自主映画の祭典と呼ばれる「第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が9月8日から22日まで、東京・京橋の国立映画アーカイブで開催される。メイン・プログラムとなるコンペティション部門の「PFFアワード2018」は、応募作品529本の自主映画から18作品が入選。ここでは、未来の日本映画界を牽引する新たな才能を感じさせる全作品を、一挙紹介しよう。

自主映画のイメージはもう変わっている

ところで「自主映画」というとどんなイメージを抱くだろうか? 「素人の作品」「つまらない」といった印象をもっていたら、それはもったいない。現在の自主映画は思い切りエンターテインメントしているアクションやコメディから、作家性の強いアート作品まで幅広い。さらに、商業映画に負けないクオリティの作品もあれば、良く知られた俳優が出演している作品も珍しくないのだ。それを表すように今年の「PFFアワード2018」で入選を果たした18作品も、実に様々なタイプの作品が顔を揃えた。

今年の入選作18作品の顔ぶれは?

タイトルの五十音順で1作ずつ紹介していこう。

『愛讃讃』(監督:池添俊)

池添俊監督の『愛讃讃』は、ふとした瞬間に甦る記憶をとらえた1作。帰省した男が故郷の駅のホームに立つ。すると、ふいに忘れかけていた継母の姿を思い出し、それに連なるように彼女と交わしたふだんの会話や日常風景の記憶も呼び起こされる。例えば大人になってから青春時代に聴いていた曲を耳にして、当時を一気に思い出してしまうような、そんなノスタルジーが作品に存在。今や珍しいフィルム作品でもある。

『ある日本の絵描き少年』(監督:川尻将由)

川尻将由監督の『ある日本の絵描き少年』は、子どものころから絵が上手で漫画家を目指す男の苦難の道のりが、彼のアーティストとしての絵の成長と、その絵に滲み出る心情とともに描かれるアニメーション。ある作品との運命的な出会いを描いたシーンは、小説、絵画、映画、音楽ほか、この世のあらゆるアートの存在意義を示すかのよう。また、夢を追うすべての人へのエールにも受け止められ、爽やかな感動の余韻を残す。

『一文字拳 序章 ― 最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い ―』(監督:中元雄)

中元雄監督の『一文字拳 序章 ― 最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い ―』は、並々ならぬアクション映画愛が炸裂する。世界最強の武術家を目標とする一文字ユウタの活躍を、生身を使ったアクション満載で活写。最後のNG集までサービス精神満点で、ジャッキー(・チェン)映画や香港アクション映画ファンにはぜひ観てほしい、本気のアクション映画になっている。

『オーファンズ・ブルース』(監督:工藤梨穂)

工藤梨穂監督の『オーファンズ・ブルース』は、記憶が欠落していく病に侵された少女が主人公。先の見えない恐怖と不安に襲われる彼女のもう一度会いたい大切な友人探しの旅が描かれる。ロードムービー仕立ての物語は、残酷さや哀しみから、輝きから大切さまでと、記憶というものの悲喜の両面を映し出す。自分が自分でなくなってしまうような感覚に陥る少女の胸の内が伝わってくる。

『からっぽ』(監督:野村奈央)

野村奈央監督の『からっぽ』は、自分がどこに存在していいのかわからない女の子の物語。いくつものバイトを掛け持ちして、どれも人並みよりはうまくこなす。ただ、どれも専門性を求められる仕事ではなく、自分のやりたいことでもない。そんな自身の平凡さに嘆くヒロインが、アートの世界に身を置く男性と出会ったとき、何かがかわる。どこか疎外感を覚えることの多い現代、このヒロインに共鳴する人は少なくないだろう。

『カルチェ』(監督:植木咲楽)

植木咲楽監督の『カルチェ』は、一風変わった映画だ。どこかのある街、トウキョウ3区のプールから生命体が誕生。その生命体はすでに体は高校生並みに出来上がっているがなんの知識ももっていない。割り当てられた人間によって7カ月間育てられ、さまざまな知識や概念を得て彼らはどこかへ戻っていく。『散歩する侵略者』(2017年)の逆をいくような異色の設定だが、行き着く先はまったく違い、人間の生と死から誕生までを感じさせるようなSFの世界へ誘う。

『川と自転車』(監督:池田昌平)

池田昌平監督の『川と自転車』は、大胆不敵な1本といっていいかもしれない。3話のショート・ストーリーで構成されるが、いずれもひと言で言えば、河川敷を散策する男女の姿を収めただけ。しかし、ロングショット中心、そしてセリフを一切排する思い切った手法をとることで、パントマイム的なおもしろさを生み出すことに成功。まるで説明過多な現代の映画に反旗を翻したような野心作になっている。

『貴美子のまち』(監督:芦澤麻有子)

芦澤麻有子監督の『貴美子のまち』は、なんとも愛嬌のある主婦のヒロインが登場する物語。身勝手な夫と娘に愛想をつかしたパート主婦が友人に誘われるままシンガポールへ。未知の世界へ踏み出した彼女の転身と摩訶不思議な冒険が軽やかに綴られる。普通のお母さんの家族へのちょっとした反乱には、特に同世代の同性は同調してしまうのではないだろうか。

『Good bye, Eric!』(監督:高階匠)

高階匠監督の『Good bye, Eric!』は、喜劇と悲劇がクロスして描かれる友情ドラマ。大親友との別れの場所に向かっていた男が、トラブル続きで迷走を繰り返す。はじめはおそらく運の悪い男の珍道中記にしか見えない。ところがこれが先へ行くほど様相が変わり、意外な感動の瞬間が待ち構える。

注目の若手女優の監督作、ドキュメンタリーも

『最期の星』(監督:小川紗良)

