文=平辻哲也/Avanti Press

今年で40回を迎えた「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」(9月8日〜9月22日まで、東京・京橋の国立映画アーカイブにて開催)。これまで120人以上の映画監督を輩出し、「新人監督の登竜門」として有名だが、映画祭の魅力はそれだけに留まらない。

招待作品部門では、スクリーンではなかなか観られない貴重な作品を上映し、多彩なゲストを招いている。1992年からPFFに携わる荒木啓子ディレクターが、そんな招待作品部門の見どころを語ってくれた。映画監督志望者だけでなく、映画ファンなら足を運んだほうがいい“5つの理由”とは……?

(1)今しか見られない? アルドリッチ特集

上映日:9月9日(日)、11日(火)〜16日(日)、18日(火)、19日(水)、21日(金)、22日(土)

ロバート・アルドリッチ監督
(C) Images courtesy of Park Circus/Warner Bros.

今年生誕100年を迎えたロバート・アルドリッチ監督特集。大リーグでの活躍を夢見る若者と家族、スカウトの姿を描くデビュー作『ビッグ・リーガー』(1953年、未公開)から警察群像劇『クワイヤボーイズ』(1977年)まで10本を上映。

9月8日、代表作『キッスで殺せ』(1955年)の上映後には、黒沢清監督がトークショーを行う。

『キッスで殺せ』
(C) Images courtesy of Park Circus/MGM Studios

アルドリッチ監督特集を行うことになった経緯を、荒木ディレクターはこう語る。

「PFFが40年ということで、『40』という数字にこだわって作家を探したのですが、なかなか合うものがありませんでした。そんな時にアルドリッチが生誕100年と知り、『これだ!』と。

名助監督と言われていただけあって、自分が体験したことを全部盗んで、活かしている。常に人と違うことに挑戦し、成功している。展開の早さ、省略、感情表現のうまさ。学ぶべきものがいっぱいある。

男性映画の印象がありますが、女性が主人公の作品もあるし、多ジャンルの作品を撮っているんです。映画は盗むことから始まるんです」

しかし、その作品集めは困難を極めたという。「素材が見つかっても権利元が見つからない、権利元が見つかっても、上映できるプリントがないという二重の難しさがありました」

ほとんどの作品は自宅でDVDで観られるが、これだけの数が一挙にスクリーンで観られるのは日本で最後になるかもしれない。

(2)日本を代表する名カメラマンの技に刮目!

上映日:9月8日(土)、9日(日)、16日(日)

小川プロダクションのドキュメンタリー作品、黒木和雄監督作品で知られ、今年5月に亡くなった日本を代表する名カメラマン、たむらまさき(田村正毅)氏の特集。

たむらまさき氏

青山真治監督の『Helpless』(1996年)、『EUREKA ユリイカ』(2001年)、柳町光男監督の『さらば愛しき大地』(1982年)、諏訪敦彦監督の『2/デュオ』(1997年)を上映し、各監督がトークイベントを行う。なかなかスポットライトが当てられることのない撮影監督に注目したのはPFFならでは。

「どこかで追悼特集をやってもらえると思っていましたが、実現しないので、やらねば、と急きょ特集を組みました。トークイベントは作品を共にした監督にお願いしました。7作品あるプロデューサーの仙頭武則さん、13作品でたむらさんと組まれた青山さんは外せない。

『EUREKA ユリイカ』は貴重なプリント上映で、いい状態のもの探しています。普通の人は撮影監督が誰であるかを意識しないものです。きれいな絵を撮っていれば、それがすべてになってしまう。そういうものを超えた部分があるんだ、ということを知ってほしいですね」

『EUREKA ユリイカ』
(C) 2001 J‐WORKS FILM INITIATIVE (電通+IMAGICA+WOWOW+東京テアトル)

バスジャック事件を発端に、心に大きな傷を受けた運転手(役所広司)と兄妹(宮﨑あおい、宮﨑将)の再生の旅を描く217分の大作『EUREKA ユリイカ』は、カンヌ映画祭で国際映画批評家連盟賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。独特なセピアカラーが物語の効果を上げている。

『さらば愛しき大地』は、柳町監督が自らフィルムセンターに収蔵を申し出た劇場公開版よりも4分長い“完成時版”での上映となる。

(3)知られざる天才が今回の企画を機に27年ぶりの新作まで撮影!

