を呼ぶ。物語をはるかに超えた地点で、泣いてしまうのである。安室のコアなファンにも屈指の名曲として愛されている「SWEET 19 BLUES」。この曲こそが真の主役であり、この曲がどんなふうに鳴り響くかが、この映画のキモである。

一方で、今回小室自身が手がけた映画音楽は、何かを誇示することがない透明なスコアばかりだ。1990年代中盤と2018年をつなぐファクターとして、奥ゆかしく作品を支えている。映画音楽家として有終の美を飾ったと言えるだろう。

現在の小室が、かつての小室(「SWEET 19 BLUES」は1996年発表)を支えている。かつての小室が、現在の小室を支えている。その往還が、かけがえのないグルーヴを生んでいる。

サブタイトルは小沢健二の楽曲名である。小沢の「強い気持ち・強い愛」も、久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」も、Charaの「やさしい気持ち」も、この映画で肝心なときに流れる他アーティストの曲たちもまた、TKの時代だったからこそ、その反射板として輝くことができていたのではないか。そう思えてならない。 

(C)2018「SUNNY」製作委員会

小室の引退は、安室の引退に較べると、その経緯が哀しい。彼はかつて、自身のキャリアに泥を塗るような事件を起こしたこともある。だが、そのことで、TKの時代が否定されることはない。小室哲哉が窮地の日本を救済し続けていた真実は、これから先も決して朽ちることはない。この映画は、そんなまっさらな気持ちにさせてくれる。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)