将棋人気が止まらない。史上最年少でプロ棋士となった藤井聡太七段を筆頭に、永世七冠という空前絶後の偉業を成し遂げた羽生善治竜王、はたまたタレントとしてブレイクした加藤一二三九段らの活躍で、将棋界全体が注目を浴びている。

その熱は映画界にも刺激を与え、『聖の青春』(2016年)『3月のライオン』(2017年)と続いた将棋映画の系譜に満を持して登場したのは、かつて自身も奨励会に身を置いていた真打ち、豊田利晃監督だ。脚本を書いた『王手』(1991年)以来、真正面から向き合った将棋の世界は、アマチュアからプロへ異例の転身を果たした“しょったん”こと瀬川晶司五段の自伝的物語である。この実在の現役棋士役を任されたのは『青い春』(2002年)からの同志である松田龍平。16年ぶりとなる豊田作品への主演で望んだことは、現状を「超えていく」挑戦だった。

いつか将棋の映画を撮るんじゃないかと思っていた

(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社

豊田監督とは十代の頃から公私にわたり交流を温めてきた松田。その間も折に触れてその作品に顔を出してきたが、豊田監督のルーツである将棋を題材にした本作は、やはり特別な匂いがする。

「初めて『青い春』で豊田さんと映画をやったときから、豊田さんが将棋と縁があるということは知っていたから、いつか将棋の映画を撮るんじゃないかと思っていて、もしそれが実現したら絶対に出たかったので、呼んでいただいたことに、タイミングというか、なにか縁のようなものを感じました。嬉しい気持ちと同時にこれは大変そうな役だと思って」

それまでに豊田監督とは将棋の話をしたことも、将棋を指している姿を見たこともなかったというが、棋士を演じるにあたって所作や戦法への取り組みは言わずもがな。原作者の瀬川氏から全面的に直々の指導を受けたそうだ。

撮影の3カ月くらい前から駒を触っていた

(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社

「豊田さんからはとにかく駒を指す手つきを練習しといてと言われて。撮影の3カ月くらい前から駒を触ってましたね。将棋はもともと駒の動かし方を何となく知っていた程度で、一応指すことはできたんですけど、“詰む”までがなかなかいけなくて。今回、将棋指導で瀬川さんやプロ棋士の先生が直接教えてくれて、こんなチャンスはなかなかないなと思って、手つきだけでなく、強くなるべく将棋も教えていただきました。

教わってるうちにだんだん面白くなってきて、撮影の合間に携帯で将棋のオンライン対戦やってましたね。いま、300勝300敗ぐらいで(笑)。役者同士でも練習しながら指してたんですけど、みんな、めきめき腕を上げてて、負けたくなかったから、勝負を避けていたところはありました(笑)。顔の見えない相手と戦うより、やっぱり相手と向き合ってやる将棋はまた違うもので、負けるとかなり悔しいんですよ。もちろん自信があればあるほど悔しさは大きくなると思うけど、何気なく始めたのに、気づいたら本気になってたり。そういう意味でも将棋は面白いなと思いました。

投了するときに『負けました』と言うのが礼儀ですけど、この映画をやってからは友達と指すときも相手が言わないと終われないという気持ちになりますね (笑)。将棋は、まぐれで勝つことがないという話を聞いて、勝つことと負けるということを毎試合受け止めなくてはいけない。白黒がはっきりしたなかでの向き合い方が、棋士の指し方に繋がるような気がしました」

インタビューの続きは『キネマ旬報9月下旬号』に掲載。今号は「見たことのなかった、四度目の松田龍平×豊田利晃監督」と題して『泣き虫しょったんの奇跡』の特集を行った。松田龍平のほか、豊田利晃(監督・脚本)インタビュー、松田龍平×渋川清彦×新井浩文による鼎談を掲載している。(敬称略)

取材・文=那須千里/制作:キネマ旬報社