リピーターが続出し記録的ヒットとなった、ミュージカル・エンターテイメント映画『グレイテスト・ショーマン』(2017年)。日本でも観客からの熱い支持を受け、口コミがSNSなどで拡散。観客みんなで歌い、拍手しながら鑑賞する“応援上映”も開催され、サントラも各種ランキングで1位を獲得するほど人気を博した。

まさに“病みつき”になる人たちが続出した本作は、なぜここまでヒットしたのか? 『グレイテスト・ショーマン』の魅力を改めて検証してみよう。

あらすじ

19世紀半ばのアメリカ。駆け落ち同然で幼なじみと結婚したP.T.バーナムは、ニューヨークでの成功を夢見ながら、妻と子どもたちとつましく暮らしていた。そんなある日、倒産により会社を解雇されたことで一念発起した彼は、小人症の男や髭の濃い女性など、世間から隠れるように生きてきた人々を集めて開催したサーカスをヒットさせ、成功をつかむ。やがて若き相棒のフィリップを劇場運営のパートナーとして迎え、バーナムは一流のプロモーターとして認められようとしていたが、そんな矢先、彼の劇場に大きな危機が訪れる。

予告編

トニー賞男優ヒュー・ジャックマンの本気

本作は、1800年代のショービジネスの初期に、奇抜なアイデアと巧妙な宣伝手法で活躍した伝説の興行師、P.T.バーナムの半生を描いた作品だ。

主人公バーナムを演じたのはヒュー・ジャックマン。ワイルドなヒーロー役のイメージからは程遠い、家族思いで超ポジティブな主人公を嬉々として演じ、素晴らしい歌声とダンスも披露している。

彼は母国オーストラリアで活動している時代からミュージカル俳優として活躍し、ブロードウェイの舞台経験も豊富。2004年にはトニー賞主演男優賞を受賞している。本作の企画自体、ヒューが司会を務めてミュージカル風に演出された、2009年のアカデミー賞授賞式がもとになっている。

ヒュー・ジャックマンとバーナムの妻役を演じたミシェル・ウィリアムズ
James Devaney/GettyImages

若き相棒のフィリップ役には、『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』(2008年)以来のミュージカル復帰となったザック・エフロン。髭の濃い女性レティを演じたのはブロードウェイのベテラン女優キアラ・セトルで、その圧倒的歌唱力が話題となった。これら実力のあるミュージカル俳優たちが脇を固めている。

日本人はミュージカル映画が好き?

2017年12月に全米公開された直後は、批評家の受けが今一つで、低調なスタートを切った。しかし、観客の評価は非常に高く、ジワジワと人気を拡大し、最終的には1億7000万ドル(Box Office Mojo調べ)を超える異例のロングランヒットを記録している。

そして年明けの2月に日本で公開されるや、3日間で35万人以上を動員し、リピーターも続出。3か月以上に及ぶロングラン上映となり、興行収入も50億円(※)を突破する大ヒット作となった。

ニューヨーク市内の横断歩道で、ゲリラミュージカルを行った出演者たち
Josiah Kamau/GettyImages

なぜ、本作は日本でこれほど熱い支持を受けたのか?

ひとつの理由として考えられるのは、日本人はミュージカル映画を好む傾向にあるということ。2000年以降の主な公開作品だけでも、『オペラ座の怪人』(2004年)、『魔法にかけられて』(2007年)、『マンマ・ミーア!』(2008年)、『レ・ミゼラブル』(2012年)などの実写作品に加え、『アナと雪の女王』(2013年)や『SING/シング』(2016年)などのアニメ作品もあり、いずれも大ヒットを記録。さらに、ここ2年では、『ラ・ラ・ランド』(2016年)が44億円(※)の大ヒット、『美女と野獣』は2017年最大のヒット作となっている。

空中ブランコ乗りのアン役を演じたゼンデイヤ
Josiah Kamau/GettyImages

もちろん、どれも世界的なヒット作だが、その多くにおいて、日本が全米に次ぐヒットを記録している国なのだ。このことからも、日本はミュージカル作品がヒットしやすい国であると言えるだろう。

映画館を出た後、耳に残る優秀な楽曲の数々

ミュージカル作品にとって何より重要なのは、映画を観た後も耳に残り、口ずさみたくなるような優秀な楽曲があること。本作の最大の魅力は、その楽曲のクオリティの高さだ。ここでは特筆すべき3曲を紹介したい。

