【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯16】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

音に反応して人間を襲う“何か”により、荒廃している近未来。「音を立てたら即死」という状況のなかで、父と母、娘、2人の息子の一家は力を合わせながら生き延びていたが、突然、ある悲劇が起こる。

究極の状況で問われる家族の絆、親子のあり方とは? 全米でバズを起こしたホラー『クワイエット・プレイス』必見の理由を挙げたい。

トマトメーター95%、興収は製作費の約20倍

同作のバズは、今年3月にテキサス州オースティンで開催されたサウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)映画祭でのプレミアから始まった。

『クワイエット・プレイス』9月28日(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

4月上旬の米公開に際しては、映画批評サイト「ロッテン・トマト」で98%の高得点をマーク。予算1,700万ドルながら、全世界で3億ドル以上を稼いだボックスオフィスは、批評家も観客も大満足の証拠なのだ。

ホラー映画でオスカーに絡むという偉業も?

今年のアカデミー賞では、異色(そして珠玉)のファンタジー映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(2018年日本公開)が作品賞を受賞し、こちらも異色のホラー映画『ゲット・アウト』(2017年)が複数ノミネートされるなど、オスカーにジャンルの新境地がもたらされた。

『クワイエット・プレイス』9月28日(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

こうしたなか、来年のオスカーに向けて、『クワイエット・プレイス』にもノミネートのチャンスは十分あるとの声も多い。実際に、ジョン・クラシンスキー(監督・主演)と、エミリー・ブラント(主演)のPR会社が、賞レースに向けたキャンペーンを始めたという報道も。

往年のホラー映画からインスピレーション

クラシンスキーは同作の演出について、ヒッチコック映画、『ローズマリーの赤ちゃん』(1969年)、『ジョーズ』(1975年)、『エイリアン』(1979年)といった往年のホラーからインスピレーションを受けたと語っている。

『クワイエット・プレイス』9月28日(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

そのとおり、手に汗にぎる、息を呑む、突然飛び上がる……そんなホラー要素が網羅されている。さらに、「音を立てたら即死」の緊張感は客席までも巻き込み、「ポップコーンを噛むことさえ、はばかられる映画」と表現した米批評家も。

親としての実体験が反映された家族の物語

クラシンスキーが同作を始動したのは、妻で女優、同作の主演も務めるブラントとの間に2人目の娘が生まれた直後。親としての在り方を模索しているなかで、脚本草稿に出会い、ホラーのなかにユニバーサルな家族の物語を見出してリライトに着手したという。

『クワイエット・プレイス』9月28日(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

その過程について、「ホラーにドラマを肉付けしたのではなく、ドラマを描くためにホラーの要素を借りた」と表現。「親にとって、この世で一番の恐怖である、『子どもを守れないかもしれない』という状況」のなかで、家族の絆、親子の在り方を描いたのだと。

確かに、同作の設定は現実離れしたホラーだが、災害、戦争、貧困、家庭内暴力など、様々な理由で「子どもを守れないかもしれない恐怖」に直面する可能性は誰にでもある。

親の無償の愛、子どもの親への想いなどが痛いほどに感じられて、恐怖とともに涙も噴出する前代未聞のホラーなのだ。

“本当の夫婦が夫婦役を演じて大成功”のレアケース

同作では、監督クラシンスキーと妻のブラントが夫婦役を演じている。夫婦共演映画では、いろいろなスキャンダルや私生活の情報が先行し、観客が作品内のキャラ設定に没頭できないケースも多い。そうしたなか、同作の2人は、私生活での相性が逆に信憑性を与えていて大成功。

『クワイエット・プレイス』9月28日(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

全編をとおして、子どもたちの“父と母”であり続ける2人が、唯一、“夫と妻”として静かにダンスを踊るシーンは本当に切なく、どんなラブシーンよりも素敵なショットである。

撮影前には何ヶ月にもわたって、夫婦で作品について話し合ったそうで、撮影現場でブラントは主演女優としてだけでなく、監督の彼にぴったりと寄り添い、一番の理解者&アドバイス役だったとか。

登場人物は家族メンバー5人のみ

全編をとおして、登場するのは家族メンバー5人のみ(ある老夫婦が一瞬出てくるシーン以外)。

『クワイエット・プレイス』9月28日(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

夫婦・父母役の2人はもちろん、“音”に関する同作において重要な役どころとなる娘役のミリセント・シモンズ(クラシンスキーの信念で、実際に耳が不自由な女優を起用)、息子役のノア・ジュプ(『ワンダー 君は太陽』、2018年日本公開)ともに、キャストの演技が素晴らしい。

音なしの閉塞した空間で繰り広げられる1時間半のドラマを、たった5人で満たすのだから、その演技力と相性は必見だ。

無名の若手脚本家コンビのハリウッド・ドリーム

前述のクラシンスキーに脚本草稿が渡るまでの舞台裏もまた、涙なしでは語れないほどだ。原案・脚本は、超自然現象やサスペンス・スリラーのインディペンデント作品を手掛けてきた33歳の若手コンビ、スコット・ベックとブライアン・ウッズ。

『クワイエット・プレイス』9月28日(金)全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

大学時代にチャーリー・チャップリンのサイレント映画にのめり込み、同作の企画を思いついたという。ところが、いくらサイレントに憧れていたとはいえ。67ページを過ぎても、たった一言しかセリフがない奇妙な脚本に、自ら行き詰まる2人。

他の小さなプロジェクトも不発でハリウッド進出をあきらめかけていたとき、売れっ子プロデューサーのマイケル・ベイ(『アルマゲドン』『トランスフォーマー』など多数)の目に留まる。そこからは……このとおり。ハリウッド進出を目指す次世代のフィルムメイカーに勇気を与えてくれる情熱の賜物なのだ。

正真正銘のサバイバル・ホラーながら、胸をつかんで離さないヒューマン・ドラマ『クワイエット・プレイス』は、9月28日(金)より全国ロードショー。

(Avanti Press)

【特集記事】【ネタバレなし】『クワイエット・プレイス』ストーリー&見どころを紹介!

歴代ホラー映画No.1ヒットを記録した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017年)を筆頭に、近年洋画のホラー作品から次々と大ヒット作が誕生している。そんな中、またしても記録的な大ヒット作が登場。荒廃した世界を舞台に、セリフも音楽もほとんどなく、登場人物も少人数で構成された物語は、全編を圧倒的な恐怖と緊張感が支配し、観客をスクリーンにクギ付けにする。大注目作のストーリー&見どころを紹介!