文=圷 滋夫(あくつしげお)/Avanti Press

最近やっとLGBT(性的マイノリティのうち、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称)という言葉が広まりつつあるという実感を持っているが、逆に「この人は一体どんな認識を持っているのだろうか?」と思わせられる、ありえない暴言を吐く政治家も大勢いる。そんな古い考えに凝り固まった人たちは、ぜひこの『愛と法』というドキュメンタリー映画を観て、堅い頭をほぐして欲しい。

全国の“困ってる人”を助ける弁護士夫夫(ふうふ=男性カップル)

カズ(南和行)とフミ(吉田昌史)は大阪の下町にて2人で法律事務所を営む弁護士で、私生活でも結婚し、猫と一緒に暮らすパートナーだ。2人のもとには少年事件や性的マイノリティに関するものなど、様々な依頼が舞い込む。映画はそのなかの主に3つのトピックを追いかける。

『愛と法』
(c)Nanmori Films
カズ(南和行さん=右)とフミ(吉田昌史さん=右)
9月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー(9月22日より大阪 シネ・リーブル梅田にて先行上映)

「ろくでなし子裁判」は、女性器をモチーフに社会のタブーや矛盾を突く作品を発表している美術家/漫画家が、わいせつ物陳列罪などで起訴された裁判。「君が代不起立裁判」は、卒業式の国家斉唱時に起立せずに処分を受けた教諭が、「思想、良心、教育の自由」の侵害として処分取り消しを求めている裁判。「無戸籍者裁判」は、現状にそぐわない古い民法規定や経済的/環境的状況が原因で出生届けを提出できず、戸籍を持たない1万人以上の困窮する人々についての裁判。いずれも一般常識や“普通”と言われる考え方で判断すれば、あまり良いイメージを持たれることのない、少数派の人たちが行っている裁判だ。

『愛と法』
(c)Nanmori Films
9月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー(9月22日より大阪 シネ・リーブル梅田にて先行上映)

しかし映画は裁判の過程については詳細を追わず、結果をあっさりと提示するだけだ。その代わりにカメラは2人のプライベートな空間に入り込み、その私生活を丁寧に写し撮る。2人はレインボー・パレードに参加し、家で普通にご飯を作り、弱音を言う相方をサポートし、そして毎日を力強く生きている。さらにカズは音楽が趣味で、作詞作曲にピアノの弾き語りも得意だ。

『愛と法』
(c)Nanmori Films
9月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー(9月22日より大阪 シネ・リーブル梅田にて先行上映)

理不尽に立ち向かう、底抜けの優しさと自然なユーモア

ときには依頼人や講演の聴講者から理不尽な言葉や差別的な発言を浴びせられて、怒り落ち込むこともある。それでもなお、「なぜそんなことを言ってしまうのだろう?」と、相手の生活環境の心配までもしている。このように彼らの会話の端々かはら、2人の底抜けな寛容さと優しさ、そして自然なユーモアが意図せずして溢れ出て来るのだ。それは2人にとって大きな力になっているはずだ。

法律に関する会話で特に印象的なのは、「社会の弱者を守る最後の砦という裁判所の機能が無くなったどころか、その役目を果たそうとする態度すら見せない」と、司法に対する失望と怒りを表明する場面だ。

もちろん法も人間自体も完全じゃないのは当然だが、ここ数年はテレビや新聞、SNSを通して、繰り返される強行採決や三権分立のバランスが崩れ行く姿を見せられて、それを完膚なきまでに思い知らされ、政治に対する諦めにも似た世の中の空気を個人的には感じている。

『愛と法』
(c)Nanmori Films
9月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー(9月22日より大阪 シネ・リーブル梅田にて先行上映)

それでもこの映画の中に、微かな希望を見出すことができる。それは2人が自分の人生に対して真摯に向き合う姿であり、そんな彼らから滲み出てくる愛だ。2人が関わる裁判には、当事者に対する2人の大きな愛が感じられるのだ。

カズとフミの日常から浮かび上がる、新しい家族の形

もう一つのトピックとしてカメラが追っているのが未成年のカズマだ。突然居場所がなくなってしまった少年だが、2人は躊躇なくカズマを受け入れて一緒に暮らすことを選択する。2人にとってカズマと一緒に暮らし自然な関係を築いていく過程は、まるで新しい形の家族を作っている日々だとも言える。

『愛と法』
(c)Nanmori Films
9月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー(9月22日より大阪 シネ・リーブル梅田にて先行上映)

カズが作った曲のミュージック・ビデオを皆で撮影し、完成した作品をYouTubeにアップして3人で楽しそうに眺めている姿を見て、思わずこちらも微笑んでしまう。カズマは主張することも2人を邪魔することもなく、ごく自然にゲイである2人を受け止めて一つ屋根の下で佇んでいる。そして彼の存在は第三者的な視点となって、淡々とした口調で2人について語っているのが面白い。カメラはそんなカズマの成長も映し出す。

映画の終盤、2人は里親になるための講習会に参加する。もし認められれば日本で初めての男性同士のカップルによる里親となり、それは本当の“新しい家族”のイメージを形作る本当の挑戦にもなるだろう。そして愛に溢れる2人であれば、優しさとユーモアを武器にどんな難局をも乗り越えて行くように思える。

何も知らなければ、世の中は何も変わらない

今、世の中の弱い立場の人間は、望むべきゴールを持てないだけでなく、同じスタートラインにさえ立たせてもらえていない。そんな状況のどこに人権があり、何が平等なのか? そう思わざるを得ない状況を地道に変えていくには、2人のように大きな愛を持って粘り強く一歩一歩進んでいく以外には無いだろう。

『愛と法』
(c)Nanmori Films
9月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー(9月22日より大阪 シネ・リーブル梅田にて先行上映)

カズがカミングアウトをしたとき、理解してくれない家族を責めたのだが、それに対して母親が言った言葉にカズは心を動かされた。「だって知らないもの。誰も教えてくれなかったもの」。知らない人を責めることはできない。まずは知ることから始めよう。何も知らなければ、何も変わらない。

戸田ひかる監督による本作は、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞、香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などに輝いている。