ダウンタウン定番の大晦日特番に「絶対に笑ってはいけない〇〇」シリーズがあります。ルールがきわめて単純で、わかりやすいのが人気の一因でしょう。この番組はお笑いなので、お尻を叩かれるだけの罰ゲームで済みます。しかし、ホラー映画では、「〇〇してはいけない」という禁止されたルールを破ると、世にも怖ろしい目に遭ってしまうことが……。

元祖・眠ってはいけない…『エルム街の悪夢』シリーズ

1984年に製作された『エルム街の悪夢』。同作に登場する、焼けただれた顔と鉄の爪を持つ殺人鬼フレディ・クルーガーが出現するのは“人の夢の中”です。眠らなければ彼に襲われることはないのですが、人間に睡眠は不可欠。ついついウトウトしてしまい鉄の爪に引き裂かれる犠牲者が続出します。

夢の中では不死身で、どんな姿にも変身でき、意表を突いたところから出現して、残虐な攻撃で主人公を追い詰めるフレディ。その殺害方法のバリエーションと、残酷さの中にユーモアもにじませたフレディのキャラクターがウケて、全7作にも及ぶシリーズになり、リメイク版(2010年)も作られました。

灯りを消しても、息をしてもいけない…

『エルム街の悪夢』以降、「〇〇してはいけない」という要素を取り入れたホラー映画が作られてきました。その中でも一つの「〇〇してはいけない」というシチュエーションがもたらす恐怖をとことん突き詰め、そのシンプルさゆえに怖さを増幅させた作品が2016年に立て続けに公開され、世界中に強い印象を残しました。

まず、「灯りを消してはいけない」という『ライト/オフ』(2016年)。何もいなかったはずの場所、しかし灯りを消すと暗闇に怪しい影が浮かび上がります。あわてて灯りを付けると、やはり何もいない。しかし、再び消灯すると、その影はあなたの目の前に!…と、この映画では暗闇の中でしか存在できない魔物が襲いかかってきます。

「灯りを付けたままにしておけば大丈夫だろう」って? いえいえ、そういう時に限って電源が不安定になり、今にも停電しそうな状況に追い込まれていくのです……。映画を観た日の夜に、ふと部屋の電気を消すのが怖くなる。この強力なインパクトが、シチュエーションホラーの魅力といえるのではないでしょうか?

もう1作品の『ドント・ブリーズ』(2016年)では視覚ではなく、“音”が重要なモチーフとなります。ある若者のグループが盲目の老人がため込んでいる金を奪おうと、深夜に彼の家へと侵入。しかし、その老人は超人的な聴覚をもった元軍人で、しかもかなりの異常者なのでした。若者たちは屋敷に閉じ込められ、音を立てるとそこに向かって老人が襲いかかります。

まさにタイトル通り「息をしてはいけない」緊張感。さらに、灯りを消されると、暗闇は老人には何のハンデにもならないのに、若者たちは行動の自由も奪われてしまうのです。映画館の暗い館内とスクリーンの中の光景は一体化し、まるで自分が物語の世界に入り込んだかのように恐怖をあおってきます。

音を立てたら即死!…『クワイエット・プレイス』

『クワイエット・プレイス』/(c) 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

『ライト/オフ』や『ドント・ブリーズ』のように、一つの「〇〇してはいけない」というシチュエーションを突き詰めた作品が、9月28日に公開される『クワイエット・プレイス』です。「音を立ててはいけない」という点は『ドント・ブリーズ』と同様ですが、それが世界規模で展開されます。

物語の舞台は音に反応して襲いかかる“何か”によって生物がほとんど死に絶え、荒廃した世界。そこで、ある一家がかろうじて生き延びていました。彼らは手話で会話し、砂をまいた地面を裸足で歩くなど、音を立てないよう細心の注意を払って生活しています。しかし、制約だらけの日々に子どもたちの不満はつのり、母エヴリンの出産が目前に迫ってきます。彼らは沈黙を貫き、生き延びることができるのでしょうか……?

本作は、低予算ながら全米で初登場1位と大ヒットとなっています。“静寂”が支配する世界が異様な雰囲気を醸し出していて、約90分の間、観客も登場人物と同じ緊張感を強いられるのです。

音や声をだしたら、問答無用で襲いかかる“何か”によって殺されることがわかっていても、まったく音を立てずに生活していくことは困難です。床に突き出した釘を踏み抜いた時でも、悲鳴を上げずにいられるのか? 出産時の痛みに無言で耐えられるか? 赤ん坊の泣き声をどうすればいいか? 次から次へと襲いかかるアクシデントの数々にハラハラ、ドキドキさせられること確実の映画です。

ヒロインは『ボーダーライン』のエミリー・ブラント。夫役を彼女の実生活の夫であるジョン・クラシンスキーが演じ、監督・脚本も彼が手がけています。

(文/紀平照幸@H14)