「目に見えない」青年エンジェルと「目が見えない」少女マドレーヌのロマンチックで奇妙な愛を、詩的な美しい映像でファンタジックに綴った『エンジェル、見えない恋人』(10月13日より公開)。少女が視力を取り戻す手術を受けたことによって、「見えない恋人」に対していったいどのような反応を示すのか。「見えない恋人」の愛し方を、ヒロインとともに探っていくかのような官能性を秘めた作品なのだ。

「見えない」主人公の視点で展開されるファンタジックな映像世界

宙に浮かんだ真っ赤な傘と赤毛の少女の不思議なポスタービジュアルが目を引く『エンジェル、見えない恋人』は、ほぼ全編にわたって、いわゆる「透明人間」である主人公エンジェルの視点を通して描かれる、ちょっと異色のラブストーリー。製作を手掛けているのは、『神様メール』の監督として知られるベルギーの至宝、ジャコ・ヴァン・ドルマル。監督は、彼の長年の友人でもあるハリー・クレフェンだ。

意地悪な神様がパソコンで人類の運命を操作する『神様メール』(2015年)のドルマル監督が製作総指揮をつとめているとあって、単なるファンタジックなおとぎ話には終わらないのが、この作品の面白さ。一見したところピュアでロマンチックな恋物語であることは確かだが、『神様メール』でカトリーヌ・ドヌーヴがゴリラとベッドインしていたように、「見た目」に囚われがちな人間の本質を鋭く突いてくる、ブラックユーモアに包まれたホラーテイストの問題作であるとも言えるのだ。

(C)2016 Mon Ange, All Rights Reserved.

マジシャンの恋人に捨てられ、心を病んでしまった母ルイーズの息子として生まれたエンジェルは、誰の目にも見えないという特異体質の持ち主。母に溺愛され、世の中から隔離されて育ったエンジェルが、近所の屋敷に住む盲目の少女マドレーヌと出会うところから、この奇妙な物語が動き出す。つまり、エンジェルが病んでいる母だけに見える妄想上の息子ではなく、「見えない」だけでちゃんと実体を伴っている存在であることが分かるからだ。

怪しむ素振りも無く「こんにちは、はじめまして」と手を差し出す盲目のマドレーヌに、エンジェルは思わず「僕のことが見えるの?」と訊ねる。が、それに対し「見えないけど、声と匂いがするから」という彼女の答えにハッとさせられる。普段から誰のことも「見えない」彼女にとって大切なのは、実際に「見えているかどうか」ではなく、あくまで声や匂いであり、触れたときの感触だけなのだ。

幼いなりに一瞬にして惹かれ合った二人は、息遣いやシンプルな言葉で互いの存在を求め合うが、その幸福な関係性が成り立つのも、エンジェルの特異体質をマドレーヌが知らないからこそ。さて、「愛するエンジェルの姿を見たい」と願った彼女が、視力回復手術を受け、さらに美しい女性に成長してエンジェルの前に再び現れたとき、果たして二人の愛はどう変わってしまうのか……。

大人になった二人が、あえて目隠しして逢瀬を交わすシーンは、CGに頼りきっておらず、フェティッシュで実に官能的だ。それゆえ「秘密を打ち明けても彼女は自分を受け入れてくれるのか」というエンジェルの葛藤は、ファンタジーであるからこその切なさに満ちている。

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巧みに入り混じる主観と客観が明らかにする物語の特異性

エンジェルの視点を象徴する主観的なショットと、「見えない」彼を外側から捉えた客観的なショットが巧みに入り混じることで、物語の特異性が明らかになるのもこの作品ならではの特徴だ。手持ちカメラと長焦点レンズを用いた、被写界深度の浅い映像からは、あたかもエンジェルの内側に入って彼の瞳を通じて世界を眺めている気分が味わえる。一方、エンジェルの視点から外れた場面ではカメラがしっかり固定され、シーツの下の彼の身体や、椅子に身体を沈めたときの重み、シンクの水を受ける手など、「見えない」エンジェルの姿を客観的に確認することができるのだ。

ちなみに、本作の撮影監督を務めているのは、ジュリエット・ヴァン・ドルマル。その名前からもわかるように、製作総指揮であるジャコ・ヴァン・ドルマル監督の実の娘だ。過去には『八日目』(1996年)や『ミスター・ノーバディ』(2009年)といったドルマル監督作品に女優として出演していた彼女が、若き仲間を引き連れ、父の友人のためにスタッフとして参加。撮影部門に特化したポーランドの国際的映画祭で撮影技術者に贈られる新人賞を本作で見事受賞するなど、その才能は高く評価されている。

赤毛のヒロインを官能的に演じるのは、パリ出身の新人女優フルール・ジフリエ。長編映画初主演とは思えぬほどの存在感を放ち、「気品と威厳をもたらしてくれた」と監督も太鼓判を押すほどの逸材だ。まさに彼女の繊細な演技なくしては、荒唐無稽とも言えるこの世界観を見事に成立させるのが容易ではないことは、彼女の青く透き通る瞳を一目見ただけでも十分伝わってくる。

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「見た目」以前に、その人をその人たらしめているモノとは何なのか。『エンジェル、見えない恋人』は、今話題の『寝ても覚めても』や『かごの中の瞳』といった作品を通じて「見た目」と「愛の正体」について打ちのめされた人にこそ、是非見て欲しい1本だ。儚くも皮肉めいた結末に、唖然とさせられるに違いない。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)