小川紗良監督の『最期の星』は、思春期の女の子の揺れる想いが綴られる。闘病中で会ったことがない同級生に、ちょっとした軽蔑と興味の目を向けるヒロイン。クラスに居場所のない彼女の不安定な心模様が映し出される。すでにお気づきの人もいると思うが、小川監督はNHKの朝の連続テレビ小説「まれ」などに出演。現在、女優としても脚光を浴びている存在だ。

『山河の子』(監督:胡旭彤)

胡旭彤監督の『山河の子』は、ドキュメンタリー作品。都会から離れた中国の農村部に入り、そこで暮らす何組かの家族を見つめている。親の失踪、DVなど、村ののどかな風景からは想像できない問題が浮き彫りに。そのシビアな現実に直面しながらも、それでも前を向いて生きていく子どもたちの姿が忘れ難い。

『シアノス』(監督:松本剛)

松本剛監督の『シアノス』は、現実と虚構の世界に迷い込んだような感覚に陥るミステリー。片田舎で起きた衝撃の少女失踪事件、その女の子の最後の目撃者となった少年の身に異変が起きる。果たして少女に何が起きたのか? そして少年はなにを見たのか? 多感な時期にいる少年の揺れる心と事件とがリンクするミステリアスなドラマに魅入る。

『シャシャシャ』(監督:亀井史興)

亀井史興監督の『シャシャシャ』は、なんとも形容しがたい。彼女との関係にピリオドを打った男の徐々に変わりゆく日常。そこから垣間見えるのは、パートナーを失った悲しみか、独り身の気楽さか。それとも、彼にとっては新たな生活の出発にすぎないのか。ちょっと何を考えているかわからない主人公の表情と行動から、いくつかの筋立てが浮かぶユニークな作品になっている。

『19歳』(監督:道本咲希)

道本咲希監督の『19歳』は、セルフ・ドキュメンタリーに近い自分語りの物語。20歳を前に、世間を斜めからしか見られない主人公が、自らの不安やそれとは相反する社会への不満をカメラの前で語る。というよりも、ぶちまけるといったほうが正確か。演じているとも、監督自身そのままともいえる主人公は、誰からも愛される人物ではない。でも、それゆえリアルで19歳の等身大の女子の本心が見えてくる。また、自分の意見をその自身の声をもって作品で打ち明けたところに作り手としての決意を感じる。

『すばらしき世界』(監督:石井達也)

石井達也監督の『すばらしき世界』は、自身の体験がもとになっているという。母と二人で暮らしてきた16歳の少年と母親の間に、再婚を決めた元夫が親権を求めて強引に介入してきたことから家族問題が勃発。大人の都合に振り回される子どもの哀しみ、怒り、あきらめといった心情がリアルにこちらへ届いてきて切ない。

『小さな声で囁いて』(監督:山本英)

山本英監督の『小さな声で囁いて』は、煮え切らないカップルの物語。結婚を意識している彼氏と、それにまったく乗り気ではない彼女が、どこか互いに感じている溝をどうにか埋めようと気分転換で熱海へ。ただし、そう簡単に事は解決しない。一度離れてしまうとそうやすやすとは戻らない男女関係の行方が描かれる。

『モフモフィクション』(監督:今津良樹)

今津良樹監督の『モフモフィクション』は、モフモフ動物なるユニークなキャラクターが登場するアニメーション。世界を魅了する架空の人気キャラクター、モフモフ動物の人気の秘密やそのかわいさを紹介していく設定の物語が展開していくが、そこにゆるキャラブームへの風刺や、なにかというと人気キャラクターにおんぶにだっこの世の中の風潮が見え隠れ。現代社会をシニカルに斬ったようにも映る1作になっている。

『わたの原』(監督:藤原芽生)

藤原芽生監督の『わたの原』は、現代を生きるヒロインの心の整理を描く。まだ20代前半の若い女性が、富士山が目の前に広がる、今は誰も住んでいない母の実家でしばし過ごすことに。庭の手入れをする中で、最近自分の周りで起きた諸問題を振り返る。そこから浮かび上がるのは、会社での人間関係の複雑さや世間の目のわずらわしさ。そのことに対して心の整理をつけ、新たな一歩を踏み出すヒロインの姿が印象深い。

以上の18作品になる。

コンペティション部門と招待作品部門の2部門で構成されるPFF。今年は40回という節目の回だ。招待部門は、生誕100年を迎え、再評価も高まるロバート・アルドリッチ監督を特集した「女も男もカッコいい!今こそアルドリッチ」、今年5月に逝去した日本を代表する撮影監督・たむらまさきを追悼する「追悼 たむらまさきを語り尽くす」、参考上映とゲストのトークで映画映像のコツを伝授する「PFFスペシャル講座『映画のコツ』」など、いつにもまして映画祭でしかなしえない、ここだけの魅力的なスペシャル・プログラムが組まれた。ついついそちらに目がいきがちだが、若き才能たちが描く新たな映画世界を体感できるコンペティション部門もぜひ注目してほしい。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)

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『家族ゲーム』(1983年)の故・森田芳光、カンヌ国際映画祭の常連・黒沢清、ハリウッドで新作を準備中の園子温、『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)の犬童一心、『八日目の蟬』(2011年)の成島出、『恋人たち』(2015年)の橋口亮輔、ヴェネチア国際映画祭コンペ部門に初の時代劇『斬、』(2018年11月24日公開)を出品した塚本晋也、2017年のキネマ旬報ベスト・テン1位『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の石井裕也ら120人以上のプロの映画監督を輩出してきた。PFFが映画界に与えたインパクトとは何か?