ダコタ・ファニング(1994年生まれ)といえば『アイ・アム・サム』(2001年)や『マイ・ボディガード』(2004年)、『宇宙戦争』(2005年)などで21世紀初頭の天才子役と謳われていたものだが(宮崎駿監督の名作『となりのトトロ』英語吹替版のサツキ役も彼女である)、その後思春期に入るとともに、そのオーラが徐々に消えていった感は否めない。

もっとも、昔から「子役は大成しない」との例えはあるものの、彼女の場合キャリアそのものは大人になった今も地道に積み重ねていて、最近も『オーシャンズ8』(2018年)でお見かけしたばかり。しかし子役時代の彼女の勢いを知る身としては、どこか寂しい気もしないでもないのが偽らざるところ(本来なら8人のメンバーの中に入っていてもおかしくはないだろう)。

ところが、昨年各映画祭で上映され、9月7日より日本公開されたダコタ・ファニング主演作『500ページの夢の束』を観て、それまでこちらが抱いていた偏見などは見事に払拭され、逆に本当に良い女優になったなあと感嘆させられてしまった。

しかもこの作品、オタクであることがハートフルなストーリーに直結していく点においても、映画好きにはたまらないカタルシスをもたらしてくれる優れものなのである。

心にハンデを抱えたヒロインが意を決しての健気な独り旅!

500ページの夢の束 ダコタ・ファニング

(C)2016 PSB Film LLC

『500ページの夢の束』の主人公ウェンディ(ダコタ・ファニング)は自閉症を抱えながらも自立支援ホームで暮らし、ソーシャルワーカーのスコッティ(トニ・コレット)の指導を受けながらアルバイトに勤しんでいる。

そんなウェンディの趣味(というよりも生きがいそのもの)は、SFテレビ&映画シリーズとして長年人気を誇る『スター・トレック』シリーズ(通称スタトレ)を観ること。

今では彼女がスタトレ博士であることを聞きつけた各地のトレッキー(スタトレ・ファンの総称)がクイズ勝負を挑んでくるものの、未だに誰も彼女に叶わない。それほどに博学なのである。

あるとき『スター・トレック』シリーズ50周年を記念した脚本コンテストが開催されることを知ったウェンディは、渾身の作品を書き上げる。しかし、離れて暮らす姉オードリー(アリス・イヴ)とのいさかいでうっかり脚本を郵送し忘れた彼女は、締め切りに間に合わせるため、ロサンゼルスの映画会社パラマウント社までバスに乗って直接届けることを決意し、こっそりと旅立っていくのだが……。

500ページの夢の束 トレッキー ネタバレなし

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心にハンデを抱えつつ、目的を達成すべく健気にヒロインが独り旅する過程を描いたロード・ムービーとして、本作はまず実に微笑ましく感動的である。周囲とのコンタクトが不得手で傷つきやすく、それでも前を見据えていこうと欲するウェンディの姿勢そのものにも心打たれてしまう。

また、そんなウェンディにシンパシーを抱きながら好演するダコタ・ファニングの存在感からは、見かけが華やかなハリウッド大作などよりも、あくまでも女優として満足できる役柄こそを求め続けていたことまで理解できる。それはまた子役時代から長年ハリウッドの酸いも甘いも体験してきた彼女だからこそ到達し得た結論なのだろう。

監督は、障がい者の性の問題に挑み世界中の映画祭で絶賛された『セッションズ』(2012年)で知られるベン・リューイン。彼自身、6歳の時に急性肺白膵炎を患い、以後ずっと松葉杖での生活を強いられている障がい者である。

『スター・トレック』が示唆するオタクのこだわりの肯定

500ページの夢の束 スター・トレックネタ元

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ここで『スター・トレック』とは何かを簡単に解説しておきたい。これは22世紀から24世紀の未来を舞台に、宇宙船USSエンタープライズが調査飛行を行いつつ、さまざまな事態や危機に直面しながら、勇気と叡智をもって解決していくSF作品で、その始まりは1966年から1969年にかけて放映されたTVシリーズ。日本では『宇宙大作戦』の邦題でオンエアされ、以後半世紀以上にわたり、今なおテレビ&映画の新作が作られ、世界中に熱狂的なファンを輩出し続けている。

今では『スター・ウォーズ』シリーズと比べられる向きもあるが、こちらの製作が10年ほど早いだけ歴史もあり、ファン層にしても“オタクの元祖”としての貫禄も持ち合わせているように感じられる。特にアメリカでは表には出ないものの、実は熱い想いを隠し持っているファンがかなり潜伏(?)しているようにも見受けられる。

本作の中でも、スコッティが『スター・トレック』と『スター・ウォーズ』をごっちゃにした発言をした途端、息子から咎められるシーンが出てくる。(つまり、息子もトレッキーだった!)

500ページの夢の束 あらすじレビュー

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また『スター・トレック』には宇宙人クリンゴン星人が用いるクリンゴン語という独自の言語形態があるのだが、当然ウェンディはクリンゴン語を話せるし、それによってある危機を回避するユニークなエピソードも披露される。(アメリカ人がどれだけクリンゴン語を話せるか、アンケート調査をしたくなるほどに素敵なエピソード!)

オタクもまた時に世間から阻害されがちな存在ではあるが、本作はウェンディの健気な行動を通してオタクの純粋な想いまでも肯定し、とかくヘイト的な言動に陥りがちな昨今の社会情勢に対し、拳を振りかざすのではなく、あくまでも優しく人間の平等性を問いかけていく。それが本作の最大の美徳ともいえるだろう。

500ページの夢の束 結末解説

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旅に出た後のエピソードの数々も実にスリリングでウィットの効いた本作、果たしてウェンディのシナリオは締め切りに間に合うのか? というスリル満点のクライマックスを経て、ささやかな感動をもたらすラストへ行きつく。

とどのつまりはこの作品、ダコタ・ファニングを子どもの頃からずっと見続けてきた映画“オタク”のひとりとして、感無量の極みなのであった。

(文・増當竜也)