文=村尾泰郎/Avanti Press

1970年、大阪で開催された万国博覧会は、モダンなデザインのパビリオンが建ち並んで、まるで未来都市みたいにキラキラと輝いていた。ところが中央広場には、未来都市には似合わない古代の神像みたいな異様な建造物がそびえ立っていた。

それは大阪万博のトレードマーク、太陽の塔。なぜ、そんな奇妙なデザインになったのか。そこにこめられたメッセージとは? 画家、学者、僧侶、探検家など、総勢29名もの人物にインタビューして、太陽の塔の不思議に迫ったドキュメンタリー映画が『太陽の塔』だ。

『太陽の塔』
(c)2018 映画『太陽の塔』製作委員会
9月29日(土)渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国公開

日本人のルーツ・縄文土器から独自の作風を創出

太陽の塔をデザインしたのは日本を代表する前衛芸術家、岡本太郎。映画ではまず、岡本太郎について紹介していく。人気漫画家の岡本一平と作家の岡本かの子の間に生まれた太郎。子供の頃、太郎は原稿を執筆中の母親に、邪魔をしないように家の柱に縛られていたとか。でも、太郎はそんな母親を憎まず、母親の背中を見ながら、母親が小説に賭ける情熱に共感していたというからすごい。太郎は生まれついての芸術家だった。

『太陽の塔』
(c)2018 映画『太陽の塔』製作委員会
9月29日(土)渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国公開

10代の頃、太郎は家族でフランスに移り住み、両親が日本に帰ってからも一人でパリに残って絵の勉強を続けた。そして、当時、最先端だった抽象画やシュルレアリズムに触れていく。

太郎が目指していたのは、既成概念をブチ壊すアート。美術だけではあきたらず、民族学を学び始めた太郎は、アフリカの仮面や神像に出会って衝撃を受けた。そして、欧米的な価値観や文明社会に疑問を抱き、日本人のルーツともいえる縄文時代の土器に注目。そういった原始的な美術にアートが本来持つ力強さを感じて、独自の作風を生み出していった。

高度成長期に浮かれる日本人への痛烈なメッセージ

洗練や技術を否定するアート界の反逆児、太郎にとって、「人類の進歩と調和」をテーマにした万博は、自分の考えとは真逆のイベント。しかし、太郎は国から依頼を受けると、全身全霊を注いで太陽の塔を作り上げる。それは高度成長期に浮かれ騒ぐ日本人に対する痛烈なメッセージだった。そして、そのメッセージが今の社会にとっても重要なことを、映画の後半で解き明かしていく。

『太陽の塔』
(c)2018 映画『太陽の塔』製作委員会
9月29日(土)渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国公開

太郎が惹かれた縄文時代は狩猟社会。人々は狩りの獲物をわかちあい、みんなが平等に生きていた。ところが農耕社会の弥生時代になると、作物を保存するようになり、貧富の差が生まれて権力が生まれていく。そういう生活の違いが、躍動感溢れる縄文式土器と穏やかな弥生式土器のデザインの違いに現れているとか。そして、21世紀。資本主義社会も末期を迎え、人々は権力に反抗するどころか、みずから権力に従うことで安定を手に入れるようになった今、アートはどうしたら、縄文式土器やアフリカの仮面のような生命力を取り戻すことができるのか。

『太陽の塔』
(c)2018 映画『太陽の塔』製作委員会
9月29日(土)渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国公開

高尚な趣味ではなく、人間らしく生きる力としてのアート

太郎は生前、縄文文化の影響が残る沖縄やアイヌのお祭りに興味を持っていた。太郎にとって、そういったものも。いや、そういったものこそアートだったのだ。映画では、東日本大震災の被災地で自然発生的に人々が様々なアートを生み出したことを紹介しているが、アートは高尚な趣味ではなく、生きる力と関係があるらしい。人間らしく生きるためのアート。それは常々、太郎が主張していたことだった。

また、太郎が疑問を感じていた〈人類の進歩〉も危機的状況だ。人類の輝かしい未来を約束するはずだった原子力エネルギーは、自然災害の前では無力どころかそれ以上の被害をもたらす。現在、渋谷の街角には、太郎が太陽の塔と同じ時期に、原水爆の悲劇を題材にして描いた巨大壁画「明日への神話」が展示してあるが、その前を歩く人々は誰も見ようとしない。

『太陽の塔』
(c)2018 映画『太陽の塔』製作委員会
9月29日(土)渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国公開

そんななか、2011年に気鋭のアーティスト集団、Chim!Pomが、密かに「明日への神話」に福島の原子力発電所を描き加えたことが話題になった。「悪質な落書き」と報道するマスコミもあったが、もし太郎が生きていたら、一体どんなリアクションをしていただろう。映画に登場したChim!Pomは、太陽の塔は「日本や人類のいろんなことを背負って佇み続ける覚悟を感じる」と語っている。

さまざまな証言から浮かび上がる、未来へのヒント

そんな風に、太陽の塔をめぐって、芸術論、民族学、社会学、哲学など様々な話題が飛び出し、やがて生命や宇宙の神秘へと展開していく。この知的興奮に満ちた映画を監督したのは、CMやミュージック・ビデオを手掛けてきた新鋭、関根光才。本作が初めての長編ドキュメンタリー作品だが、パズルのピースを組みあわせるようにさまざまな証言を緻密に構成。巧みな語り口で、今の日本が抱えるさまざまな問題や未来へのヒントを浮かび上がらせる。

菅原小春(ダンサー)
『太陽の塔』
(c)2018 映画『太陽の塔』製作委員会
9月29日(土)渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国公開

映画を観終わった後、本一冊を読み切ったような情報量に圧倒されるが、まだまだ太陽の塔が我々に何かを語りかけてくるような気がする。太陽の塔を見て、まず思うのが「これは一体なんだろう?」という素朴な疑問。同じように、自分を取り巻く世界や自分自身に対して疑問を持つことの大切さを、この映画が、そして太陽の塔が教えてくれるはずだ。

『太陽の塔』
(c)2018 映画『太陽の塔』製作委員会
9月29日(土)渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田ほか全国公開