上映日:9月9日(日)

脚本家、漫画原作者の香川まさひと氏はPFF出身で、吉田大八監督の『クヒオ大佐』(2009年)、『羊の木』(2018年)の脚本を務めた人物。

吉田大八監督(左)、香川まさひと氏(右)

8ミリフィルムで撮影されたPFF入選作『青春』(1983年、4分)、『バスクリンナイト』(1984年、28分)、VHS作品の『くだらない人生』(1991年、19分)をデジタル版で上映。さらには27年ぶりの新作『セグウェイ』(出演・木原実、吉田大八、井手陽子)もプレミア上映される。

「吉田さんは、香川さんのことを『天才だ』と言い続け、敬愛していたんです。『クヒオ大佐』で、一緒に仕事をするという長年の念願を叶えましたが、連絡先を知るために、PFF事務局に電話してきたという縁もあります。

最初、この企画を香川さんにオファーした時には『何を今さら』と断られたのですが、最終的には新作まで撮っていただけることになりました。吉田さんとしては、先読みできない香川作品の魅力を伝えたいということですが、どんな話が飛び出すかは、当日のお楽しみです」

『青春』

当日は、日本テレビの夕方のニュースでおなじみの気象予報士の木原実氏も駆けつける。香川作品の常連俳優で、意外なエピソードを聞くことができそうだ。

(4)木下惠介監督を敬愛する2監督が毒舌トークか!

上映日:9月15日(土)

『カルメン故郷に帰る』(1951年)、『二十四の瞳』(1954年)、『楢山節考』(1958年)などで知られ、黒澤明監督らと共に日本映画の黄金期を作り、TBS「木下恵介アワー」などテレビドラマでも多大な影響を与えた巨匠・木下惠介監督の偉業に焦点を当てた企画の第2弾。

原恵一監督(左)、橋口亮輔監督(右)

第二次世界大戦時の木下監督の実話を基に映画化した『はじまりのみち』(2013年)の原恵一監督と、PFF出身で『恋人たち』(2015年)などで知られる橋口亮輔監督が対談。『永遠の人』(1961年)を上映した昨年に続き、今年は『野菊の如き君なりき』(1955年)と『笛吹川』(1960年)をセレクトした。

野菊の如き君なりき

「上映が続いている小津安二郎監督とは対照的に、木下惠介監督は今、忘れられた存在になりつつあります。原さんは『このままでは存在を知っている人もいなくなり、上映の機会もなくなってしまう』という強い危機感を持っていて、『この企画を続けたい』というので、それに応えようと今年も企画しました。

橋口さんも同様に、木下惠介の繊細さや才気が評価されていないことに憤りを持っています。この2人の意欲がある限りはやっていきます。2人の毒舌トークを聞くだけでも楽しいですよ」

(5)テレビ業界の第一線で働くディレクターの本音が聴ける!

上映日:9月16日(日)

稲垣哲也氏(左)、佐々木健一氏(右)

ビートたけしの芸人としての原点を探るドキュメンタリー『たけし誕生〜オイラの師匠と浅草〜』(2017年、59分)を自主製作したTVディレクター、稲垣氏が、この企画を後押しした佐々木氏と対談。「作りたい作品を作って生きる」というクリエティブにおける共通の課題をテーマに、創作術を語る。

『たけし誕生〜オイラの師匠と浅草〜』
(C) NHK2018

「『たけし誕生〜オイラの師匠と浅草〜』は自主製作され、NHK BSプレミアムで放送されたドキュメンタリー。スクリーン上映の機会を探しているという話を聞き、お願いしました。対談相手の佐々木さんはNHKの“Eテレを変えた男”と言われる方で、本もたくさん出されています。監督志望者にとって、テレビは身近な就職先。その世界の人の話を聞くのはとても大事だと思って、企画しました」

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新たな才能をいち早く目撃できるコンペ部門はもちろん、招待作品部門もPFFらしい企画が盛りだくさん。「ドキューン」と胸を打つ映画にたくさん出会えそう。学生当日券は500円。若い才能はもちろん、若い観客も発掘したい、との考えだ。

 

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「第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」(9月8日~22日、月曜休館、会場=国立映画アーカイブ)は、自主映画のコンペティションを中心とした映画祭で、新人監督の登竜門として知られる。

『家族ゲーム』(1983年)の故・森田芳光、カンヌ国際映画祭の常連・黒沢清、ハリウッドで新作を準備中の園子温、『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)の犬童一心、『八日目の蟬』(2011年)の成島出、『恋人たち』(2015年)の橋口亮輔、ヴェネチア国際映画祭コンペ部門に初の時代劇『斬、』(2018年11月24日公開)を出品した塚本晋也、2017年のキネマ旬報ベスト・テン1位『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の石井裕也ら120人以上のプロの映画監督を輩出してきた。PFFが映画界に与えたインパクトとは何か?