「The Greatest Show」

まずは、本作の象徴でもある「The Greatest Show」。

キャッチ―なメロディーと圧倒的なパワーを感じさせる曲で、メインを務めるヒュー・ジャックマンの力強い歌声から始まり、ザック・エフロンの爽やかな歌声にバトンタッチされていく。

劇中では、演出上オープニングとエンディングに分割されている曲だが、リリースされているサントラに収録されているものは、見事につながっているのがうれしいところ。一度聴いたらヘビーリピート間違いなしの名曲だ。

「Never Enough」

レベッカ・ファーガソン演じるスウェーデンの歌姫ジェニー・リンドの「Never Enough」も劇中で強烈なインパクトを残す名曲。

実はこの曲のみ、レベッカ本人の歌声ではなくアメリカの歌手ローレン・オルレッドの歌声をかぶせているのだ。見入ってしまうようなシーンにも関わらず、劇場の大スクリーンで観てもまったく違和感がないことに驚かされる。まさか別人が歌っているとは思いもしないはずだ。

このシーンで、レベッカは観客に違和感を与えないよう、ローレンの歌い方の抑揚や息遣いを完璧に真似て熱唱。ローレンもまた、レベッカの歌い方を完璧に真似て歌をかぶせている。作品のためにベストを尽くす、プロとしての姿勢に感服するエピソードである。

「This is Me」

本作でもっとも注目を集めた曲が、キアラ・セトルが歌う「This is Me」だ。

差別や偏見にさらされている人たちに対する力強いメッセージソングであり、本作の大きなテーマを表現する重要な曲である。キアラは撮影前の稽古でこの歌をプロデューサーたちの前で歌い、その圧倒的な歌唱力でレティ役に抜擢されている。

ジャパンプレミアに参加したキアラ・セトル
Jun Sato/GettyImages

彼女はもともとブロードウェイでバックコーラスで歌うことが多かったため、メインで歌うことに後ろ向きだった。そんな彼女が稽古で初めてこの歌を歌い、テーマ同様に殻を破って前に出ていく姿を押さえた映像が存在する。魂の歌声が全員の心を動かしていく瞬間をとらえた、まさに音楽の素晴らしさを凝縮した映像になっているので、未見の方は是非ご覧頂きたい。

“心地よい強引さ”に身を委ねるべし

ミュージカル映画として優れた要素を兼ね備えている本作だが、映画には賛否両論がつきもの。前述したように、本作は全米でも観客から高い支持を得たが、批評家の受けがあまり良くなかった。

本作のミュージカルシーンの素晴らしさは特筆に値するが、「差別や偏見」という大きなテーマの部分がやや省略されていて、満足な説明もないまま強引にストーリーが展開されると感じた人も少なからずいた。

船上で行われたワールドプレミア。ヒュー・ジャックマンとザック・エフロン
Mark Sagliocco/GettyImages

本作がドラマとしての完成度を高めるならば、ミュージカルシーンを削り、個人のドラマに多くの時間を割く必要があっただろう。この作品はあえてそれをせず、ミュージカルシーンの迫力で強引に感動に引きずり込む。シンプルでわかりやすいストーリーに特化し、主人公同様、あくまでポジティブにメッセージを伝え、観客が望む“地上最大のショー”を見せ続ける。それはまさに、実在した興行師P.T.バーナムがやろうとしたことそのものなのだ。

この強引さに心地よく身を委ねることができた時、本作はこれまでにない至上の感動を与えてくれる。

映画館という最高のミュージカル劇場

感動を最大のものにするために付け加えたいのが、映画館という場所。

昨今の映画館は、「IMAX」や「DOLBY ATMOS」など、映像と音響によって凄まじい臨場感を与えてくれる。本作のリピーターたちは、より良い視聴環境で楽しむため、設備のよい劇場へ詰めかけた人が多くいたという。ペンライトを振り、みんなで歌い拍手する応援上映イベントも大盛況。映画館はまさに、本作を何度も楽しむうえで、うってつけの場所だったわけだ。

スペイン・マドリッドのフォトコールにて
Fotonoticias/GettyImages

残念ながら、現在は本作を劇場で観る機会はそう多くない。しかしDVDやBlue-rayでは今一つ乗りきれなかった人は、イベント上映などが開催される時はぜひ劇場でご覧いただきたい。きっと本作の新たな一面が見えるはずだ!

※…一般社団法人日本映画製作者連盟発表

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