製作費300万円で作られた超低予算インディーズ映画『カメラを止めるな!』が、何と観客動員100万人を突破する大ヒット(※)となり、現在も記録更新中である。

平成最後の夏にインディーズがメジャーを凌駕するという、日本映画界を揺るがす未曽有の大事件。しかし、これによって“ジャパニーズ・ドリーム”も可能であることが証明されたわけであり、その意味では映像ジャンルに着手する今の若い世代などに大きな希望を与えてくれたようにも思える。

そもそも日本のインディーズ映画は総じて昔から質の高いものが多い。特にデジタル技術の進歩で以前よりも簡明に映画を撮りやすくなってからは、ユニークな内容の作品が毎年競うように輩出され続けているのだ。

今回ご紹介する『ウルフなシッシー』(9月15日公開)も、その中の1本であり、およそメジャーでは絶対に企画が通らない(というよりも誰も考えつかない!?)であろう、逆にインディーズだからこそ成立し得た快作なのだ。

簡単に申すとこの作品、79分という上映時間の間、若い男女の痴話喧嘩のみを延々と描いているのである!

AV監督と売れない女優の延々と続く痴話喧嘩!?

『ウルフなシッシー』の主人公は、フェチで気弱で頼りない新米AV監督の辰夫(大野大輔)と、売れない女優アヤコ(根矢涼香)のカップルである。

ウルフなシッシー レビューネタバレなし

(C)楽しい時代/モクカ

今日もまたオーディションに落ちたアヤコ。

わがままな女優に振り回されっぱなしの辰夫。

その日の夜、アヤコは憂さ晴らしも兼ねて、婚約した友人を祝うべく一緒に酒を飲んでいたのだが、そこに呼ばれてもいない辰夫がひょっこりと乱入!
(何とGPSでアヤコの居場所を探し当てた……!?)

自分の不甲斐なさそっちのけで、ただただアヤコに甘えたそうだが、空気の読めなさだけは超一流の辰夫に、アヤコはとうの昔にうんざりの様子だ。
(彼女は辰夫を将来性のある映画監督と思い込んで付き合い出したようだが、それがまったく見込み違いだった……と結論づけるのは性急過ぎる?)

やがて舞台は辰夫の部屋に移り、既に酒が回って久しいふたりは、酔いの勢いに任せてお互いの不満を一晩中吐き出していく……。

ウルフなシッシー AV監督と売れない女優

(C)楽しい時代/モクカ

いやはや、たったこれだけのプロットで1本の映画が成立してしまうのか? 

それができてしまうのだから、映画というものは実に面白い。

しかもこの痴話喧嘩、その罵詈雑言の数々に半ば呆れつつも、ふと我が身を振り返ると他人事に思えない瞬間もあったりして、どうにもいたたまれない気持ちにさせられてしまう!?

とりあえず、一見強そうなのはやはり女である。

怒りの感情に任せて、ひたすら辰夫をののしるアヤコ。

しかし、そんな彼女の罵倒を辰夫はノーテンキな風情で交わしつつ、アヤコのパチンコ依存症に話題をふると、一転して彼女はしどろもどろになっていく。

そんな攻守逆転の瞬間が劇中幾度かあり、観ている側にもそのつどシニカルな笑いと、何ともやりきれない溜息をもたらしてくれるのだ。

時折繰り出される映画やVシネマ、AVなどに関する発言の数々も妙にリアルで、これまた苦笑いするしかない。

はてさて、延々と(ダラダラと?)続く深夜の痴話喧嘩に、いったいどういうオチがつくのか?
(つかないのか?)

淀みまくったカップルに明日はあるのか?
(もっとも生きていれば、必ず朝はやってくるのだ……けど?)

これからも新たな才能はインディーズから台頭してくる!

監督&脚本&主人公の辰夫を演じるのは、『さいなら、BAD SAMURAI』(2016年)などの自主映画で注目され、これが初の劇場公開映画となる大野大輔。

映画の道を志すも、いつのまにかAVの世界に身を投じ、それでも夢をあきらめなさげの辰夫とは、大野監督の分身なのかと思わせるほどの不思議なリアリティが備わっている。

一言一言の台詞の面白さも、この監督ならではのセンスの賜物であろう。

対するアヤコには『獣道』(2017年)や『少女邂逅』(2018年)などのインディーズ作品で最近注目を集めている根矢涼香(ちなみにそれら彼女の出演作品も、軒並みクリーンヒット&ロングランとなっている)。

正直、男性からすると「何もそこまで言わなくても……」とおそれおののくほどキツい言葉を連発するアヤコだが、ちょっと弱みに付け込まれたときのうろたえかたが妙に可愛かったりして、ますます放っておけなくなる気持ちにさせてくれる好演。

本作は第18回TAMA NEW WAVEでグランプリ及びベスト男優&女優賞を受賞しているが、それも大いに納得のふたりなのであった。

日本映画界が若手を育成しなくなって久しい昨今、新たな才能はこういったインディーズの世界から台頭してくる。

特に今年は『大和(カリフォルニア)』、『四月は永い夢』、『ガチ星』、『馬の骨』、『少女邂逅』、『36.8℃ サンジュウロクドハチブ』などなど、どれも『カメラを止めるな!』級の賛辞を送りたくなるほどの豊作なのだ。

来年から元号も新たに変わるが、それを機に杓子定規ではない、さまざまな形態のユニークな映画が続々と生まれる時代が到来することを、それらの作品群は示唆しているかのようだ。

もちろん、その中に『ウルフなシッシー』も含まれている。

いずれにしても今、日本映画が本当に面白いところへ上りつめようとしていることだけは、間違えようのない事実であると断言しておきたい。

(文・増當竜也)

※興行通信社調べ