現在公開中の映画『インクレディブル・ファミリー』は、ピクサーの記念すべき長編第20弾。カリフォルニア州エメリービルにあるピクサー・アニメーション・スタジオにおじゃまして、今回日本向けに初公開された同社のアーカイブ(映画のアートワークなどが全て保存されている施設)に潜入してきました。

こんなお宝がざっくざく! - (c) KaoriSuzuki

 スタジオのすぐそばにひっそりとたたずむアーカイブは、以前は倉庫だったものを改装した新しい施設。ピクサーの長編第1弾『トイ・ストーリー』(1995)から『インクレディブル・ファミリー』(2018)まで、映画制作の過程で描かれたオリジナルのアートワーク、デザインやストーリーがどう発展していったのかを知ることができるアート部門、ストーリー部門、エディトリアル部門などのノート、脚本の全てのバージョンなどが保存されています。こうした貴重なアートや資料をいい状態で保存し続けることができるように、温度や照明に細心の注意を払い、火災予防システムも万全です。

 ちなみに、ピクサーの敷地内にある全てのビルは、ピクサーの設立者であるスティーヴ・ジョブズ氏がニューヨーク好きだったことからその地名にちなんで名付けられており、アーカイブは「クイーンズ」と呼ばれています。ここで働く人たちはほとんど女性という点でも、この名前はぴったりでした。

 「クイーンズ」の中には背の高いグレーの棚がずらり! それぞれの棚には『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『インクレディブル・ファミリー』といったロゴタイトルが付けられており、その作品がどうやってできたかを知りたければ、その棚に全てが保存されているのです。

(c) KaoriSuzuki

 これは『トイ・ストーリー』の棚にあったシドのスカルプチャー(彫刻)。重要なキャラクターに関してはこうしたスカルプチャーを作り、コンピューターに取り入れてリアルなキャラクターを生み出しました。

(c) KaoriSuzuki

そして、これはMr.インクレディブルのエクスプレッション(表情)・スカルプチャーです。エクスプレッション・スカルプチャーは「(顔を)くしゃっとさせたもの」「伸ばしたもの」「ニヤっと笑ったもの」といったあえて極端な表情をさせたもので、キャラクター一人につき3~4個。キャラクターデザインが決まった後、コンピューターアーティストがキャラクターのコンピューターモデルを作ることになるのですが、そのモデルに表情を動かす支点となる箇所がいくつ必要か、これらのスカルプチャーを使って考えていくそうです。

(c) KaoriSuzuki

 『トイ・ストーリー』以前、コンピュータグラフィックス用のハードウェアやソフトウェアを売っていたころのピクサーの資料も!

(c) KaoriSuzuki

 これらは『Mr.インクレディブル』のオリジナルアート。同作でキャラクターデザインを担当したテディ・ニュートンが作ったコラージュの数々です。ファッション誌などを切り抜き、その上からペイントしたりして、キャラクターのデザインを膨らませていきました。ヴァイオレットのデニムはもともと雑誌に載っていた胸ポケット付きのシャツなのですが、テディがそれをズボンの形に切り取ってズボンに変えています。確かによ~く見るとシャツに見えてきますよ! 今回、続編『インクレディブル・ファミリー』を作るにあたり、アーティストたちはこれらのアートワークを見に戻ってきたそうです。

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 これは『Mr.インクレディブル』では使用されなかった悪者のアート。ピクサーではよく、前の作品で使われなかったアイデアを新作で使うことがあるのだそう。『トイ・ストーリー3』のピンクのクマ・ロッツォも第1弾の時のアイデアで、第3弾でようやく日の目を見ることになりました。

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 これはボブが保険会社で働いていた時のコンセプト・ペインティング。“小さな環境にいる大男”というアイデアはそのまま『Mr.インクレディブル』に採用されていますよね。この絵で唯一明るい色が付いているのはボブのドーナツ。このことからもボブの気持ちがうかがえるようです。

(c) KaoriSuzuki

 カリスマデザイナー、エドナ・モードのアートワークも! こんな白衣を着た科学者風の女性になる可能性もあったんです。

(c) KaoriSuzuki

 これらは『モンスターズ・インク』のモンスターたちのアートワーク。映画には採用されなかったものですが、アーカイブを訪れたアーティストの誰かがこうしたキャラクターで何かをしたいと思い、それが実現する可能性は常にあるのだそうです。

 作品毎に新たなチャレンジを続けながらも原点に立ち返ることを忘れず進化を続けてきたピクサーを象徴するアーカイブ。愛情たっぷりに作品を語るスタッフの話を聞くと、ピクサーが常に成長を続けている理由がわかった気がしました。

シネマトゥデイ編集部・市川遥